先の見えない旅
~前回のあらすじ~
シグレが一週間後サクヤを殺す決意を表明した。
名ばかりの校長とはいえ、仕事はいろいろあるようで、雑務が多い。
そのため、人を雇うことにした。
暇そうにしていていい人材はいないかと考えた。
メディーナは暇そうにしているが髪の毛が蛇になって動いているため、人前に出ることはできない。
もちろん、フリーマーケットの人間は全員忙しいから候補には入らない。
コメットちゃんとタラは魔王軍最後の砦だ。
結果、一番暇そうにしていて、かつ有能であり、見栄えもいい人物。
『私は暇じゃないんですけど』
書類の山を見ていた彼女から恨みがましい思念が送られてきた。
思念を送っているのはスーツを着た白髪の美少女秘書。
マユだ。
ウォータースライムを持ってきていないため喋ることはできない。彼女は人魚のため、水の中でしか喋ることができないからな。
「気にするな。美人秘書ってことで、結構生徒からも人気あるんだろ?」
『まぁ、子供が懐いてくれているのはたしかです。フリードくんが子供の頃を思い出しますね』
フリードって、あの一角鯨につっこんで死んだ蒼の迷宮の元領主ですよね。
あいつが子供の時って、一体何十年前の話だよ。
あと、子供がマユに懐くのは、マユが他の大人と違って子供の話を真摯に聞いてくれるからだろうな。
「にしても、シグレとサクヤの問題はどうしたものかな」
『シグレさんとサクヤさんってカリアナの出身で、姉妹なんですよね』
俺は頷いた。
ふたりはカリアナ出身だ。サクヤが何か理由があって忍びの里を飛び出し、抜け忍として扱われることになった。
彼女を追う役目を与えられたのが彼女の姉、シグレだ。
「んー、どうしたものか、どうしたものか」
『普通に止めるだけじゃダメなんですか?』
あぁ、俺が本気を出せば、シグレを無理やり止めることはできるだろう。
別に腕や脚の骨を折って動けなくする必要もない。たとえば、転移陣を使って、なんどもなんどもシグレを東大陸に追い返せば時間を稼げる。
でも、シグレは絶対に諦めないだろう。
「それこそ、どちらかが死ぬまで決して止まることはないよ」
俺は窓の外を見た。学生寮へと向かう生徒の姿が見える。
『いったい、サクヤさんはなんで追われるんでしょうかね?』
書類整理をしながら、マユはそう思念を送ってきた。
「なんでだろうな。サクヤが何か情報を持っているとカリアナのお偉いさんが思っているのはわかってるんだが、当のサクヤは何も知らないって言ってるし……」
『それなら、カリアナに行ってみてはどうですか?』
「カリアナか、それも悪くないな。あ、でもクリスは今実家の事情でしばらく動けないからな……仕方ない、ひとりで行くか」
ルシルは出不精だし、コメットちゃんを連れて言ったら料理をできる人間がいなくなりタラとカリーヌの食事事情に大きな影響を与える。
移動距離も結構あるので半透明のカリーヌを連れて行く訳にはいかないし、タラは畑作業が忙しい。
操り人形の姿のマネットも一緒に行動はできないだろう。
結局ひとり旅しかないよな。
そう思ったら、
『私も一緒に行ってもいいですか?』
マユがそんな思念を送ってきた。
「マユも? でもそうすると溜まった仕事が……」
振り向くと、マユは笑顔で、全ての仕事を終わらせていた。
……マユも優秀だったんだな。
「じゃあ、行ってみるか、カリアナに」
『はい、お供します』
笑顔でマユが頷いた。
今まで見たマユの笑顔の中で一番の笑顔かもしれない。
あぁ、そうか、数百年地下で暮らしていたから、旅行なんて楽しみで仕方がないんだな。
※※※
俺達はリーリウム王国の森の中にいた。
エントを倒すときに持ち運び転移陣を置いたままにしていたが、森の中にまだ残っていた。
ちなみに、この転移陣はルシルによって転移先の設定は解除してもらっているため、転移石がないと使えない。
今回はそれを使って移動させてもらった。
「『…………』」
なぜか、その日、マユの機嫌は悪かった。
無言を思念で送られるというのは気持ちのいいものではない。
機嫌が良くなったり悪くなったり、どうしたって言うんだろうか?
マユってこんなキャラだったっけ?
不貞腐れた顔で俺達を見るマユに対し、俺は横にいる彼女に疑問を投げかけた。
「コーマ様、本気で言っているのならそのうちコメット様かクリス様かマユ様に殺されますよ」
なんでだ?
マユも俺とふたりっきりより、メディナと一緒のほうがいいだろ。
ちなみに、メディナはターバンを頭に巻いている。
「よくわからんが、早く行こうぜ」
西に行けばあるというカリアナ。
独自の文化が残る秘境。
日本人の俺としては少し楽しみだな。
メデューサと人魚との三人旅か。




