再封印
~前回のあらすじ~
ルシルに再封印してもらうことになった。
魔王城から徒歩三分の場所に、それはあった。
いや、なかった――というべきだろうか。
相変わらず何もないその場所を俺はしっかりと見つめる。
元魔王城。
この世界で目を覚ました場所。
俺の中のルシファーの力を封印するために消滅したそこに、俺とルシルはいた。
魔王城のあったその場所は今は小さなクレーターと化している。
「ここに来るのも随分久しぶりな気がするな」
「久しぶりって、コーマ、たまにここに来てたじゃない」
「……見てたのか?」
「そりゃ、ずっと一緒にいるんだし」
あぁ、ここにいて決意を新たにしてたんだよな。
怖いことがあったとき、死にそうな目にあったとき、挫折しそうになったとき。
俺はあの時のルシルの涙を決して忘れないようにここに来ていた。
「コーマ、今からコーマの封印を完全に解除するわ。あの時と同じ状況になるの。でも、私はあのときほど直ぐに魔法は使えないと思うわ」
「そうなのか?」
「うん……今の私は普段は力を失ってる状態だから、本来の姿に戻ったときにその反動に体がついていかないと思うの。でも、コーマが作った魔力の神薬を飲み続けたおかげで、前より強力な封印はできると思うわ」
「そうか……よし、頼むわ。なんとか時間は稼いでみる」
俺はそう言うと、クレーターの底まで歩いていく。
「コーマ、じゃあ行くわよ!」
「あぁ、頼む!」
ルシルはユグドラシルの杖を持ち、呪文の詠唱を始めた。
『原初に戻れ封印されし力、氷の城は全ての光を反射せしめる闇の砦よ現れよ!』
突如俺の体が宙に浮かぶ。そして、俺の中から無数の光の刃が現れ、周囲に飛び出し、氷が城の形を作り出した。
突如、俺の中の破壊衝動が声を上げる。
【殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ】
あぁ、相変わらずうるさいな。
でも、あの時より弱い。
俺が成長しているだけではなく、弱化の泉による力の減少がまだ残っているからだ。
これなら――まだ俺も耐えられる!
「ぐっ……ぐぐぐぐ……」
竜化がはじまる。
皮膚から鱗が生え、頭に角が生える。
このままだと翼が生えるのも時間の問題だろう。
だが――まだいける。
そう思ったその時、俺の翼が生え、急降下を開始――俺の拳が前に突き出され、氷の城の床を突き破りルシルを殺そうとした。
が――その拳はルシルに届くことがなく、俺の右頬に激突する。
「いつまでもお前に負けてられないんだよっ!」
俺はそう叫ぶと背中の翼を引きちぎって投げ捨てた。
「絶対零度封印術!」
直後、ルシルの魔法が俺の捨てた翼を氷の刃に変えた。
氷の刃は俺に突き刺さり、その体を上空へと押し上げる。
容赦ない攻撃だ。
本当にありがたい。
俺は微笑み、ルシルに囁くように口を開く。
その言葉は決して声にはならなかった。
だが、確かに俺は囁いていた。
俺の中にある破壊衝動とは逆のその言葉を。
彼女の姿は今は大人のそれになっていた。
相変わらずの美人だ。
あいつが聞いたら絶対に怒るだろうが、それこそ女神のような美しさだ。
「絶対零度封印術弐式」
氷の城が無数の刃へと変幻し、俺の体へと降り注いだ。
※※※
目を覚ますと、すぐ傍にルシルの顏があった。
俺を覗きこむルシルの顔が。
俺はルシルの膝の上で目を覚ましたようだ。
「ただいま、ルシル。悪い、土産の用意はしていない」
「おかえり、コーマ。別にいいわよ。また私の料理を食べてくれるのなら」
「それは勘弁願うわ……最近胃の調子が悪くてな」
「そうなの? ならまた薬草汁を作ってあげるわ」
そんなほのぼのとしているような、物騒なような、それでいていつもの会話に、俺達は微笑み合った。
氷の刃の欠片が落ちてきた。
俺はその氷に手を伸ばし、アイテムバッグから魔石と白金を含めたいくつかの道具を取り出す。
「アイテムクリエイト」
……………………………………………………
氷の髪飾り【装飾品】 レア:★×5
溶けない氷によって作られた髪飾り。
氷の加護により、炎の攻撃を防いでくれる。
……………………………………………………
「……これで許してくれ」
俺はそう言って、桜の形の氷の飾りがつけられた髪飾りをルシルの髪へと付けた。
完全な封印が終わったことにより、俺は再度この力を――俺のアイデンティティーと言える力を再度手に入れた。
「仕方ないわね。当分は許してあげるわ」
当分か……ははは、やっぱり容赦ねぇな。
胃薬の用意だけじゃ絶対に無理だな。
こうして、俺は元の場所に戻ることができた。




