魔王退治 ~前編~
「こちらが依頼の品になります。代金は従来通り、コーマさんの口座より引かせてもらいます」
レメリカさんが依頼の品を俺に渡し、事務手続きを済ませる。
さっきからこっちにその蒼い瞳を向けようとしてこない。
まぁ、目が合ったら何を言われるかわからないのでありがたい話だが。
「ありがとうございます」
それよりも、俺はこれらの品のほうが気になるよな。
パーカ人形の入っている箱を100セット。
それと、町の外に生えている大量の毒キノコだった。
毒キノコも薬の材料になる。
いや、むしろ毒キノコのほうが薬の材料になる。
この前見つけた神経毒を持つ紫色のバッカ茸は、記憶力を高める薬になるからな。
さて、この中で俺が見たことのないキノコが何種類あって、どれだけのアイテムを作ることができるのか。
楽しみだな。
とりあえず、手に入れたアイテムのチェックは帰ってからすることにした。
「おや、コーマじゃないか。久しぶりね」
「……どこ行ってたの?」
声を掛けられて振り向くと、
「……あぁ、スーとシーじゃないか。久しぶりだな」
スーはクリスと同期の勇者であり、暗器使いの少女。
シーはそのスーの妹だ。
実はふたりとも、南のジンバーラ国の国王の妹、つまりは先代の国王の娘という一風変わった出自の持ち主なのだが、その兄弟姉妹がふたりと現国王以外にも100人以上いるため、自分達が王家の血筋を持っているという実感はあまりないらしい。
「なんだろうね、この間。……もしかして私達のことを忘れていたんじゃないだろうね?」
「あはは、そんなわけないだろ」
やばいな、本当に忘れかけていた。
第二、第三のマユを生み出すところだった。
いや、マユも最近は忘れられキャラとして定着しているからな。
……記憶力を高める薬ができるキノコってどこに生えていたかな。
「また遠い目になってるね。なぁ、コーマ、この後暇かい?」
「……時間、ある?」
あぁ、このふたりがこう訊ねるってことは、きっと俺に仕事を手伝わせようとしているのだろう。
「悪いなこの後はなんと、パーカ人形の全開封という俺のお楽しみ時間が――」
「つまり暇なんだね、ちょうどよかったよ」
「……運がいい」
ヒトの話を聞かないのか、こいつらは。
忙しいと言っているのに。
「ところで、クリスはどうしたんだい?」
「あぁ、あいつなら、実家の商会でレモネの奴がいつも以上に盛大にすっころんで、足の骨を折ったらしくてな、そっちに薬を届けにいってるんだよ」
「それは都合がい、じゃなくて大変だねぇ」
「……ラッキー」
スーの奴は隠すのは下手、シーは隠すつもりがないようだ。
「はぁ……簡単に終わる仕事なんだろうな?」
結局、スーとシーの仕事に付き合わされる羽目になるんだから、俺はもう諦めることにした。
それに、なんだかんだ言って、このふたりを含め、この町にいた勇者達にはゴブカリの事件の時に多大な迷惑をかけている。ふたりは俺が原因だなんて夢にも思わないだろうが、それでも借りは返さないとな。
「あぁ、簡単だよ」
「……とてもイージー」
ふたりが言う。
スーが笑顔で、シーは表情を変えずに言った。
「どんな仕事なんだ? まさか、またお前のところの爺さん絡みじゃないだろうな?」
「違う違う、本業の仕事さ」
「本業? 賞金稼ぎだったっけ?」
スーとシーは賞金稼ぎの姉妹として有名だったんだよなぁ。
すっかり忘れていたけど。
「ということは賞金首の捕縛か? まぁ、確かに俺達なら楽勝だよな」
例えばその賞金首が「凶悪殺人犯」だったとするなら、「はぁ? 殺人犯の捕縛のどこが簡単な依頼なんだよ!」と叫ぶところだが、生憎、俺達は普通じゃないんだよな。
スーもシーも暗器使いとしては一流だし、俺もたかが凶悪殺人犯ごときに後れをとることはない。
つまりは楽勝だ。
俺が言うと、スーも笑って言った。
「あぁ、そうだね。魔王を退治するだけだし、楽勝な仕事だろ?」
「…………」
楽勝じゃねぇぇぇぇっ!




