表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/742

ガキの使いではない借用書

~前回のあらすじ~

コメットに俺がオーナーだとばらした。

「コーマ様がオーナー様だったんですか!?」

「呼び方戻ってるから。『さん』付けでいいから」


 まぁ、驚くのは無理ないか。

 ただの勇者の従者に過ぎなかった俺が、実はこの店のオーナーだったなんて。

 彼女にとってはこの店のオーナーは足長おじさんみたいに思っていただろうから、幻滅させちまったかもな。


「本当に偉いとかないんだって。店のことは全部メイベルに任せてるし」

「高価なアイテムの仕入れは全てコーマ様がしていますよ」

「ほとんど仕事してないし」

「この寮もコーマ様が一人で作られました」

「ね、俺、本当に名前だけのオーナーだから」


 なんとか敬われないようにしようとするが、メイベルに横から茶々を入れられた。

 間違ってはないんだけどね。


「話を聞く限り、誰よりも働いている気がしますが」


 そう言われてみれば確かにそうな気がする。

 最近、まともに寝ていないよな。空き巣対策とかで夜も忙しかったし。

 睡眠代替薬ばかり飲んでるし。

 最近は空き巣が出なくなって落ち着いてきたが。


「そんなことないって。俺、本業は別にあるし」


 魔王としての本業が。


「……そうですか。でも、金貨20枚も寄付していただいてよろしいんですか?」

「あぁ、足りるだろ?」

「はい、この先数年分の資金として十分すぎる――」


「え? 俺、毎月金貨20枚のつもりで言ったんだけど?」

「コーマ様、それは多すぎます。私は年間金貨20枚のつもりで申しました」

「でも、いけるだろ?」

「可能ですが、あの孤児院の規模でそれだけの資金提供をした場合、子供一人あたりの収入がラビスシティーの平均収入の5倍以上になります。そんなことになろうものなら、子供を捨てる親が続出してしまいます」


 確かに、孤児院の生活が最高! みたいになったら、自分の子供のために子供を捨てる親が出てくるかもしれない。

 それに、メイベルが言うにはその収入をなんとか横取りしようとする輩も出てくるかもしれないらしい。


「あぁ、それはまずいな。じゃあ、年間金貨20枚にしておこうか」

「では早速手配を――」

「あの!」


 俺とメイベルが話を進めていると、置いてけぼりをくらったコメットちゃんが、ようやく俺達に追いついてきたようだ。


「金貨って金貨ですよ! なんでそんな軽々と20枚だなんて。私の給料、10年分です」

「うちってそんなに給料低いの?」

「いえ、ラビスシティー内における労働者の平均月収と同額です。奴隷相手(私達の給料)としては前代未聞の高給ですよ」


 そうなのか。なんか結構簡単に金貨とか稼げるから金銭感覚が麻痺しているようだ。


「それで、簡単に金貨を寄付する理由だっけ?」


 なんて答えたらいいんだろうな。

 コメットちゃんが納得するだけの理由か。

 適当にでっち上げるか。


「あぁ……うん。コメットちゃんが困ってるからな。俺は従業員は全員家族みたいなもんだと思ってる。家族が困ってるのに何もしないなんておかしいだろ?」


 今まで自分の正体を黙っていてよくそんなこと言えるな。と、クリスではないが自分の言葉に身震いした。甘い言葉すぎる。

 まぁ、コメットちゃんのために何かをしてあげたい、という気持ちにウソはないからな。


 でも、コメットちゃんには効果がばつぐんだったようで、涙を流し、「ありがとうございます、ありがとうございます」と頭を何度も下げた。

 うん、やっぱりいいことをするのも気持ちいいな。


「じゃあ、コメットちゃん、一緒に孤児院に行こうか。今日、仕事はもう上がりでしょ?」

「はい、案内させていただきますね、コーマ様!」


 あぁ、もう「さん付け」で呼んでもらえることはなさそうだな。



 勤務外ということで、コメットちゃんはエプロンを外す。

 そして、俺と一緒に町に出ることにしたんだが。


 めっちゃ見てくるなぁ。


「あの、コメットちゃん、俺の顔に何かついてる?」

「い、いえ、すみません」


 そう言って、照れて俯く。

 そんなことされたら余計に気まずいんだけどな。

 ここは冗談でも言って場を和ませるか。


「あ、もしかして俺に惚れたとか?」

「すすすすみません! 私なんかがコーマ様をお慕い申し上げるなんて出過ぎたことだというのは重々承知しているのですが――」

「マジデスカ」


 生まれて16年。

 女の子にこんな好意を向けられることなど、ギャルゲーの中でしかなかった。

 いや、メイベルとかはもしかしたら? とか思っているんだけど、こうもど真ん中で来てくれるとはな。


「うれしいよ。ありがとうね、コメットちゃん」

「ひゃ……ひゃい」


 可愛いなぁ。本当に。

 とはいえ、俺の身体は人間でも、魔王の身体。

 ルシルが言うには年を取ることのない不老の身体。

 コメットちゃんとずっと一緒にいるわけにはいかない。

 いや、コメットちゃんだけではない。メイベルとも、クリスとも、いつかは別れを切り出さないといけなくなる。

 それを回避したければ、若返り薬みたいなものをどうにか作成して、店に売り出すしかない。


 ま、それこそ生命への冒涜だし、流石に作っても売りにはださないか。

 不老にはルシルの他にもう一人心当たりがあるんだが、あの人(?)もいろいろと苦労していそうだしな。


 歩き続けること1時間。

 孤児院ということもあって、スラム街に入ることも考えたんだが、そんなことはなく、普通に閑静な町の中。

 そこに、教会が建っていた。

 そういえば、「修道女シスター」とか言ってたもんな。

 教会兼孤児院ということか。

 ただ、教会の壁も掃除はされているがだいぶ傷んでいるな。

 金がないというのもウソではないようだ。


「孤児院は教会の裏にあります。教会の中にシスターがいらっしゃると思うので、先に中に入りましょう」


 コメットの提案に、俺は「わかった」と言って、教会の中へと入っていく。

 すると、すでに先客がいたようだ。


「おうおう、シスターさん、支払いの期限は今日までなんだぜ。払うもの払ってもらわないとよぉ」

「払えんときはわかってるやろな。おんどれの身を売るか、子供ガキを奴隷にするかしてもらわんとよぉ」


 うわ、露骨な借金取りだ。

 ここまでテンプレなことを言う二人組、滅多に見ないな。

 その奥に、50歳くらいの修道服を着た女性が困った顔で立っていた。


「すみません、どうか、あと1週間だけ待ってください」

「わいらガキの使いやないんやで。1週間待ってと言われてはいそうですか、と帰れるわけねぇだろうが」


 予想通りの問答が繰り広げられている。


「あのぉ……、御取込み中のところすみません」

「なんやガキ、部外者はすっこんどれ」

「コメット、どうしてあなたがここに!?」


 借金取りが俺に凄み、シスターがコメットを見て驚きの声を上げた。

 ま、これもテンプレだ。


「借金っていくらなんですか?」

「あぁ? 利息込で金貨4枚と銀貨13枚や。おんどれが肩代わりするっちゅうんやったら――」

「はい、金貨4枚……あと銀貨13枚」


 俺がアイテムバッグから金貨を4枚と銀貨13枚出すと、男達は目をきょとんとさせ、


「こいつはどうも。またのご利用お待ちしておりやす。あ、これ、釣りです」


 男は俺に銅貨を7枚渡した。意外ときっちりしているな。

 正確には金貨4枚、銀貨12枚と銅貨93枚だったようだ。


「ってちょっと待て、借用書を置いて行けよ」

「あ、あぁ、そうだった。おい、バラ、渡して差し上げろ。金を払うなら客だから丁寧にな」


 バラと呼ばれた男は、借用書をシスターに渡した。


「それでは、またのご利用をお待ちしておりやす」


 二度目のセリフとともに、男達は帰って行った。

~通貨②~

アイテムが登場していないので通貨について。

魔物が落とすゴールドやギル。

魔物が落としたお金をそのまま通貨にしてしまって大丈夫なのか?

貨幣が大量に出回れば、インフレが起きて世界は混乱するだろう。

しかも、ゲーム内の貨幣はだいたいが統一貨幣です。

両替商なんて存在しません。


正直、経済として破綻しないほうがおかしいです。

まぁ、魔物を倒せる人間が少ないので、魔物退治の報酬である!

とか、魔物の持っているお金は人間から奪ったもの!

という考え方もありますし、MMOなどでは魔物退治するよりもプレイヤーと取引するほうが金を稼ぐのに効率がいい、という設定にしています。


ちなみに、有名なゲームの中で、通貨のインフレが激しくなったゲームが存在しました。

そのゲーム、オンラインゲームなのに、開始当初はチートツールが利用できて、しかもその恩恵をチートを使ってない人まで得られるという。

高値で売れるアイテムが大量にドロップされ、それを大量に売ることで大量の貨幣を得てものすごいインフレ状況になりました。


そのゲームがどうなったのか?

次回に続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ