世界の革命~前編~
俺は今、世紀の大発明を作ろうとしていた。
アイテムコレクターとしてではない。
料理人として。
「油の温度よし。材料よし。絶対に完成させてやる」
キッチンに立ち、俺はそれを作りはじめた。
これさえ完成すれば世界は変わるだろう。
人体への健康被害は甚大なものになる可能性は否めないが、大きな快楽に多少の犠牲はつきものだ。
タオルを頭に巻き、鶏がらエキスを練り込んだ麺を油の中に入れた。
バチバチと油が麺の中の水分に反応し、音を上げた。
だが、すぐにその水分は失われ、カリっと揚がる。
狐色に染まった麺をキッチンペーパーの上に並べていった。
さて、これでいけるかどうか?
ドンブリを7つ持って俺は食堂に向かった。
※※※
今日、この日、魔王軍の関係者が呼び出された。
ルシル、グー、タラ、カリーヌ、マネットの五人だ。
ゴブカリは用事があってこれなかった。
「まったく、コーマ、大事な話って言うから何事かと思ったら。なによ、これ」
ルシルは怒って言った。
ルシル以外は、目の前に置かれている物が何かわからない。
料理だというのは、お箸とスプーンであることは気付いているだろう。
「さすがにルシルは知っているようだな。この料理が完成すれば、世界は変わる。それは間違いない」
俺は断言した。
「コーマ、バカじゃないの? なんで、インスタントラーメンが世界を変えるのよ!」
ルシルが呆れたように言った。
そう、俺が作ったのはインスタントラーメンだった。
「実は、今、ラビスシティーでは空前絶後のラーメンブームなんだ。まぁ、俺がきっかけなんだけれどな」
最初にラーメンがこの世界に登場したのは、俺がコーリーとなりクリスと一緒にデートをした時だった。
コーリーの姿でラーメンを作った結果、その味に惚れこんだ多くの人が現れた。
当然、俺がいつまでもラーメンを作るわけにはいかないので、レシピをそこにいた人に提供したのだが、その後だ。
ラビスシティー中にラーメン屋が開店したのは。
だが、ラーメン屋の八割が、とにかく糞不味いのだ。
残り二割はかろうじて食べれる程度。
ちなみに、その二割とは、かつて俺が作ったラーメンを食べたことがある人が店主をしている店であり、残りの八割は、そのラーメン屋でラーメンを食べた人が見様見真似で作ったものだ。
それでも美味しいと客が集まっている。
このままだとラーメンの間違った認識が広がってしまう。
それを変えるためには、正しいラーメンをもっと知ってもらわなければいけない。
「正しいラーメンがインスタントラーメンだって言ったら、あなた、日本のラーメンマニアに殺されるわよ」
「いいんだよ。少なくとも地上のラーメンよりは絶対に旨いんだし」
自信満々に言った。
「コーマ様がそこまでおっしゃるのでしたら、きっと天にも昇るような味なんでしょうね」
「うん、楽しみ」
コメットちゃんとカリーヌが早速食べようとするが、
「ちょっと待った!」
俺はそう言って、ヤカンいっぱいになった熱湯をドンブリの中に注いでいく。
「インスタントラーメンはこうしてお湯を注いだあと三分待たないといけないんだ」
そう言って、三分を計るための砂時計をひっくり返しておく。
「三分ですか……」
落ちていく砂をクリスがじっと見つめていた。
「……クリス、今更だが、お前、普通に魔王城にいるんだな?」
「はい、皆さんと友達になりましたから」
クリスが笑顔で言う。
「まったく、勇者と友達だなんて、魔王の恥だよ」
マネットは自嘲気味に言った。
「それにしてもこの三分間っていうのは結構じれったいね……もう食べていいんじゃないか?」
「三分を待つこの感覚。某が瞑想している時と似ている」
タラが静かに呟いた。
ところで、こいつが被っている獣の骨……これを煮込んだら良い出汁が出そうな気がするな。
「ってあれ? なんでクリスがいるのにドンブリの数があってるんだ?」
魔王軍幹部と俺の分だけ用意したはずなのに?
そう思ったら、
「あれ? 皆さま何をなさっているのですか?」
ウォータースライムを頭からかぶったマユが笑顔で入ってきた。




