忍の掟と目的
~前回のあらすじ~
メシテロ勃発。
特別な毒以外には、強い耐性を持っているという忍。
旨い料理に耐性を持っていなかったため、最初こそ何度も気絶、復活、食事、気絶のローテーションを繰り返したが、三十回ほど気絶したところで、ようやく気を失うことなく食事を食べられるようになった。
それでも「こんな美味しい物食べたことない」だの「これはまさに天からの恵み――いや、天に上るための食事」などとリアクションを取っていた。
「ご馳走さまでした」
「お粗末様でした」
「……この食事を粗末というのなら、世界中の食事が粗末なものになります」
「ははは、グンジイは知らないかもしれないが、俺の料理が逆立ちしても(物理的な意味で)敵わない料理ってのはまだまだ世の中にはあるんだぞ」
「そんなものがあるのですか……世の中は広いですな」
あぁ、本当に世界は広い。
料理に殺されそうになるなんて思いもしないものな。
そんな料理、地球にも存在しなかった。
「このあたりは植物は豊かだが、塩が貴重で」
「塩が貴重? 隣のリーリウムは港町だろ?」
「港町ですが、塩田がありませんゆえ」
そうなのか。俺はマユから塩を無料で分けてもらっているし、持っているものも値段なんて気にしたことないからな。
「はぁ、じゃあ梅干しとか貴重なんだな。シグレからわけてもらったが悪いことしたのか」
「いえ、シグレが持っていた梅干しはワシがつけたものです。旅立つ孫に持たせたもので」
「あぁ、そうなのか。そういえば、グンジイの梅干しと味が似てると思ったんだよな。同じものだったのか」
俺は納得して残っていた梅干しをもう一粒食べ、
「え?」
聞き返した。
何? いま、この爺さん、シグレのことを孫って言った?
「なぁ、シグレってグンジイの――」
「孫です」
「……じゃあ、もしかして、サクヤも」
「もちろん、サクヤはシグレの妹ですからな、ワシの孫です」
待て、つまり、それは、
「あんた、孫同士を殺させようとしてたのかよ」
なんて爺さんだ。
俺は驚き、憤った。
さっきの食事で打ち解けられたと思ったが、ここまでの価値観の違いに、俺はグンジイにつかみかかりそうになったが、周りの忍が止めた。
「頭を悪く言わないでくれ。早くに娘夫婦を無くした頭は、誰よりも孫を可愛がっておられた」
「……なら、尚更――」
「忍の掟は絶対の掟、一番辛いのは頭なのだ」
「……そんな掟、間違ってる」
俺が押し黙った声を言う。間違っているというのは全員がわかっているのだろう。
「間違っていても訂正する者が我々にはいないのだ。主君無きこの世界において、この掟こそが我々に残された唯一の忠義の証なんだ」
頭の固いやつらだ。
「我々の掟を変えるには、新たな主君を立てないといけない」
「あぁ、その通りだ。主君無き今、新たな主君が我々には必要だ」
「その通りでござる。さっきの会議で拙者も言おうとしていた。例えば、最良の食事を提供できる主君などがひつようでござるな」
残りの三人がそんなことを言った。
「皆、それでよいのか?」
グンジイが四人に問う。
「えっと、つまり……どういうことだ?」
「我等一同、コウマ殿、其方を主君として認め、永遠に仕えよう」
「……マジで?」
え? 本当にそんな簡単に決めていいものなのか?
「ただし、コウマ殿が我等の主として相応しい者であると認めている間のみだ。もしもコウマ殿が我等を裏切る行為をした場合、カリアナの全ての力を動員し、コウマ殿を殺すことになる」
……面白れぇ。盲目的についてきてくれる部下より一〇〇倍いい。あ、今のはコメットちゃんやタラをディスったんじゃないからな。ふたりもふたりの信念を抱えて俺についてきてくれているんだから。
「うむ……だからお頼み申す」
グンジイは目から涙を流し、頭を下げた。
「孫に――ワシの孫に新たな任務をお与えください。どうか……」
「もちろんだ。絶対にあの二人を救ってみせるよ」
意気込んで言ってはみたが、まぁ、俺がカリアナの民の新しい主君となったのなら、余裕だろう。
「それとコウマ殿にお伝えしておきたいことが。我等はある目的でこの世界を動いている」
「ある目的? 日本に帰るためにか?」
「うむ。我等の目的は魔王と呼ばれる迷宮の主を葬り去ること――それが我等が日本に帰るための手段であると、さるお方から教えてもらった。是非、コウマ殿にもご協力をお願いしたい」
その言葉に、現魔王の俺はどう反応したらいいかわからなかった。
隣で現魔王のマユも固まっていた。




