閑話 潜在意識の忘却
~前回のあらすじ~
偽コーマのゴーレムが301体暴走した。
「12体目! くそっ、なんでのんきに魚のいないため池で釣りなんてしてやがるんだよ、俺! しかも釣り針もついてないし! お前はどこかの仙人か!」
半分になった俺は暫くすると土くれへと姿を変えた。
そのあたりはアルジェラの作ったクレイゴーレムと同じだ。
それにしても、効率が悪すぎる。
200階層だけでもかなり広いからな。
偽者の俺は転移陣は使えないから101階層まで転移することはないだろうが、それでも放っておいたらどこまでいくかわからない。
マネットが言うには、俺そっくりのクレイゴーレムには、俺から漏れ出る魔力を集めて流し込んだんだという。
だから、俺の行動を考えたら行き先がわかるんじゃないか? と言うが、本当に何をしているのか全く想像がつかない。
「キャァァァァァ」
今度の悲鳴は――カリーヌかっ!?
俺は急いでカリーヌの元へ急いだ。
カリーヌは純粋だから、ゴーレムの偽物が俺だと最後まで気付かない恐れがある。
それなら、どうなるのか!?
「カリーヌっ!」
俺はスライム用のアスレチックの部屋を開けて――驚愕した。
その部屋に、俺が七人いた。
「わぁい、コーマお兄ちゃんがまた増えた! お兄ちゃんも分裂できたんだね!」
七人の俺が無言で青い半透明の少女――カリーヌと一緒に遊んでいた。
うんうん、微笑ましい光景だ。
俺はカリーヌに近付いていき、その頭を撫でて、
「カリーヌ、いい子だから、ちょっと部屋から出て行ってくれないか?」
「え? なんで?」
「ほら、スライムが分裂するように、今度はひとつにならないといけないからな」
「あぁ、そっか! うん、わかった」
プニョプニョと効果音を上げて、カリーヌが部屋から出ていく。
そして、俺は笑顔で七人の俺を見た。
七人の俺も笑顔でこちらを見て来て――一瞬で全員切り裂いた。
こんな光景カリーヌには見せられないからな。
土くれになった俺の分身を見る。
これで19体。
もしかして、もう上の階に向かったのか?
その時、通信イヤリングが震えた。
『コーマ、ゴブカリから連絡が来たわ。コーマが30人、ゴブリンの村に向かったそうよ。しかも全員武装して――』
「………………っ!」
くそっ、恐れてたことが起きた。
たしかにクレイゴーレム相手なら、魔王軍幹部なら余裕で倒せる。
だが、ゴブリンはどうだ?
ゴブカリ以外のゴブリンは弱い……正直、雑魚中の雑魚といってもいい。
クレイゴーレム3体に囲まれたらまず勝てないだろう。
しかも武装しているという。
魔王城に置いてあった武器は、全て俺が作ってアイテムバッグに入れるのが面倒で放っておいた武器だ。
武器屋で売っている武器よりもかなり性能のいいものもまじっている。
何がなくなったのかわからないくらい残っている。
「くそっ、ゴブリンの村にはいつかちゃんと武器とかの支給をしないといけないと思っていて後回しにしたのが災いした」
どうしても、この迷宮の主戦力はゴーレムとスライム軍団、そこを突破されたらミノタウロスになるから、ゴブリン達は後回しにしていた。
思えば、あいつらは魔王軍でグーとタラの次に仲間になった奴らだっていうのに。
俺は全速力で、砂煙をあげながら階段をあがっていく。
途中で材料を採取していた一体の俺を倒した。
そして、ゴブリンの村にたどり着いた。
「魔王様! 本物の魔王様ですね!」
俺を出迎えたのは、ゴブリンらしくない美形の少年――かつてゴブリン王になりそうなところを弱化の泉によってゴブリン将軍まで格下げとなったゴブカリだった。
本当はゴブ(仮)と呼んでいて、正式名称は別に考える予定だったのだが、もうゴブカリが名前になっている。
「ゴブカリ、俺の偽者はどこだ!?」
「こちらです!」
ってあれ? 俺に攻め込まれているのならなんでゴブカリがこんなところにいるんだ?
そう思った俺が見たのは――武装した三十体の俺の姿だった。
全員がのこぎりや金鎚、鍬を持って働いていた。
「ゴブ……ゴゴブゴブ」
ゴブリン語だろうか? ゴブカリが話しかけているのはゴブリンの長老――つまりはゴブカリの父親らしい。
ゴブカリと違い、ゴブリン本来の……仲間の表現としては適切ではないが醜い姿をしたそいつを見る。
確か、こいつはルシルが最初に召喚したゴブリンの一体らしいが、俺にはゴブリンの区別はつかない。
ゴブリンは「ごぶ、ごぶごぶ」とゴブリン語で何か話している。
「父は、魔王様にゴブリン村建設のための人材の提供を感謝しています」
「あぁ、わかった。ただ、ややこしいから偽者の俺は処分するから勘弁してくれ」
俺がそう言うと、ゴブカリはゴブリン語で翻訳して、長老に伝えてくれた。
俺の意志に従うと言ってくれたので、復興作業をしていた俺を全部退治した。
これで50体……まだ251体残っているのか。
それにしても……いや、間違いない。
俺の偽者は、本当に俺の意志で動いている。
俺がしようと思ってしなかったことを俺の偽者はしているのだ。
マネットの力を舐めていた。俺の潜在意識を読み取ることができるとは。
ゴブリンの村の建設の手伝いもしないといけないと思っていた。
タラに対しては、コメットちゃんに服を買っていたから、タラにも服を買ってやらないといけないとか思っていた。ルシルの下着を盗んだり、女性物の服を持ちだしてタラに渡したのは間違えているが。
カリーヌに対してももっと一緒に遊んでやらないといけないなと思っていた。
それに、コメットちゃんに関しても、彼女の純粋な気持ちに、しっかりと答えてあげないといけないなと思っていた。
釣りをしたり畑を耕したりとのんびりとした生活をしたいとも思っていたし、アイテム採取はいつもしたいと思っている。
ならば――残り251体の俺はどう処分したらいいのか?
その答えはわかっているじゃないか。
俺がやってあげたいと思ってやってあげることができなかったこと。
そんなのひとつしかない。
※※※
魔王城の鍵付きキッチン。
普段は施錠されていてルシルの立ち入りを禁止するその場所に、俺とルシルがいた。
食材もそれなりにいいものを用意している。
「コーマ、本当に……本当にいいの?」
「あぁ、めいいっぱい作ってくれ」
「……わかったわ! 丹精込めて作るわ」
俺はそう言うと、じゃあ待ってるからと告げて食堂を出た。
俺は常々思っていた。
ルシルの料理を腹いっぱい食べてやりたいと。だが、そんなことをしたら俺が死ぬのでできないでいた。
あとは任せたぞ、という気持ちで俺はシェルターへと避難した。
緊急用に作った、仲間にも知らせていないシェルター。
そこにある映像受信器から、魔王城の映像を見る。
映し出されたのはキッチンだった。
ルシルが作っているのはサーモンのマリネだろうか?
足の生えた巨大魚になってキッチンから走り去ったのにルシルは気付いていない。
次に肉料理、ライス、デザートなどを作っていくが、全部走ったり飛んだり影の中をもぐったりしていなくなった。
全ての料理がなくなったことに気付いたルシルは首を傾げていた。
音声は聞こえてこないが、本当に不思議に思っているようだ。
よし、あとは俺の分身がルシルの料理を食べるわけだ。
きっと俺の願望はルシルの料理を食べることを望んでいる。
そう思った。
映像を切り替える。
すぐに見つけた。全力で走る俺の姿――ルシル料理に追われていた。
「あれ? 逃げてるのか?」
ルシルの料理を食べることが願望じゃないのか?
そう思って、
「あぁ、なるほどな。つまりは願望を恐怖が上回ったってことか」
なんて納得してみるが、最初からわかっていたことだ。
ふはははは、これで偽コーマが全滅するのは間違いない!
例えいいことをしていようと、俺は俺だけで十分だ。
偽物は一体も要らない。
せいぜいルシルの料理に食べられて死ぬがいい。
アイテムバッグから黒マントを取り出して笑っていた。
俺の分身がいい奴らだったから、俺は悪役になってやるという意志だ。
ルシルの料理を一口、また一口と食べて倒れていく俺の分身。
このままでいけばちょうど残りのゴーレムを全部倒して終わるだろう。
そう思ったときだ。
俺の分身達が魔王城に逃げ込んできた。
カメラを切り替える。
俺の偽物が残り20体、まっすぐ同じ方向を目指していた。
その方向は――
「しまった!」
奴らが俺の潜在意識をトレースしているというのなら、俺が一番安全だと思う場所に逃げ込むはずだ。
その安全な場所とは――はっ!
扉が開く音がした。
誰にも知らせていない扉を、潜在意識のみで発見した俺の分身はまっすぐこちらに向かってきた。
ルシルの料理を引き連れて――
「はは……は……」
悪の栄えた試しなし。
悪になることに徹した俺は、次の瞬間、残りの俺の偽物とともにルシル料理の餌食になった。
いや、ルシル料理を餌食としてしまった。
※※※
後日談。
「そうですか、そのようなことがあったのですか」
ウォータースライムを頭にかぶったマユが俺に笑顔で言った。
「ところで、コーマ様の分身が一体も私のところに来なかったのですが、つまり、コーマ様は潜在意識下でも私のことを忘れていたということですか?」
「…………ごめんなさい」
心からマユに謝罪した。
ということで、300話記念に作った魔王軍幹部総出演の話でした。
メディナが登場していないのは、ちょっと彼女の立ち位置が未確定だからです。
301話と302話に書いてしまいましたが。
次回から通常に戻ります。




