孤児院での日常
「なぁ、コーマ兄ちゃん、また仕事さぼってるのかよ」
久しぶりに孤児院を訪れた俺に飛んできたのは、そんな辛辣な声だった。
もちろん、そんなことを言うのはカイルだ。
「うるせぇ」
金色の髪をぐしゃぐしゃにしてやった。
「さぼってるんじゃないって。ほら、こうして草むしりをしてるだろ?」
「うわ、コーマ兄ちゃん、土のついた手で髪に触んなよ!」
実はこの教会で採れる草が、マヒアヒ草という、そのままだとただの雑草だが加工することで、飲み物に溶かすと炭酸飲料になる薬ができる。
今、俺がしているのは、コーラの完全再現作業だ。
ただ、どうやってもあの会社のコーラだけが再現できず、こうしてたまに教会に来ては草むしりをしているわけだ。
もちろん、代金はしっかりと払っている。メイベルが。
多額の寄付をしていて、今は教会の改修工事も行われているだけでなく、週に一度臨時教師を雇い、孤児たちにも教育を施しているそうだ。
草むしりを終えた時、修道服を着た50歳くらいの女性がこちらに近付いてきた。
この孤児院の責任者であり、教会の管理者である修道女だ。
「コーマさん、ありがとうございます」
彼女は頭を下げた。
「もしよろしければ、ハッカ茶でも飲んでいきませんか?」
「あ、すみません、ご馳走になります」
「ふふふ、このハーブもコーマさんが持ってきたものですよ」
そう言えばそうだった。
子供の舌にはかなり不評で余っているってカイルが言っていた。
「俺は大人だからハッカ茶の味もわかるけどな」
と自慢げに語っていたので、周りにいた子供たちに、「おおい、リンゴジュースあるけどみんな飲むか? あ、カイルはハッカ茶のほうがいいよな?」と言ったら、本気で拗ねていた時、俺は大人げないなと思った。
シスターがお茶を淹れにいったので、俺はその前に、アイテムクリエイトでマヒアヒ草を薬へと作り替えた。
白い粉が七袋になった。
麻袋の中に入っている白い粉を見て、この麻袋はどこから生まれたんだ? という疑問はもう感じなくなっていた。慣れって恐ろしいな。
「コーマさん、お茶が入りましたよ」
「あ、はい」
立ち上がり、俺は一瞬麻袋の山を見た。
まぁ、危ない薬じゃないからいいか。
食べても問題ないし、料理に使っても感触がおかしくなるだけだ。
前にこの粉をパンに混ぜたことがあったが、新食感の弾けるパンができて、それはそれで美味しかったからな。
後でアイテムバッグに入れると決め、俺はハッカ茶を頂くべく、孤児院の中へと向かった。
もちろん、ただご馳走になるだけだと悪いので、アイテムバッグの中に入れてあった数十種類のプチケーキを提供したところ、子供たちとの取り合い勝負になった。
もちろん、反応の神薬を大量に飲んでいる俺に死角はない。
効率的に食べたいものを奪って食べ、子供たちが抗議の意味を込めて後ろからのしかかってきた。
もちろん、力の神薬を大量に飲んでいる俺がその程度で参るはずはない。
うん、我ながら大人げないが、勝負には大人も子供もない。
これも子供達の成長へとつながる。
……悪い、やっぱり大きなイチゴが乗っているショートケーキを食べたのが悪かったようだ。
子供達の目が怖い。
「よし、みんな! 今日の夕食は俺が最高に旨いものを作ってやる! デザート付きだ!」
俺がそう言うと、子供達が笑顔になって跳ね上がった。
前に一度子供達に料理を作ってやったとき、また作ってと言われていて結局これまで作っていなかったからな。ちょうどいい機会だ。
「すみません、コーマさん。ケーキだけでなく夕食まで用意していただくなんて……」
「気にしないでください、前に子供達とした約束を守っているだけですよ」
「そうそう、約束を守るのは大事だよな、コーマ兄ちゃん」
カイルがそう言って俺の背中を叩いた。
「カイル、コーマさんに失礼ですよ。それより、井戸にさらし粉は入れたんですか?」
「すぐやってきまぁす!」
カイルはそう言って、部屋を出ていった。
※※※
その日、俺は孤児院で、クリスも呼んで美味しく料理を食べ、炭酸粉を持って帰った。
その時、俺は気付かなかった。
気付くはずが無かった。
炭酸粉の量が僅かに減っていることに。




