仲直り計画~完結~
~前回のあらすじ~
最後の一撃が決まる前に、コーマが立ち上がった。
サクヤとシグレが衝突しようとしている。
クナイを持ち、最後の攻撃をしようとしている。
そう、最後の攻撃だ。放っておけば絶対に決まってしまうであろうその攻撃を、俺が止めないといけない。
ふたりの距離が残り五メートルとなったところで、双方がクナイを振るった。
あきらかに遠すぎる距離。
だが、そうしないと間に合わない。
なぜなら、彼女達の標的は――
「やめろぉぉぉっ!」
大声とともに割って入った俺の出現に、観客が静まり返る。
そして、彼らも気付いた。
サクヤも、シグレも気付いただろう。
ふたりのクナイの向かった先が、相手ではなく自らの首に向かっていたから。
もしも俺が止めなければ、まさかの二人同時自殺によるノックアウトという目も当てられない状況になっていただろう。
「ったく、何をしているんだよ、お前等! 殺し合いをやめてハッピーエンドでいいだろ! なんで自分で死んでハッピーエンドなんて、俺からしたらバッドエンドしかない道を選ぶんだよ!」
そう、ふたりの戦いはかなり拮抗していた。
にもかかわらず、次の一撃で決めるなど、傲慢なこと、ふたりの性格からして言えるわけがない。
「コーマ、私が死ななければ姉上は任務を放棄した罪人となり、自ら命を絶ってしまう。かといって、今の姉上の手を、子供に愛される姉上の手を血で染めさせることなど私にはできない。ならば、私が自ら命を絶つしかないだろう」
「コウマ殿、サクヤの言う通りだ。例え私達が殺し合いを辞めてもどの道私は死ぬことになる。ならば、誰に殺されるのでもなく、自らの手でこの命を絶つ」
「お前等バカだろ! 死んで解決するなんて言うなよ! 言っておくが、俺はこれでも生きているだけで、俺にとって一番大切な人に迷惑をかけているんだ! それでも死なないのは、彼女が俺に生きてくれって言ってくれたからだ! それを何だお前は! 死ねば全て解決!? んなもんバカのすることだ」
「コーマ……」
「コウマ殿……」
ふたりが俺の言葉を聞いて、
「コーマ、貴様の心の声、本心、しかと聞かせてもらった」
サクヤは微笑んで言った。
くそっ、マユの奴、まさか俺の心の声をふたりに伝えたっていうのか?
「よくそのような恥ずかしい本心を、隠すことなく口にできるな。貴様は忍には向かん」
「ありがとうございます、コウマ殿のその女性への熱い気持ち、しっかり伝わってきました」
やめてくれ、シグレ!
言葉に出したのも今となっては恥ずかしいが、それが紛れもない本心だと知られるのはとても恥ずかしい。
くそっ、こんな恥ずかしい思いをするのなら、素直に伝えればよかった。
すでにカリアナのグンジイの説得を終えて、どういうわけか俺がカリアナの新しい主になったこと。
そうすれば、ふたりのわだかまりを無くすためにこのような舞台を用意することも、命がけで戦わせる必要もなかったのに。
はぁ、俺の計画だと、ふたりはお互い認め合って、戦いが終わってハッピーエンド。
その後、ふたりはどうやって殺し合わずに済ませるかと考えている時に、俺が全てを打ち明ける。
そんな予定だったのに。
計画が杜撰すぎたか。
「なるほど、そういうことだったのか、コーマよ」
「コウマ殿、それならそうと最初から伝えてくださればよかったのに」
サクヤとシグレ、ふたりが笑顔で俺を見た。
「……え? もしかして、俺の心の声が――届いた?」
ふたりが頷く。
『これで一件落着ですね、コーマ様』
マユの念が伝わってきた。
くそっ、おいしいところを彼女に全部持っていかれたってことか。
「もっとも、コーマ、貴様が私と姉上、双方にこの心を読めるという指輪を渡したことは気付いていた」「デザインが違っていますが、どちらも貴重な金属で作られた指輪。コウマ殿が作られたのはすぐにわかりましたよ」
うわ、バレバレだったのか。恥ずかしいな。
戦いの中で感じていた違和感はこれだったのか。
ふたりの心の声は、明らかに相手に伝えようとしているものばかりだった。
最初から、相手が心の声を読むことができるということに気付いていないとあんな使われ方はされない。
「それで、先ほど姉上と話し合ったのだが」
「ええ、コウマ殿。せっかくお客様達にも集まってもらったのに、このまま和解で終わりでは皆さま納得しないでしょう」
「納得しないって……まさか、まだ戦うっていうのか!?」
俺の問いにふたりは同時に首を横に振った。
そして、クナイを構える。
「ここは二対一で、デモンストレーションということで戦いましょう、コウマ殿」
「普段の貴様への鬱憤、ここで全て晴らさせてもらおう!」
……え?
その後、「コーマVS.サクヤ&シグレ」という変則試合が開始された。
勝負がどうなったのかって?
マユから「コーマ様、しっかりと彼女達のストレスをその身で受け止めてください」と言われたので、精一杯ストレス解消の的になったさ。
でも、その後のふたりの顔を見たら、心を読まずとも理解できる。
もう、俺の心配事はなくなったと。
さて、あと解決しなくてはいけないのは……アレだけだな。
※※※
魔王城、ルシルの個室の扉の前。
「おおい、ルシル! DXチョコレートパフェができたぞ! 早く出てこないとアイスが溶けちゃうぞ!」
花瓶のようなガラスの容器に盛られたDXチョコレートパフェを持って、俺は部屋の中にいるルシルに声を掛けた。
「……いらない」
部屋の中から、ルシルの元気のない声が聞こえてきた。
結局、ルシルと仲直りするまで、俺はそれから七時間、扉の前で声をかけ続けることになった。




