本の手紙~前編~
膨大な書物の整理をしていた。
この世界では本は貴重であるため、これだけでも一財産となる。
どのようにして手に入れたのか?
この世界では本が少ない。
だからこそいるのだ。本のコレクターというものが。
もう、本ならなんでもOK、とりあえず集めるって人がいた。
73歳の好事家で、俺も手に入れた本を譲ったりしていた爺さんだ。
だが、その爺さんが三日前に亡くなった。
簡単な葬儀で見送られた。
この世界では73歳は高齢も高齢、大往生だ。
そのため彼の死は覚悟されていたらしい。財産分与なども担当の財産管理士が行い、何の問題もなく終わったそうだ。
ただひとつ。
彼のコレクションをどうするか。
その本が俺の手元にあるということからもわかるように、俺が引き取った。
お金をしっかりと払って。
放っておけば家具やら調度品と一緒に二束三文で売り払われるところだったが、俺が買い取ることにした。
金貨30枚と高額なのだが、あの爺さんはいつも、本のために金貨数百枚は費やしたと言っていたから安い買い物だと思えば安い買い物だ。
「にしても、本当に纏まりがないな」
本ならなんでもいいとは聞いていたが、どう整理すれば歴史書の間に恋物語の本を挟めるんだ?
とりあえず、全部出してみたが、どうしたものか。
とりあえず、魔王城リフォームのさいに作っておいた倉庫に全部並べてみたが、うーん、アイテムバッグの中に入れたままにしておくのも本が泣くしな。
爺さんの本が、コレクションとしてではなくただの本として処分されるのが嫌だったから引き取ったんだ。
たとえて言うなら、俺のパーカ人形コレクションがばら売りされるようなものだ。
まぁ、この世界には本のコレクターも多いだろうから、爺さんの本の正しい価値を理解してくれる人を探して、その人に買ってもらうか。
「わぁ、コーマ、凄いわね」
ルシルは入ってくるなり圧倒された。
凄いだろうな。
なにせ一代で財を築き上げた爺さんの唯一の趣味だからな。
その数一万と七千冊以上。
正直、大きめに作ったはずの倉庫がいっぱいいっぱいだ。
「これ……魔法書もあるじゃない」
ルシルはその中から一瞬のうちに目的の本を見つけだしたようだ。
「魔法書? あ、本当だ。でも、魔法書って読んだら消えちまうだろ?」
「それはコーマの作ってる魔法の巻物のことでしょ。そんな便利なものはそれこそ滅多にないわよ。魔法書っていうのは、その人が独自に作り上げた魔法の理論だったり、応用理論だったりするのよ。大半は理論とは名ばかりの、コーマの世界の中学二年生が書くような黒歴史本だったりするんだけどね、それはそれで面白いのよ」
俺の世界の中学生全員が中二病に罹患するような言い方はやめてほしいんだが。
ルシルは本を数冊抜き取り、持って行った。
暫くして、コメットちゃんがやってきた。
「コーマ様、今、ルシル様から伺ったのですが、大量の本があるとか」
「あぁ、コメットちゃん。まぁな。何か読みたい本があるの?」
「はい、お料理の本などがあればぜひ」
料理の本か。
「あぁ、そういえば爺さんのお勧めでいい本があったな。魔物の素材を専門に料理をする料理人の店が、魔物のいない世界に繋がってしまって、魔物料理を振る舞って驚かれるっていうコメディー小説なんだよ」
「それも気になりますが、普通に料理のレシピの書いている本ってありますか?」
もちろん普通の料理のレシピ本もあるので、コメットちゃんにコメディー小説を含めて二冊の本を渡した。
「主、本が大量にあると聞いたのだが、武器百科はあるでしょうか?」
「今度はタラか。あぁ、あったと思うが、どこだったかな。そのあたりだと思うから探してくれないか?」
さて、これほどに大量な何故俺が本の場所を知っているか?
それは本を並べている時に、タイトルだけさらっと見て、この本ならコメットちゃんが読みたいだろうな、とか、この本はタラが読むだろうな、みたいに思っていたからだ。
まるで図書館の司書をしているような気分だが、実際は一割程度も把握していない。
その後もゴブカリが来ては軍記物語を、マネットが来ては生物学の本を、マユが来ては自己啓発本を持って行った。そして、俺は最後に七冊の本を持って倉庫の扉を閉めた。
七冊のうちの六冊は絵本だ。
俺はその本を持ってスライムたちの部屋に向かった。
本来はスライム用トレーニングルームなのだが、すっかり遊び部屋になっている。
部屋に入ると、鉄棒に七匹のスライムと一緒にカリーヌがぶら下がっていた。
「ぶらんぶらん、あ、コーマお兄ちゃん! やっほぉ!」
カリーヌがぶらんぶらんと口で言いながら片手を振る。
「カリーヌ、新しい絵本があるんだが、読んでやろうか?」
「うん、読んで読んで! みんなで聞きたい!」
「紙芝居じゃないんだが……ま、いいか」
俺は笑顔で絵本を広げ、カリーヌと七匹のスライムに絵本を読んであげた。
本を読みながら、七匹のスライムに囲まれているカリーヌのほうがよっぽど絵本のヒロインだよなと思った。
結局六冊の絵本のうち四冊も読んでしまったが、なぜか爺さんの本には絵本が特に多かったからな。
当分ネタには困らないだろう。
そして、俺は自分用の本を一冊持って、部屋に戻った。
思えばこれが一番楽しみだった。
アイテム図鑑。
俺のじゃない。爺さんのアイテム図鑑だ。
他人の使用済みアイテム図鑑を見るのははじめてだからな。
部屋に帰り、俺はアイテム図鑑を開いた。
あの爺さん、何度頼んでも中身を見せてくれなかったからな。
もしかしたら見せられない訳があるのかもしれない。
たとえば、72財宝があるとか。
だとしたら、そのアイテムの名前を知るチャンスだ。
そう思って本を開き、
「あれ?」
本はほとんどアイテムが登録されていなかった。
せいぜい50種類、最高レア度も【★×5】だ。
肩透かし、期待外れ、そんな言葉が脳裏をよぎった、その時だ。
アイテム図鑑から何かが落ちた。
それは封筒だった。
真っ白ではないが、古いものでもない、そんな封筒。
俺はその封筒の裏を見た。
【最愛なる蒐集仲間、コーマへ】
爺さんが残した手紙……か。
俺はアイテムバッグの中からペーパーナイフを取り出した。




