エピローグ
~前回のあらすじ~
クリスの借金が5万枚になった。
後の雑務はクリスに任せ、俺はひと足先に魔王城へと戻った。
魔王城に帰ると、会議室の中、メディナが椅子に座っているルシルの肩をもんでいた。
肩を揉んでもらいながら、小説を読んでいる。
俺はルシルの横に立ち、
「……ルシル、肩凝ってるのか?」
と訊ねた。
肩を凝るというような年じゃないだろう……あ、でも本当は2700歳だから、肩が凝ってもおかしくないか。
でも、やっぱりその胸じゃ肩が凝るとは思えない。
まっ平らになったルシルの胸を見て、俺は少し憐れみの目を送る。
ルシルは首を横に振って、
「ううん、別に」
と言い切った。
「でもメディナにじっとさせておくのは勿体ないじゃない」
「……なぁ、ルシル。お前、俺のことをはじめての部下だって言ってたけど、メディナのほうが俺の先輩じゃないのか?」
「メディナは正確にはお父様の部下だから、私の部下はコーマが最初よ」
「そうなのか?」とメディナに訊ねたら、「はい、そうですね、封印されるまではルシファー様の配下でした。ルシル様の配下になったのは封印が解けてからです」と彼女も肯定した。
そんな俺の顔を見て、ルシルがニヤリと笑って、
「なに? 妬いてたの?」
と訊ねてきた。
「少し妬いてた」
「あら、今日は素直ね」
からかった相手の態度が予想外だったのか、少し残念そうな顔をして、本に視線を戻す。
ちなみに、これらの本は俺が買ったものではない。気が付けば魔王城にあった。クリスが持ってきたのだろうか?
そう考えていたら、ルシルがそのクリスの話題を振ってきた。
「クリスとは結婚したの?」
「いや、待ってもらうことにした。五年くらい」
「五年か……でもコーマ、年を取らないんだから、見た目の年の差が開く一方よ」
「それでもな気持ちの整理がつかないと」
「気持ちの整理?」
「お前のことだよ」
俺がルシルの側頭部を見つめていると、ルシルは目を閉じてため息をつき、
「メディナ、もういいわよ。コメットちゃんがみんなの夕食を作ってるから手伝ってきて」
と命じた。メディナは恭しく頭を下げて部屋を出た。
部屋には俺とルシルのふたりが残された。
「コーマ、もしかして私と結婚したいの?」
「いや、もう俺とお前はそんな間柄じゃないだろ」
「わかってるじゃない。そうね、そんな間柄じゃないわ」
俺が嘆息混じりに言うと、ルシルは笑って言った。
ルシルは俺の部下であり、そして俺の主人でもある。
そして、俺はルシルに返さなくてはいけない。
彼女から受けた恩を一生かけて。
ルシルもまた、俺を元の世界に戻さないといけないと思っている。
俺は元の世界に戻るつもりはないのはすでに伝えているが、戻らないのと戻れないのは、同じようで全く違う。
それがルシルの中の気持ちの整理だ。
「でも、五年って、コーマ、五年で72財宝全部集めるつもりなの?」
「あぁ、いまわかっているだけで、72財宝は……14種類か」
魂の杯、闘神人形、竜殺しの剣グラム、友好の指輪、ユグドラシルの種、生命の書、ユグドラシルの杖、エクスカリバー、そして六つの宝玉。
約8ヶ月程度でこれだけの量だ。単純計算ならあと5年で全て集めるのは容易だろう。
だが、そうではない。だいたいコレクションというのは最後の一個が難しいのだ。
どこにあるのかもわからないものを集めるというのは本当に大変だ。
それに、14種とはいえ、六つの宝玉を全て確認したわけではないし、どうやって手に入れるのかもわかっていない。
生命の書もブックメーカーが保存しているし、闘神人形はルルのものであり、ギルドマスターとしての立場もある。
あと、竜殺しの剣グラムは俺が砕いてしまったし、ユグドラシルの種も、今は大木に成長してしまってこの世にない。
さらに言えば、72財宝を全て揃えるだけで終わりとは限らない。72財宝をどう使うのか?
今の俺には何もわからない状況だ。
それだけではない
アークラーンに作ってしまった学校の運営、西大陸の征服、シグレとサクヤの問題。
全てが山積みとなって俺に押しかかってきている。
はぁ、どうしたものか。
でも、こんな忙しくても、これが俺の日常なんだよな。
「コーマ、楽しそうな顔をしてるわね」
「お互いさまだよ。なぁ、ルシル。全部終わったらさ――」
俺はその後、何も言わなかった。
だって、それを言ってしまったら死亡フラグだろ?
俺が何も言わないからルシルも何も答えない。
結局のところ、俺とルシルの関係性なんてこんなものだ。
これが俺の日常であり、きっとこれからもこんな中途半端でいい加減でそれでいてバカらしくて楽しい毎日が続くんだろうな。
エピローグですが、まだ途中ですね。
ちょっと長いので一区切りです。




