お金、取り立てます
~前回のあらすじ~
クリスに腕を掴まれた。
俺は逃げ出した。
しかしクリスに腕を掴まれた。
勇者は魔王からは逃げられないのと同様、魔王も勇者からは逃げられない定めなのか。
それなら、最初から「にげる」コマンドを封印してくれたらいいのに。
ファミ○ン版のドラ○エ4だと、八度逃げる行動を失敗したら通常攻撃が全てかいしんの一撃になるという裏技があったそうだが、残念ながらかいしんの一撃が出たところでこの場は何も解決しない。
「お母さん、大事な話があるの」
クリスがエリザさんにそう言って詰め寄った。
俺も腹をくくらないといけないのか、そう思った。
「どうしたの? クリスちゃん」
「あのね、お母さん!」
「あ、そうそう、聞いてよ、クリスちゃん。お店が潰れそうなのよ」
のほほんとした口調でクリスが言った。
「そんなことより、実はコーマさんと……」
………………………………え?
「「どういうこと!?」」
思わぬエリザさんの発言に、俺とクリスは声をあげた。
「潰れるってどういうことなの、お母さん!」
「それがね、戦争があったでしょ? 大きい戦争で。それでね、お金が必要だからってレイシアちゃんの部下の人が来てね、戦争でお金が必要だから工面してほしいって言われたのよ。ほら、レイシアちゃんとクリスちゃんって昔から仲がよかったじゃない? だからね、クリスちゃんがいないから可能な限り渡してあげてって店長に命令書を書いたんだけどね、間違えて全財産を渡すように書いちゃったみたいなの……どうしましょ?」
どうしましょ? じゃねぇよ!
「一体、いくら足りないんだ?」
「金貨5万枚くらいかしら? この家を宝物庫のガラクタを全部売れば金貨4万枚くらいにはなるから、残り1万枚ね」
宝物庫のおたからをガラクタ扱いするなよ。
それらを売っても残り100億円か。
俺も結構貯金はあったんだが、学校建設のためにその大半を使ってしまった。
つまり……俺の財産じゃ全く足りていない。
「……あぁ、お爺ちゃんが生きていたらこんなことにならなかったのにならなかったのに」
クリスは嘆いて崩れ落ちる。
「とりあえず、レイシアから金を返してもらおうぜ。戦争も終わったんだ、金は残っているだろ」
「そうですね! 行きましょう、コーマさん!」
フレアランドの王都の郊外にあったクリスの実家から走って3分、距離にして5キロほどの場所にフレアランドの王都があった。
「王城というよりかは、これは洞穴だな」
フレアランドの王城と呼ばれる場所は、山にあった。
城下町も山のふもとにあり、坂の町という感じだ。
「まさか、この山にレイシアは住んでいるのか?」
「ここの岩盤はとても丈夫で、落盤の心配はありません。中には湧き水があり飲み水に困ることはないそうです。暗いのが難点ですが、昔から火の神子はこの山の中で力を高めたと言われています」
「へぇ……クリスは入ったことがあるのか?」
「はい、お爺ちゃんと商談をするときに何度か来たことがあります。その時に、神子の修行をしているレイシアちゃんと友達になったんです」
「そうか。じゃあ、レイシアとは久しぶりの再会ってわけか」
「はい、とても楽しみです……あ、でも私が一方的に楽しみにしているだけで、レイシアちゃんは私の事を忘れているかもしれませんね」
クリスが寂しそうに言った。
「そんなことはないさ、あいつはクリスのことを覚えていたぞ」
「そうなんですか? それは嬉しいです」
洞穴の入り口に、フレアランドの兵が門番をしていた。
俺は門番の男のところに行き、
「レイシアはいるか? コーマとクリスが来たと伝えてくれ」
「何者だ! そのようなものが来る連絡など受けては――」
あぁ、最近自分でも大物になったつもりになってしまうから忘れがちだが、俺って17歳のガキだし、装飾品もほとんどつけていないからな。唯一の装飾品であった通信イヤリングもベリアルとの戦いでなくなってしまったから安っぽいガキに思われるのは仕方がないか。
「そうだ、クリス、お前の勇者の証でちょちょいと」
「え……いや、それはその」
「なんだ、さっき偽物扱いされたことまだ気にしてるのか? 名誉挽回のチャンスじゃないか。恥の上塗りになるかもしれないが」
「また偽物扱いされたら立ち直れませんよ!」
「……それ以上ここで騒ぐようなら牢に連れていくぞ!」
門番の男が青筋を浮かべて怒鳴りつけてきた。
弱ったなぁ。無理やり侵入してレイシアのところまで行けば丸く収まりそうだが、レイシアがこの奥にいなかったら厄介だ。
「そうだ、エリザベートさんに書状を書いてもらえばいいんじゃないか?」
俺がクリスに提案した、その時だった。
「その必要はない」
洞穴の奥から、赤い髪の美女が現れる。
レイシアだ。
「その者どもは私の客だ。通してよい」
凛とした声でレイシアは言い切った。
「はっ! 失礼しましたっ!」
門番の男は敬礼した。
「悪いな、コーマ、融通の利かぬ門番でな、私も苦労している。それと――」
レイシアはクリスを見て言った。
「久しぶりだな、クリス。大きくなったな」
彼女の視線は主に胸に向かっている。
「お久しぶりです、レイシア様」
「昔みたいにレイシアちゃんで構わん。それで、二人揃って無事を報告しに来てくれたのか?」
「いや、そうじゃないよ、レイシア。俺はただこう言いに来ただけだ」
俺は笑顔で言った。
「金を返してくれ」
何故か俺の横でクリスが身震いしていた。
おかしいな、俺はクリスに対しては金の取り立てなんてほとんどしたことがないから怖がるはずがないのに。
まぁ、お金を作る手段なら山ほどあるんだけどね。




