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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode09 通常運転

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クリスの涙

~前回のあらすじ~

クリスと結婚することになった。

「ということで、シグレ、同盟は纏まった。お前は学校に帰って教鞭に勤しんでくれ」

「あの、コウマ殿。ということでと言われても、何も説明を受けていないのですが……クリスティーナ様はどうなさったのですか? 顔が真っ赤ですが」

「ということは、ということだ。悪い、本当になんて説明したらいいのかわからない」


 クリスと結婚することになって今からご両親に挨拶に行くから、先に帰っていてくれ、なんて言えない。

 俺もなんでこうなったのかわからないんだ。


 クリスのことは嫌いじゃない。

 バカな子ほどかわいいというからな、俺はクリスのことを世界一かわいいと思っていると言っても過言じゃない。

 しかも、記憶を失っているときにクリスを見たせいで、クリスの美人具合を再認識していた。

 それでも、俺はクリスと結婚することは絶対にないと思っていた。

 バカだからというのもその理由のうちのひとつだが、なにより、俺には守るべきモノがいた。

 ルシルだ。

 俺はルシルのためならすべてを差し出してもいいと思っていた。

 そのルシルに結婚するように言われたんだ。

 喜んで結婚しようじゃないか。

「あの、コーマさん」

 結婚か。

 俺、まだ16歳……いや、こっちの世界に来て17歳になったはずだが、でも魔王だから年は重ねないので16歳のままのはずだ。

 それなのに結婚できるのだろうか?

 この世界の結婚可能な年齢は何歳からなのだろうか?

 クリスは17歳、いや、そろそろ18歳になったのか?

 だとしたら結婚はできるだろう。

「あの、コーマさん……」

「なんだ?」

「なんで私達、走ってるんですか?」

「それはもちろん、馬車だと俺が辛いからだ」


 俺達はダークシルドを走って南下していた。

 そこから精霊の湖の周りにたどりつき、フレアランドを目指す行程だ。


「あの……コーマさん」

「なんだ?」

「コーマさん、不機嫌ですよね」


 クリスの声に驚いたせいで、俺は足元の小石に躓いた。

 慣性の法則が働き、俺の体は数十メートル前方に吹っ飛ぶ。


 そして、無言で戻り、躓いた石を握って持ち上げた。

 石は表面に出ているのはほんの一部で、大半は地中に埋まっていたようだ。

 俺の体よりも大きな石――いや、岩を投げ飛ばし、


「俺の機嫌が悪いって? 気のせいだろ」


 息を何度か吐き、そう言い捨てた。

 なんで俺の機嫌が悪くならないといけない?


「……気のせい……ですか?」

「あぁ、クリスはバカだからな。結婚ってのは幸せな人間がするもんだぞ」

「それはそうですけど」


 クリスが下を向いて、口を噤んだ。

 自分で自分の事をバカと認めたことに気付いていない。

 はぁ……と俺は頭を掻いた。


「悪い、クリス。俺も大人げなかった。お前の気持ちもちゃんと聞いていないのにいきなり結婚なんて言って。嫌なら嫌と言ってくれ」

「あ、コーマさんと結婚するのは構いませんよ。私、たぶんコーマさんのこと好きですし」


 クリスはあっけらかんとした口調で、そんな告白をした。

 俺がいうのもなんだが、ムードもへったくれもない。


「……えっと、ちなみにいつから?」

「リーリウム王国の迷宮でコーマさんが助けに来てくれた時です。なんといえばいいんですかね、こう、胸がドキドキってして、気付いちゃったんですよ。その後はコーマさんのことが好きなのか考えて、結果的にコーマさんのことが好きだということになりました」


 ……こいつ、そんなに前から俺の事が好きだったのか。

 てか、そんな大事なことをこんなところで言っていいのかよ。


「走りながら話すか」

「――はい」


 俺達は走りながら言った。


「クリス、俺はお前に感謝している」

「私にですか? あ、勇者の従者になって迷宮に入れたことですか?」

「俺が魔王だと知って、それでも俺のことを信じてくれるって言ったよな。あの時、本当にうれしかった」


 あの時、俺は人間と決別するつもりだった。

 二度とラビスシティーに戻らない、そんなつもりでいた。

 だが、クリスが俺を受け入れてくれた時、思ったんだ。

 俺の居場所は魔王城だけじゃない。ラビスシティ―の中も俺の居場所だったんだと。


 精霊の湖、大聖殿の聖域に近付いてきたので、俺達は走るペースを少し緩めた。

 国境沿いには兵が待機しているため、さすがに時速数百キロの速度で突入したら怪しまれるからな。


 速度を緩めて、普通にフルマラソンの世界チャンピオンくらいの速度で門に近付いた。

 怪しまれたのは怪しまれたのだが、鈴子にもらった許可書を見せたら最上級の敬礼をされて通ることができた。


「さすがは闇の神子の力だな。まぁ、あれがなくても勇者の証を見せたら通れるんだろうが」

「あぁ、そういえば最近使ってませんね、勇者の証」

「だな。あれだけ苦労して取ったのになぁ」


 思えば、クリスが持っている勇者の証――これが、俺達が最初に協力して得たものだった。


「フレアランドに入るときは勇者の証を使って入ってみるか」

「そうですね。そうしましょう」


 俺達はお互いに笑いあって、そんなことを言った。

 初心に戻ったような気分だ。


 そして――


「お前みたいな女が勇者なわけないだろ」


 勇者の証を使って入国するとき、彼女が書いた書類が間違いだらけだったせいで、勇者と信じてもらえなかった。

 ……クリスって、知識はあるのに行動がバカなキャラだったはずなのに、いつの間にか完全バカキャラになってしまったようだ。


 結局、俺がレイシアと一緒に入ったことを見ていた兵士が出て来て、俺のことを覚えていたらしく、通してくれた。


「うぅ、本当に勇者なのに……本物なのに」


 ……賢くなる知識の神薬みたいな薬を作ることができないだろうか?

 涙を流すクリスを見て、彼女のためにそんな薬を作ってやりたいと本気で思った。

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