クリスの貯金
~前回のあらすじ~
フリマの副店長が変態だった。
フリーマーケット・ダークシルド支店から逃げ出した俺達は、とりあえず近くのカフェにいった。
セルフサービススタイルのカフェで、出てきた飲み物を席に運ぶ。
「クリスティーナ様、アイスコーヒーをお持ちしました」
「ありがとうござます……あ、コーリーちゃんはハッカ茶なんですね。へぇ、ここにもあったんですか」
「フリーマーケットから仕入れているそうですよ。店主さんが話してました」
すっとする後味なので、一部の客にはかなり好まれて飲まれているそうだ。
クリスはアイスコーヒーにミルクを入れて飲み、
「あ……懐かしい……」
と呟いた。
「懐かしい?」
「これ、ただのコーヒーじゃないんですよ。ちょっと飲んでみたらわかりますよ。飲んでみてください」
勧められて飲んでみる。
ん? 独特な甘みがあって、確かにこれはコーヒーというよりかは別の飲み物の味がする。
どことなくココアにも近いんだが、それでもないんだよな。
「この味、どこから飲んだような気がします……どこだったかなぁ」
「……ミ○」
「そうです、そうです。○ロです! ってえ!?」
横を向くと、そこいたのは鈴子だった。
「こんなところにいていいんですか?」
俺は鈴子にそう尋ねた。
まぁ、レイシアが教員面接を受けにきたり、アルジェラが学校に通学したりと神子はどこの国でも自由にしている気がするので今更なのだが。
「大丈夫。私の設定はラミーの付き人。狙われるほどの価値はない」
「そういえばコーリーちゃんも闇の神子様のことを知っているのですよね。城の中でも一部の人しか知らないそうで、あまり大きな声では話せませんね」
とクリスは普段と変わりのない声で――つまりは聞き耳を立てたら聞こえるような声で話していた。
俺は焦って周りを見回すが、他に客はいないようで胸を撫で下ろした。
鈴子、クリスに自分の正体をばらしたのは早計だったんじゃないか?
「ここのミ○、神子になる前に長年の研究をかけて再現した」
「え? この麦芽コーヒー神子様が作ったんですか? 私がこの大陸で修業している時に一度飲んだことがあるのですが」
「……とても懐かしいものをいただきました」
俺は苦笑して○ロ……もとい麦芽コーヒーではない何かをクリスに返した。
口の中がかなり甘ったるく、ハッカ茶の中の微かな甘みを感じ取ることができなくなった。
明らかに失敗だ。
「ところで、さっきから言ってる――」
「○ロは私達の故郷の飲み物なんですよ」
先回りして、答えを合わした。
クリスは空気を読まずに伏字を使わない恐れがあるからな。
「え? 神子様とコーリーちゃんって同郷なんですか?」
「ええ、だいぶ遠い場所なんですけどね」
そうだ、話を聞きたい。
鈴子について。
ついでにクリスから逃げたい。
「あの、クリスティーナ様、仕事も終わったので、久しぶりに故郷の話を神子様とふたりでしたいので」
「あ、そうでしたね。わかりました。では後で王宮に行きますから」
「では、代金、ここに置いておきますね」
「あ、ここは私が払いますよ。コーマさんからの借金もなくなって、懐に少し余裕があるんです」
「え? コーマ様の借金払い終えたんですか? かなりの大金だったと思うのですが」
「はい、コーマさんが帳消しにしてくれたんです」
……ピカーン!
完全に逆恨みだが、少し腹いせをすることにした。
「クリスティーナ様、それは危険ですよ」
「え?」
「聞いた話だと、コーマ様にした借金ってクリスティーナ様が望んでしたものばかりなのですよね?」
クリスが俺に最初にした借金はプラチナソードの代金だった。
武器を騙し取られたため、俺が武器をツケで売ってやったのだ。
その後も、ことあるごとにいろいろと借金し、最終的に炎の剣の代金で金貨数千枚になった。
ゴブカリを巡る戦いの中で、クリスの借金をチャラにしてやるとたしかに言った。
だが――、
「もしもそんな風になし崩し的に借金をチャラにするという前例を作ってしまえば、コーマ様は二度とクリス様にお金を貸してくれなくなりますよ」
「……だ、大丈夫ですよ! これからはお金が必要になったときのことを考えて貯金をしていけば――」
「ダメです。クリスティーナ様の性格を考えると、借金を返すのと貯金をするのでは、貯金をする方が難しいに決まってます。今だって、私達の飲食代を払おうとしているじゃないですか」
「それは……」
「クリスティーナ様は借金をしっかり返済すると言うべきです! それなら、本当にお金が必要な時にコーマ様がまたお金を貸してくれますから」
「……借金……また借金」
「私を信じてください、クリスティーナ様……では、ここのお金は私が置いていきますから、それでは行きましょう、神子様」
俺はルンルン気分で、鈴子の手を引いて店を出た。




