魔王退治 ~中編~
「いや、魔王退治って、そんな気軽に、『そうだ、京都に行こう』みたいに言われてもこっちは心の準備がないんだが」
「……キョート?」
シーにとっては聞き慣れない地名だったのだろう、首を傾げて言った。
いや、そこは問題じゃないんだが。
魔王の中でもベリアルやエントのような奴だったら、今の状態の俺なら間違いなく死ねるぞ。
楽に死ねるかどうかはわからないが、ルシルがいないと竜化もできないからな。
もちろん、魔王の中には、マネットやマユ、ブックメーカーのような奴もいるから、一概に殺せばいいってもんでもない。そこがまた難しいところだ。
「魔王って、まさかコーマ、魔物の王様の魔王のことを言ってるのかい? ははは、そんな伝承の中にしかいないような化け物相手にするわけないだろ? ついこの間もゴブリン王が復活するって言って騒いでいたけど、結局何もなかったしね」
「だ、だよな。魔王なんているわけないよな」
俺は笑いながら安堵のため息をもらした。
「で、その魔王ってなんなんだ?」
「魔王というのはある魔物の俗称さ。聞いたことないかい? 空の魔王マザーバード、地の魔王クイーンスネーク、海の魔王カオ・エポラールの三種の魔物のことさ」
「海の魔王だけなんの種類かわからないんだが」
「今は海は関係ないよ。私達の標的は空の魔王マザーバードだからね。なんと、マザーバードの嘴に金貨1300枚かけられてるんだよ」
「金貨1300枚か。そりゃ確かに凄いな」
前までは金貨1300枚と聞いたら一度日本円の13億円に変換してその高値に驚いていたものだが、こっちの世界にきてもうすぐ1年。
いまでは金貨1300枚と聞いただけでも十分に高いことがわかるようになってきた。
というか、最近は日本円で考えなくなったこともある。
こちらの世界に慣れてきたんだろうな。
「ところで、その嘴って、何に使うんだ?」
「さぁ……ただ、聞いたところによると、マザーバードの嘴は何か薬の材料になるらしいから、それに使うのかもね」
薬の材料か。
毒キノコよりも面白い薬が作れるかもしれないな。
よし、俺も一緒に行ってみるか。
「いいぜ。だけど、今から行ってすぐに帰れる場所ってことは、迷宮の中なのか?」
「いや、キータライムの森さ」
※※※
ラビスシティーには東西南北、それぞれ四つの国の交わる場所にある町だ。
北がビル・ブランデ、南がコースフィールド、西がアイランブルグ。
そして、俺達が行く東の国マイルド。
もちろん、マイルドの国に入るための国境はあるのだが、その門を通るものはほとんどいない。
ラビスシティーの中に住む狩人がたまに通るくらいだ。
なぜなら、ラビスシティーの東側の門を出たら、そこはすぐに森なのだ。
しかも、鬱蒼と茂る森で、多数の動物や魔物が生息する。
俺も何度か行ったことがあるが、二十分歩けば道に迷い、結局、樹を登って樹の天辺から辺りを見てようやく元の場所に戻れたくらいだ。
しかも、登った木というのが樹皮に毒をもっていたため、手がとても痒くなったのは今でも覚えている。
その森の名前がキータライムの森。
その森には凶暴な魔物も生息するため、街道の整備もできず、マイルドからラビスシティーに行くにはビル・ブランデかコースフィールドを経由して入ることが多い。
鬱蒼としげる森の中だ。
太陽の光がほとんど差し込んでこない。
確かに鳥の声は聞こえるが、こんなところに巨大な鳥が来たら、まっすぐ飛べないだろ。
「本当にこんなところにいるのか、そのマザーバードってのは?」
「ああ、間違いないよ……というか、時間がないから、もう来るんじゃないかな?」
「時間がないってなんだよ、おい」
「……短編処理」
短編?
短編って何?
スーもシーも意味のわからないことを言っている。
でも……ふたりの言っていることはウソじゃなかった。
索敵スキル、俺の魔物を察知する力により、何かがこちらに近付いてきているのは間違いない。
ガサガサ
何かが動いた。
茂みが揺れる。
「来たか、マザーバード!」
俺はアイテムバッグの中から、エクスカリバーを取り出し、構えた。
悪いが、こちとら毎日タラと剣の稽古をしているんだ。
たかが鳥ごときに負ける理由がない。
とっととその嘴を置いて去りやがれ!
という意気込みだった。
そして、その巨体は姿を現した。
体長五メートルはある。たしかに鳥としては巨大な方だろう。
ダチョウよりも大きい。
黄金色に輝く嘴。
何を考えているのか全く分からない黒い瞳。
二本の細い脚。
そしてふわふわの黄色い羽毛。
なにより、
「ピヨピヨ」
その可愛らしい泣き声に、
「マザーバードっていうより、チャイルドバードじゃねぇか!」
俺は思わず叫んでいた。
すると、俺の叫び声に反応するように、その黄色い羽毛の中から銀色のツインテールが現れた。
恐らく、世界一可愛らしい、そして世界一生意気な美少女――
「……あれ? コーマ、何してるの?」
ルシルが何故かそのヒヨコに乗っていた。




