忍を部下にできるのか?
~前回のあらすじ~
忍の一族に、俺の部下になれと言った。
あれ? 意味がわからなかったか?
「俺の部下になれってことだ。どうだ?」
単刀直入に訊ねてみる。
「待て、意味が分からなかったとかではない。何故、我々が貴様の部下にならないといけない」
「いやさ、俺、72財宝って集めてるんだけどさ、そろそろ情報不足だからさ、いい加減に情報のプロが欲しいと思っていたんだよ」
「貴様の都合など聞いておらん! 我々が貴様に仕えるメリットは何だ?」
「……さっきも言っただろ。俺に協力すれば日本に戻れるかもしれない。72財宝と呼ばれるアイテムを全部集めたらな。それとも、日本に戻ることを望んでいないのか?」
俺の提案に、グンジイは逡巡した。
「本当に日本に――我等先祖がかつて住みし地に行くことができるのか?」
「らしいぞ。俺の相棒が言っていたんだが。てか、俺がこっちに来たのも、その相棒の魔法によるものだから、可能性はかなり高いと思う」
そこはルシルを信じるしかない。
「……別に俺のために命を尽くせといっているわけじゃない。72財宝、珍しいアイテム、そうだな、例えばオリハルコンとかそういうアイテムを集めてもらうだけでもいい。報酬なら、大抵の物は用意できるぞ。例えばどんな怪我でも治す薬とか」
「……ワシの一存では決められない。ワシ達の仕えるべき主がすでにいないことを共通の認識とし、幹部全員で話し合わないといけないからな」
「別に構わないよ。幸い、まだ六日ほど余裕はあるからな。メディナ、石になっている奴らを治してやれ」
俺はそう言うと、先ほどの戦いでひっくり返った畳やテーブルを元に戻し、石化解除ポーションの瓶を20本ほどアイテムバッグから取り出して並べて言った。
「コーマ様、石化なら私の血で解除できますが」
「これでいいよ。いっぱい作ったから。メディナにもアイテムバッグ持たせるから、今度からそこに石化解除ポーション300本くらい入れておいてくれ」
「……ありがとうございます」
メディナが恭しく頭を下げ、そして石化していた忍達を元に戻していく。
元に戻った忍は己の身に起きたことを理解していたが、戦いが終わっていた理由はわからなかったらしく、仲間に何が起こったのか話を聞いていた。
「てか、話し合いなんてされたら、料理の準備できそうにないな。なぁ、グンジイ、やっぱり土間借りるぞ」
さっきまで殺し合いをしていたことなんか忘れているかのように振る舞う俺に、グンジイと他の忍達は全員呆気に取られていた。
※※※
さて、竈でご飯を炊くのははじめての経験だ。
幸い、薪などは用意されていたし、料理スキルもある。
忍は毒水を飲んで毒の耐性を上げていくという、まるで俺みたいな修行をしているという話を聞いたことがあるが、井戸水の井戸は普通に飲み水に適した飲料水だった。
米を適度に洗い、水に30分浸そう。
その間に、どうせだからと川まで走り、魚を獲って焼き魚を作ろうかと思った。
カリアナを作った人達がここに住もうとした理由がわかった気がするな。
少し山の奥に入る。渓流の雰囲気が日本に似ているのだ。
万年桜といい、日本を思わせる風景がここにあった。
小さな石を拾い、アイテムクリエイトを使う。
石は「石のナイフ」という名前の短剣へと姿を変えた。
そして、俺はそのナイフを浅い川の中に投げた。
ナイフは川の中のイワナのような魚に突き刺さる。
気分はまるで忍者だな。さっき見たから。
魚を鷲掴みにし、アイテムバッグに入れようとしたが、まだ生きているらしく、アイテムバッグの見えない壁のようなものに阻まれた。
再度、ナイフを突き刺し確実に絶命させ、今度こそアイテムバッグに入れた。
……マユに魚料理を出して怒られないかな。
うーん、まぁ、これは川魚、マユは海の魚だからいいか。
『誰が海の魚ですか! 私は人魚です!』
「うわ、マユ、いたのか! ていうか心読むなよ」
『勝手に飛び出していったから追いかけて来たんじゃないですか。あと、心は読んでいません、口に出していました』
なんと、口に出していたのか。
『ところで、本当にカリアナの皆さんを配下に加えるのですか?』
「配下にならないだろ、あいつらは」
俺は新たに捕まえた川魚をアイテムバッグに入れながら言った。
『……どうしてですか?』
「主君への忠誠心がある。俺に仕えるということはその忠義に背くことになる」
『ですが、その主君は――』
「俺はルシルが死んでもルシル以外を主と認めることは絶対にないよ。まぁ、ルシルが死んだ時は、俺も死ぬときなんだけどな」
忠義っていうのはそういうものだ。
例え会ったことがない主君だとしてもそれは変わらない。
俺はそう思う。
だから、俺は提案した。
珍しいアイテムを持ってきてくれたらそれに対する対価を支払うと。
それはつまりは主従の関係性ではない、対等なパートナーの関係だ。
「さて、あとは適当に山菜を摘んで、帰ろうか」
五匹目の魚を捕まえた俺はそう言うと、
『私も魚は食べますよ……むしろ好物です』
と意外な答えが帰ってきた。
※※※
その後、俺は竈でご飯を炊く。
「はじめちょろちょろ中パッパ、ジュウジュウ吹いたら火を引いて、ひと握りの藁燃やし、赤子泣いても蓋取るな♪」
俺は上機嫌で歌いながらかまどの様子を見る。
竈のおいしいご飯の炊き方が。
最初は弱火、一気に強火にして、沸騰したら火を弱めていき、釜の中の余計な水分を飛ばす。
蓋をとるのはご飯をむらした後だ。
そうして炊きあがったご飯を見て、俺は感激した。
米が立っている。
うん、旨そうな飯だ。
俺はご飯の一番上の部分を小さなお椀に盛り、先ほどの部屋にあった神棚に供えた。
魔王が神に祈るなって話だが、それはそれ、これはこれだ。
「あぁ、気にしないで話を続けてくれ」
その部屋で未だに話し合いを続ける忍をよそに、俺は晩飯の準備をしていった。




