コーマの正体
~前回のあらすじ~
死ななかった。
「水弾!」
水の玉を上空に放つ。
コメットに教えてもらった、俺が使えるという魔法の一つだ。
水魔法を覚えているのは知っていたが、どんな魔法を使えるのかは、偶然使えたライトくらいなものだったからな。
水の玉は上空にいくと、やがて重力により速度を失い、そして降下を始めた。
俺はその水を浴びるように受け止めた。
一瞬の出来事とはいえドラゴンの腹の中に入ったからな、体は胃液でドロドロだったからな。
とりあえずは水で洗い流した。
服はコメットが洗ってくれている。後で洗うと言ったんだが、放っておけばシミになるからと言ってくれた。
アイテムバッグの中に入れたら時間が経過しなくなるから平気だと思うんだが、器用にシミヌキをしていく彼女を見て、任せておくべきだと思った。
幸い、アイテムバッグの中には代わりの服もいろいろあるから服に困ることはなかった。
「で、メデューサ」
「えっと、私はメディナです」
「じゃあ、メディナ、悪かったな。俺のことを心配してくれていたのに」
「そう思うなら目隠しを外してほしいのですが」
目隠し状態のメディナがそう言った。
「いや、助けようとしてくれた善意は認めるが、それと信用できるかは別の話だしな。悪いな」
「それなら髪を持たないでください」
「いや、流石にあまり近くで持ちたくないんだよ」
俺は髪代わりの蛇を一本持って持って運んでいた。
未だに彼女の髪代わりの蛇はうねうねと動いている。
本当に悪いと思いながら、俺はメディナの家というその場所を目指して歩いた。
「それにしても、このあたりは変わった草が多いなぁ。錬金術の良い材料になりそうだ」
「ダークエルフはこの森でとれる薬草を人間の国に売りに行ってお金を稼いでいるそうですよ。私もお金は必要ないですが、呪術の薬を作ったりするのに使ってます」
「へぇ、そうなのか……俺も錬金術が使えるみたいだし、少し摘んで帰るかな」
そう言いながら、
「それにしても、本当に妙な魔物がいるんだなぁ。鑑定で料理に見える魔物なんて」
と感想を独りごちると、コメットとメディナは少し黙った。
最初に口を開いたのはコメットだった。
「コーマ様、さっきの猛獣は魔物ではなく、本当に料理なのです」
「料理と言うか料理の成れの果てですね」
メディナがそう言った。
料理の成れの果て?
「ははは、まさか、捨てられた料理が進化して魔物になったとかそういう話か?」
「いえ、あの料理は作り終わった時から魔物なんです。ルシル様が料理を作ると、その料理は等しく魔物になるのです」
……は?
待ってくれ、ルシルの料理といえば豚汁や牛丼などいろいろ食べたが、かなり旨かった。
少なくとも魔物じゃなかった。
……いや、そうじゃないな。
あれらは俺がルシルが作ったものだと勝手に思っていただけで、本当は誰が作ったのかわからない。
そして、アイテムバッグの中に、先ほどの三匹ほどではないが恐ろしい料理は確かにあったではないか。
襲い掛かってくるフライドチキン。
そして、ハンバーグの香りのするスライム。
もしも仮にあれらがルシルの本当の料理だとすれば。
戦慄が走った。
恐ろしい、なんて恐ろしい力だ。
ただの食材から最強の軍団を生み出す力。
流石は魔王の娘を名乗るだけのことはある。
震える足を前に出し、高鳴る鼓動を感じながら、俺は前を見た。
そこにあったのは一軒の家。
二階建てのログハウスのような家。
階段は家の右側に外付けされていて、玄関が別の二世帯住宅のような造りになっている。
その家の周りには石像のようなもの――おそらくダークエルフだろう――がある。
「彼らには一度石になってもらっています。石になっていたらルシル様の料理の餌食になる心配はありませんから。私の血を一滴垂らしたらすぐに元に戻りますからご安心ください」
ぶらぶらと俺の腰のあたりで揺れるメディナが説明した。
なるほど、石化しているのは一時的に身を護るためなのか。
薬を使う手間が省けるのは助かる。
その時、家の二階の玄関から一人の女性が出てきた。
……あれは……あいつは……。
その姿には見覚えがあった。
先程メディナが化けていた女性だ。
桶のようなものを持っている……金色ストレートヘアの美女。
彼女も俺に気付いたようで、
「コ……コ……コ」
「ニワトリのマネ?」
「コーマさぁぁぁぁぁんっ!」
彼女は涙を流して二階から飛び降りた。
俺は咄嗟に彼女を躱す。
地面に激突した。
「うぅ、痛いです……酷いじゃないですか、コーマさん」
……間違いない、このバカな登場。
クリス本人だ。
あぁ……確か、俺はこいつの従者だったんだよな。
ならば、それらしく接するか。
「失礼しました、クリスティーナ様。お怪我はございませんか?」
渾身の挨拶に、クリスは――
「気持ち悪っ!」
そんな反応をした。
ぶん殴ってやろうかと思った。
「どうしたんですか、コーマさん。あ、もしかしてやっと自分の立場を理解したんですか? 頭を打ってようやく私の方が偉いと理解したんですか? でも、ほら、やっぱり私としてはコーマさんとはこうフランクな関係というか対等な関係で行きたいと思うんですよ。それにほら」
クリスは自分の袖を捲って俺に見せた。
「ほら、こんなに鳥肌が立ったじゃないですか」
「俺が敬語を使うのがそんなに意外かよ……まったく」
「はい、コーマさんはその喋り方でいいんです。でも、本当に心配してたんですよ、いままで何してたんですか?」
彼女はおでこに土をつけたまま、顔をこちらに向けて訊ねた。
……バカだけど、可愛いな。
それに――胸がとにかくでかい。
こんな可愛い女の子とフランクで対等な関係って、どういう関係だったんだよ、俺。
「どうしたんですか? コーマさん」
「いや、クリスと俺の関係について考えていてな」
「私とコーマさんの関係ですか? そうですねぇ、勇者と従者という関係でしょうか? 債務者と債権者という関係は終わりましたから」
クリスはうーんと考える。
どうやら、男女の仲には至っていないらしい。
ほっとしたような、残念なような。
「そうですね。私とコーマさんの関係を簡単に言えば、勇者と魔王でしょうか?」
「……は? 誰が魔王だよ」
「何言ってるんですか、コーマさん。あなたは魔王じゃないですか」
「……それって、俺が魔王的に極悪人って意味で?」
「あはは、コーマさんは確かに私をいつも苛めますけど、そこまで極悪人じゃないですよ。ただ魔王なだけです」
え?
――俺って魔王なの?




