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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Extra01 短編集

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好事家との交渉~後編~

「いやぁ、まさかコーマ殿、お目が高い。そうです、このパーカ人形の中でもミックには101種類があるんですよ。いやぁ、嬉しい、まさかその事実を知っている方がいらっしゃるとは」

「ええ、俺も気付いたときは結構後だったんですけどね、パーカ人形の中でも七連続ミックが出たとき、ヤケクソ気味になったんですが、並べて見て気付いたんです。パーカ人形って、基本、同じ人形なら服の柄とか髪の長さとか全部同じはずなんですけどね、ミックだけは尻尾の長さ、背の高さなどが微妙に違うんです。それで、コレクションブックを見たら、実はミックは101つ子だったという裏設定があってもしかしたら101種類あるんじゃないかと。それに気付いてからはミックがダブっても交換しないようにしていたんですが、まさかミック専門のコレクターがいるとは……いやぁ、あなたのような方にあえて俺、かなり感激していますよ」

「いえいえ、感激しているのは私も同じです。私の持っていないミック人形を用意してくださって、感激です」

「俺もです。俺はミック専用のコレクターってわけじゃないんで、俺の持っていないパーカ人形をあなたからいただけて感激です」


……………………………………………………

パーカ人形〔ミック〕【雑貨】 レア:★


パーカ迷宮で拾うことのできる指人形。全97種類ある。

ジャックが親に黙って飼っていた犬。

……………………………………………………


 これがパーカ人形のミック。

 俺がパーカ人形のなかではじめて手に入れた犬の指人形だ。


 まさか、ここに来てパーカ人形のコアなコレクターと出会えるとはな。

 目の前にいる50歳くらいの背の低い、身なりの良い男とパーカ人形について、ミック人形についてその後も話し合いは進んだ。

 実は、この男の名前もミックという。

 名前が同じ人形ということでコレクションにはまったのだとか。


「今日はいい取引をできました」


 俺は手に入れたパーカ人形をアイテムバッグに入れる。

 本来ならコレクションアイテムを鞄の中に無造作にツッコムなどコレクターにとっては愚行としか言えない。梱包もしないで鞄の中に入れたりしたら壊れる可能性が高い。


 だが、アイテムバッグのなかならその心配もない。

 アイテムバッグはただ物を運ぶだけでなく、保存をするのにも適したアイテムだ。


「私も、コーマ殿の店から購入したアイテムバッグをコレクション専用に使っているのですよ。どうしても同じものが出たからといって捨てられませんが、全て置いておけば妻に怒られますからね」

「こんなに広い屋敷なんだから二、三部屋をコレクション専用の部屋とかにしていないんですか? 子供の頃、俺は屋敷を持ったらそういう部屋を作ろうと思ってましたが」

「いやぁ、私もあまり妻には強く言えないのですよ。正直、私のこの身分は妻の力で手に入れたようなものなので。このミックコレクションだけです、妻が許してくれるのは」

「そうなのですか……よく父も言ってましたよ。女には男のロマンはわからないんだと」

「ほぉ、どうやらコーマ殿のお父上とも気が合いそうだ。ぜひお会いしたいものです」

「あぁ、俺の父は遠い異国の地にいるので……でもそう言ってもらうと父も喜びますよ」


 そして、俺とミックは立ち上がり、握手をかわした。


「ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。コーマ殿とは良い関係を築きたいものです」

「それでは――」


 さぁ、成果もあったし帰ろう。

 そう思ったところで、腕を掴まれた。


「……コーマ様」


 今までずっと黙っていたメイベルが俺を睨んできた。

 メイベルにここまで怒りの表情で見られるのははじめてであり、俺ははっと我にかえった。

 ここに来たのはパーカ人形についての話ではなかった。


「すみません、ここに来たのはパーカ人形のことではなく、実はミックさんと商売の話をしたかったんです」

「商売ですか?」

「はい、妖精の蜜の話です」


 俺がそう言うと、ミックが目を細め、椅子に深く座った。

 先ほどまでの友好的な表情から、真剣な――それだけではなく敵意まで含んだ表情へと変わる。


「その話をどこで伺ったのでしょうか?」

「こちらも様々な情報網を持っていますから」

「なるほど……やれやれ、私は本当にごく一部の人間にしか話していないつもりでしたが、さすがはフリーマーケットの専属鍛冶師殿だ」

「一応、フリマの専属鍛冶師は後任に譲って、俺は引退したんですけどね」

「その若さで勿体ない」


 ミックはそう言って立ち上がり、無言で部屋を出ていった。

 そして、帰ってきた彼の手には紅茶の入ったカップがふたつ載ったトレイがあった。

 紅茶なら先程出されたはずなのに。


「どうぞお飲みください」

「ありがとうございます」


 口封じとかではないだろう。

 まぁ、食べ物の毒で俺を殺したいのなら、ルシルを連れてくるしかない。


 そして、紅茶を飲んで気付いた。


「……これは見事な」


 上品で優しい甘みに俺は感嘆し、そう言った。

 妖精の蜜が入っているのだろう。


 だが、メイベルから貰った妖精の蜜は主張が強い味だが、この妖精の蜜は本当に優しい味だ。

 高級品の甘みのはずなのに、家庭的な温かい味を併せ持つ。


「ミック人形同様、妖精の蜜も妖精と花によって味が異なります。そして、この妖精の蜜は私の家にいる彼女にしか作ることはできません。この紅茶にはスプーン半分程度の蜜しか入れていませんが、それだけでも金貨5枚で買おうという美食家は多くいらっしゃいます。彼女が作る蜜による収入は多い年で年間で金貨2000枚になります」

「つまり、手放すつもりはないと?」

「ええ。彼女に匹敵する対価をあなた方は提示できますか?」


 ミックが言うと、メイベルが立ち上がった。


「多い年で、と言いましたが、つまりは少ない年ではそこまではないんですよね。妖精はとても自由であり、囚われの生活をバカンス気分で味わう種族です。が、自由が故、ストレスに弱く、環境次第では僅か数日で死に至ることがあると聞きます。その点を吟味し、私は金貨1万枚を提示します」

「金貨1万枚ですか……それは妖精専門のハンターの売り値の10倍の値段なのは御存知で?」

「はい、もちろんです」


 メイベルが頷く。


「どうしてそこまでこだわるのですか? 私はコーマ殿とは友好的な関係を築きたいと思っています。妖精の蜜でしたら、これからフリマに優先的に卸すのも厭わないつもりです。それでどうでしょう?」

「いえ……私は……私は、妖精族フェアリーに自由に生きてもらいたいと思っています。だから、彼女達には森に帰って平和に暮らしてもらおうと思っています」


 メイベルは語った。

 自分の過去の境遇について。俺と出会ったことについて。そして、自分の夢について。


 途中、事情を知っている俺からしたら、嘘ではないけれど明らかに誤解を招くような誇張表現が混じっていたが、それ以外はメイベルは真摯にミックを説得にかかった。

 ミックは黙って話を聞いていたがメイベルが話し終えると、


「事情は分かりました。おふたりとも、こちらにお越しください」


 俺はミックに案内され、屋敷の奥に案内される。

 その奥の部屋を見て、俺は驚いた。


 この世界で、これほどまでに見事な室内庭園を見ることができるとは。

 色とりどりの花々が咲き乱れる庭園が、そこにあった。

 本当に家の中なのかと思ってしまう。


 そして、その中央に身長10センチメートルくらいの女の子がいた。

 背中に羽が生えている、緑色の服を着た金色の髪の少女だ。


 本当にいたんだ、妖精族フェアリーって。

 彼女は花壇の真ん中に座り、花の冠を作っていた。

 俺の持っていたイメージそのままの妖精族フェアリーだ。


 まるで囚われの妖精だ。

 これで鳥かごにでも入っていたら童話の中に出てくるだろう。


 妖精族フェアリーの少女は俺達に気付き驚いて声をあげた。


「あれ? ミックンが人を連れてくるって珍しいね。どうしたの?」

「あぁ、彼らがミーティアを自由にしてあげたらどうかって言ってね」

「えぇ、自由って、外に行くのは嫌よ。あっちって魔物がいっぱいいて、あいつら本当にうざいんだから。それとも何? ミックンも私に飽きたから別の女と結婚しようって言うんじゃないでしょうね?」

「そんなことないよ。私が愛しているのはミーティアだけさ。本当だよ」


 ……は? 

 えっと、今の話を鑑みると、


「結婚してるの? ミックさん、彼女と」

「ええ。戸籍上は結婚はできませんし、子供も生まれませんが、事実婚という奴です」

「うん、私が魔物に襲われていたところを当時冒険者だったミックンに助けられたの。だから押しかけ女房になったのよ?」

「私も最初は参ったのですが、献身的にしてくれる彼女にほだされましてね。いやぁ、妖精族フェアリーと結婚することになるとは思いませんでしたが」

「何? もしかして不満があるの?」

「不満なんてないさ。愛してるよ。あぁ、でもコレクションルームはやっぱり検討してくれないかな?」

「嫌よ。だってミックンったらコレクションルームに入ったら中々出て来てくれないんだもん。これ以上増やすなんて絶対ダメよ!」


 ……俺はメイベルを見た。

 メイベルは俺を見て……苦笑いしていた。


「なぁ、メイベル、ひとついいか?」

「……コーマ様、私達は邪魔なようなので帰りましょうか」

「そうだな……ミックさん、すまない、帰るわ」


 俺達の声が聞こえていないのか、ふたりは自分達の世界に入っていた。

 結局、俺達は今日一日、本当に何をしていたんだろうな?

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