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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode09 通常運転

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恩返しの理屈

~前回のあらすじ~

暗殺者全滅

 レモネが目を覚ますのを待つこと30分。

 床に寝かすわけにもいかないので、俺が座っていたソファの上に寝かせていたが、ようやく彼女が目を覚ました。


「……知らない、天井」

「いや、別に深い意味はないんだろうがお前が言うなよ」

「あ、コーマ様っ! こここ、このたびはお日柄も良く!」

「待て、意味わからん挨拶はやめろ! あと土下座をするな! クリスといいなんで俺の国の土下座文化がこっちでも浸透してるんだよ」


 カリアナか? カリアナから広まったのか?

 ソファから滑り落ちて土下座をはじめたレモネを立たせて、俺はため息をついた。


「ひとつだけ言うぞ。従業員一同、元オーナーに対する評価が異常なまでに上がっているのは知っているが、俺がしたのはメイベルに初期投資をして、あとは不要なものをメイベルに預けただけだ。正直、あとは何もしていない、形だけのオーナーだったんだよ。実際、レモネ達の教育もメイベルがしたんだろ?」

「ですが、コーマ様がいなければ、私たちは永遠に奴隷でした」

「だから、奴隷から解放したのもメイベルだろ? 俺が奴隷から解放したのはメイベルとクルトだけだ」

「ですが……」

「納得いかないのなら納得いかなくてもいい。ただな、変に恩を感じるな。正直、今のレモネの作業で十分に助かってるんだよ」

「……いいえ! ご恩は絶対に忘れません!」


 はぁ、義理堅いことだ。

 まぁ、俺も「あ、そうですか? じゃあ貸し借りなしで」って言うような奴相手ならば甘い顔はしないんだけどな。

 受けた恩が大事だということは俺もわかっている。


 俺の中に未だにあるルシルによってかけられている封印を思い出し、小さく笑った。

 相手がどう思っていようと関係ないんだよな。

 恩を返すってことは。


「ありがとうな、レモネ。大切なことを思いだしたよ……てか、俺最低だな。そんな大切なことを忘れているなんて」


 俺は自らの愚かさを嘲り笑った。

 そこに、クリスとムサビがやってきた。

 自慢の髭がきれいさっぱりなくなっている。クリスに斬られたのだろうか。

 口髭がないと、どこにでもいる普通のオッサンだな。


「やぁ、ムサビさん。お元気そうですね」


 俺が笑顔でそう言うが、ムサビは何も答えない。

 まぁ、何も言わないのなら別にいいんだけどさ。


「ムサビさんに雇われたって暗殺者がいっぱいいるんですけれど、どうしましょ? ムサビさんが雇ったってことはうちの従業員なんですよね。ダメですよ、こんな時間に仕事させたら、残業手当もバカにならないんですから」


 俺は部屋の隅に寝ている暗殺者に近付き、持っているナイフを取り出し、ムサビの額に寸止めした。


「じゃあ、このナイフは会社の備品かな。ダメですよ、このナイフどう見てもリンゴを剥くには向いてませんって。はは、剥くのに向いていないってギャグになっちゃったな……あ、意味わかりませんよね? わからなくても別にいいんですよ。こっちがわかってるだけですから」


 俺は終始笑顔で、終始御機嫌で、ナイフの腹でペチペチとムサビの頬を叩く。


「それにしても困りますよ。ちゃんと従業員の指導をしてもらわないと。レモネはこれでももうこの店の店長なんですから、直属の上司を訊ねたのにまったく答えてくれなくて困りましたよ。でもまぁ、ちょっと美味しいご飯をご馳走したら、顔を真っ青にして全員あなたの名前を告げてくれましたけどね。どうです? ムサビさんも食べてみます? 俺のご馳走は活きがいいですよ」

「す、すみませんでした」

「おや、俺が聞きたいのは謝罪じゃないんだけどな。食べるか食べないか。はは、デッドオアアライブみたいだな。でも、どっちにしてもアライブはないですよね? あ、殺すってことはないですよ。あなたの地位的な問題でね。大丈夫です、ご馳走しても死ぬ前にきっちり治療はしますから。で、どうします? ご馳走になります?」


 俺の「ご馳走」を何の隠語だと思ったのだろうか?

 ムサビは震えあがり、己の悪行を包み隠さず全て語った。

 少なくともレモネが把握していた悪行は全てだ。

 全部話してくれたご褒美にご馳走をしたら、泡を吹いて倒れた。治療はしたけれど、あと数時間は目を覚まさないだろう。


「コ、コーマさん、今日は何かいつもより凄いですね」


 俺の尋問を無言で見ていたクリスは引き気味に言った。


「あぁ、今の俺は結構機嫌がいいからな。とりあえず、これで解決だな。ところで、クリス、金貨5万枚のことなんだが」

「あ、はい。メイベルにも御礼を言わないといけませんね」

「いや、金貨5万枚は俺個人に融資してもらった金だぞ?」

「え、どういうことですか?」

「まぁ、クリスがどうしても、というのなら貸してやるぞ。金貨5万枚、無利子」

「え……」

「そこからお前がこの店に貸せばいいだろ? レモネ、この店なら何年かけたら金貨5万枚稼げそうだ?」

「そうですね……5年もあれば金貨5万枚全額返済できると思います。話によるとレイシア様からも資金の返却があるでしょうから、もう少し早くなるかと」


 5年で500億円稼げるのか。それは凄いな。

 レモネがこう言ってるし、本当に返せるだろう。


「ということだ。クリス、どうする? 俺からお金を借りるか? 借りないのか?」


 俺は笑みを浮かべた。

 彼女の目には、俺の笑顔が悪魔の笑み、いや、魔王の笑みと映っているだろう。


「あ、でも私はコーマさんと結婚するんですから、借金も無効――」

「クリス、お前、俺の財産目当てで結婚するのか?」

「え?」

「うわ、引くわ……お前がそんな奴だったなんて」

「えぇ、そんなことないですよ! 私は――」

「じゃあ、借金を返してから、お互いの気持ちが変わらなかったら結婚するってことにしような」


 俺はそう言って、クリスに笑いかけた。


「……悪いな、クリス。正直、まだ気持ちの整理つかないんだわ」

「……はぁ……わかりました……婚約指輪ももらっていないですし、正直ロマンチックな場所でプロポーズもしてもらいたいですから、いいですよ、待ちますよ」

「あぁ、あと金貨5万枚もしっかり返せよ」

「……あの、コーマさん、結婚を待ちますから、金貨5万枚はなかったことにできませんか?」

「できません」

「……シクシク」


 クリスはシクシクと口に出して泣き真似をした。いや、本気で泣いているんじゃないだろうか?


 悪いな、クリス。でも、勘弁してくれ。

 これが俺とクリスの関係性として一番落ち着くんだよな。

 それに、今回はクリスが返すんじゃなくて、店の売り上げから返すんだから、負担は少ないと思う。


 俺の気持ちの整理がついて、クリスがその時も俺の事を好きでいてくれたら、その時は本当に結婚について考えような。考えるだけで、結婚するかどうかはまた別の話だけど。


「あの……私はどうすればいいのでしょうか?」


 ……忘れられているのか心配になったレモネがそんなことを訊ねた。

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