魔王退治 ~後編~
何故か巨大なヒヨコの上にルシルがいた。
「コーマ、どうしたの?」
「じゃあぁぁらくしゃぁぁぁぁっ!」
意味の分からない掛け声とともに、俺はアイテムバッグの中から煙玉を取り出し、それを地面へと投げつけた。
あたり一面が一瞬のうちに煙に覆われた。
「こほっ、こほっ」
「何すんだい、コーマ!」
シーがむせてスーが叫ぶが、俺はそれどころじゃない。
目の前の巨大なヒヨコの影を見つけ、それを抱えて、全力で走った。
巨大なヒヨコはその大きさの割には軽かったが、それでも35キロはあった。ルシルを合わせて70キロ強はある重さだった。
「キャァァァァっ!」
ルシルの叫び声が森に響き渡った。
※※※
「何するのよ、コーマ! 目に煙が入っちゃったじゃない!」
「お前こそ何してるんだ! 魔王城にいたんじゃないのかよっ!」
巨大ヒヨコの上でこほこほと咳をしているルシル。
彼女が自主的に迷宮の外に出ることにも驚きだが、こんなところにいたのも驚いた。
「ほら、メディナの封印を解いたときに、そういえば他にも部下を封印していたのを思い出したのよ。このピーちゃんもその一匹なのよ」
ピーちゃんと呼ばれた巨大なヒヨコは、その黄色い羽を上げた。
こっちの言葉がわかるんだろうか?
「なぁ、ルシル。そのピーちゃんって、何て名前の鳥なんだ?」
「なんだったかしら? ヒヨコだったかしら?」
「それは絶対に違う……と言い難いんだが」
うん、大きさを除けばどう見てもヒヨコだもんな。
でも、大きさはやはり重要だ。
象よりも大きなヒヨコがいてたまるか。
「もしかして、マザーバードって名前じゃないのか?」
「あぁ、それよ。うん、ピーちゃんはマザーバードね」
やっぱりそうか。
「俺はこのマザーバードの嘴を取りに来たんだよ。アルティメットポーションで治療してやるから、その嘴をとってもいいか?」
「ピーちゃんの嘴を?」
ルシルは巨大ヒヨコから降り、じっとその瞳を見つめた。
「……ねぇ、コーマ。コーマの頼みならできる限り聞いてあげたいと思ってるわ。でも、やっぱりピーちゃんは家族なのよ」
「……ルシル」
そうだよな。
たとえ、いままでその存在をすっかり忘れていたとはいえ、家族の嘴を傷つけることなんてルシルにできるはずがないよな。
「ルシル、俺が悪か――」
「DXチョコレートパフェ三週間分で手を打つわ」
家族の嘴は案外安かった。
「その条件で手を打とう」
「わかったわ。ピーちゃん、ちょっと痛いけど我慢して――いたっ、痛い痛い、ちょっとピーちゃん、何をするのよっ! いた、いた!」
ピーちゃんのつつく攻撃がルシルの頭頂部を二回攻撃し、さらに今度はツインテールの左側を噛んで引っ張った。
あぁ、やっぱりこっちの言葉を理解しているのか。
「大変、女の子がマザーバードに襲われているわ!」
「……助けないと」
うわぁ、この非常事態の中、スーとシーが追いついて来た。
「くそっ、こうなったら力づくで嘴を切り取ってやる! 悪いが我慢しろよ!」
俺はそう言うと、エクスカリバーを構える。
ピーちゃんはじっとこちらを見つめた……少しびびっているようだ。
すると、
「ピヨォォォォっ!」
ピーちゃんは咆哮とともに飛び上がった。
ピーちゃんが空を飛んだのだ!
「はぁぁぁ!? あの巨体で飛ぶって物理法則を無視してるだろ!」
しかも、ルシルのツインテールを咥えたままだ。
つまりはルシルも一緒に飛んでいる。
これじゃ、魔法で攻撃することもできない。
下手に攻撃したら、ルシルがそのまま地上に真っ逆さまだ。
やはり、直接あの嘴を斬りおとして、その手で助けるしかない。
と思ったら、
「こんの、バカ鳥ぃぃぃっ!」
突如、ルシルから力が溢れて来た。
「コーマ、気のせいかもしれないが、捕まっているあの子、少し大きくなってない?」
「……成長期?」
スーとシーが疑問を口にする。
気のせいじゃない。
ルシルが魔力を高めて一時的に成長したのだ。
そして、
巨大な爆炎がピーちゃんを包み込んだ。
落ちてくるルシルを受け止め、「他人のふりな」と囁くように言った。
ルシルは黙って頷き、
「どこのどなたか存じませんが、助けてくださりありがとうございます」
とルシルは俺達三人に頭を下げた。
うん、なかなかいい演技ではあるが、
「助けたっていうか」
「……勝手に助かっただけ」
スーとシーが言った。
だよな。
マザーバードを倒したのはルシルだし。
「きっと、あのマザーバードも天国で幸せになることでしょう」
空ではまだ炎の玉がピーちゃんを飲み込んでいる。
容赦ないな、こいつ。
……生きていたら治療してやるか。
そう思った時、炎が沈静化し、そして俺達は今度こそ言葉を失った。
ヒヨコだったはずのピーちゃんの姿はスリムボディーへと生まれ変わり、細い体に炎の両翼を持つ姿へと生まれ変わっていた。
その姿はどこからどう見ても――
「え……うそ、フェニックス?」
ルシルが呟いた。
そう、その姿はどう見ても不死鳥、火の鳥、フェニックスだった。
ピーちゃんは生まれ変わった姿を俺達に見せると、そのまま背を向けて飛び去った。
その飛び去る姿はまるで一枚の絵のようにも見えた。
「……世界って広いわね」
「……だな」
ルシルのつぶやきに、俺は頷いた。
そして、
「なぁ、コーマ。あの火を纏った鳥が飛び去ったせいで、あちこち木が燃え始めてるわよ」
「……このままでは大火事」
…………はぁ。
「じゃあぁぁらくしゃぁぁぁぁっ!」
俺はアイテムバッグからウォーターボムを取り出し、空に放り投げた。
巨大な水球が空に現れ、多くの木々をなぎ倒し、大さな池が作れるくらいの水が地上に溢れた。
こうして、森の大火事は防げたが、結局、スーとシーの仕事は失敗で終わった。
もはや魔王退治でもなんでもない。




