暗殺者一行ご案内
~前回のあらすじ~
レモネが超優秀だった。
夜であろうと昼であろうと、この地下室の書庫はランプの灯りが全てであり、その光の届かぬ場所は闇が支配する。時計も何もないこの場所にいると、時間の感覚がなくなり、体感時間が全てだ。
(そろそろ夜中かな)
ここでもしも俺が勇者だとしたら、衣擦れの音などで目を覚ますのだろうが、あいにく俺の聴力は一般人のそれと変わらない。嗅覚もそうだ。
だが、索敵スキルがそれを感じ取った。
「レモネ、ちょっとうるさくなるかもしれないが、集中してろよ」
サングラスを取り出して装着した。
暗視ゴーグルの役割を果たす俺のお気に入りのアイテムだ。
そして、書庫の扉を開けて一歩外に出た――その時、俺の横から黒く塗られた刃が迫ってきた。
俺は黙って扉を閉じた。
俺を襲ってきた黒装束の男は、確実に捉えたと思っていたのだろう。だが、すぐに気が付いたようだ。
彼の持っていたナイフは俺の腹に刺さってはいないことに。男が持っていたナイフは刀身を失っていた。
一瞬で俺が二本の指で折ったから。
「まったく、これで何人目だよ。てか来るなら一度に来てくれよ」
俺はそう言うと、指に挟んでいた黒塗りナイフの刀身をその場に落とし、鳩尾を殴りつけた。
「声をあげないのは立派だけどな……まったく……誰に雇われたのか聞くのはもういいか」
前に襲ってきた暗殺者から、雇い主がムサビであることは判明している。
ちょっとルシル料理とアルティメットポーションをツーローテーションくらいしただけでギブアップとは情けない。
それでプロの暗殺者と言い切るんだからな。
仮にシグレやサクヤが同じ目にあったら舌を噛み切って死ぬくらいしそうだけどな。ま、舌を噛み切ってもエリクシールを使って治療するけど。
俺は男を縄でぐるぐる巻きにし、抱え上げて書庫の中に入った。
「コーマ様、またですか……」
レモネは少し怯えた様子で言った。
彼女が不安がるのも無理ない。命を狙われる経験など一度もないだろう。
しかも、部屋の隅にはすでに……数えたところキシメールを含めて七人の暗殺者が横たわっているからな。
「安心しろ、俺が守ってやるよ」
レモネをこれ以上不安にさせないように、俺は笑顔を浮かべてレモネの頭に手のひらを乗せた。
「……あ、ありがとうございます」
レモネは少し疲れが出たのか、俯きながら小さい声でそう礼を言った。
礼を言いたいのはこちらのほうなんだけどな。
「それで、見つかりそうなのか? ムサビの弱みは」
「あ、はい。すでに七カ所。決定的な二重帳簿の証拠は見つかっています」
「二重帳簿?」
税務官のドラマとかでよく聞くあれか。
「はい。エリザベート様に提出するための帳簿に改竄の後が見られます。あと、接待を受けたのかキックバックを受けたのかはわかりませんが、ムサビさんがらみで明らかに仕入れ値が高い、もしくは卸値が安い案件がいくつかありますね、これらの価格も適正化しないといけません」
「はぁ……そりゃ暗殺者を雇ってでもレモネを殺そうとするわ……」
俺はそう言って、万年筆を持ってペン回しをすると、それを投げつけた。
無音で扉を開けた一人の男の右手首に突き刺さり、男は持っていた短剣を落とした。
そして、俺は近付いていき、左手でナイフを持って斬りつけてくる暗殺者の手首をアイテムバッグから取り出したプラチナダガーで切り落とした。
男はその痛みで悲鳴をあげそうになったが、騒がれたらレモネが集中できないので鳩尾を殴って黙らせる。
手首を止血して暗殺者の顔を見る……若い女性の顏だった。
悪いことをしたなと思い、アルティメットポーションを飲ませると、手首から先が生えてきた。
意識を取り戻す暗殺者だが、無理やり睡眠薬を飲ませて、眠らせた。
「女性だったんですか?」
「あぁ、俺はフェミニストだからな」
「……そうなんですか。暗殺者の中には男性なのに女性の顏をして近付く人もいると聞きましたが、彼女は本当に女性なんですよね?」
「……ん?」
俺は暗殺者をよく見た。先程は気付かなかったが胸の部分は微かに膨らんでいるし、その顔はどう見ても女性だ。だが、スキルの中に「女装」があった。
「男かよ!」
俺はそう言ってハリセンでどついて、荒縄できつく縛り上げた。
治療するんじゃなかった。
「忍びの中には女装をするのが趣味になって、普段から女性の格好をしている人もいると聞きます。彼もその類でしょうか?」
「いや、そうでもないぞ。何か事情があって女の姿をせざるを得なくなった人がいるかもしれない」
「……どうしたんですか? コーマ様、妙に説得力のある言葉ですが」
「俺の知り合いにそういう経験者がいるってだけだよ」
俺は天井を見つめて息を吐きだした。
その時だ。通信イヤリングが揺れた。
クリスからだ。
「どうした?」
『コーマさんの言う通り、ムサビさんが国外逃亡を計ろうとしていたので捕縛しました。これからそっちに連れていきますね』
「あぁ、頼む」
クリスが帰った後、俺は通信イヤリングを使い、ムサビの張り込みをさせていた。
暗殺者の依頼が失敗し続ければ、絶対に逃げ出す。そう思っていた。
ムサビが逃げ出したってことは、もう暗殺者は来ないだろうな。
レモネに伝えれば安心するだろう。
そう思ったら、彼女はじっとこちらを見ていた。
「あの、コーマ様、その通信イヤリング、三つありますけど、ひとつはもしかしてメイベル店長とのホットラインなんですか?」
「ん? あぁ、そうだぞ。メイベルとクリス、あと、もうひとつ魔法の達人のところに繋がってる」
別に隠すことでもないだろうと思い、俺は言った。
俺とメイベルの関係性は最初から鍛冶師と店長ということで周囲も理解しているからな。
「……あの、もしかしてコーマ様、フリーマーケットの元オーナーなんですか?」
「あぁ、そうだぞ」
俺はあっさりと白状した。
別に隠すことでもないからな。コメットちゃんにも、彼女が純粋な人間だったころにあっさり白状したし。
「あ、でも他の奴には言うなよ。面倒だからな……ってあれ? レモネ?」
俺はレモネに近付き、彼女の前で手を振った。
レモネは気絶していた。




