魔法書はかならず火属性から
本日はアクセス数10万/日をめざし、更新数多いです。
~前回のあらすじ~
風の騎士団が逝った。
冒険者ギルド2階。
本来、職員以外立ち入り禁止のその場所の通路の奥に、ギルドマスターユーリの執務室が存在する。
私はレメリカさんの案内でその部屋に入りました。
「勇者、クリスティーナをお連れいたしました」
レメリカさんがそう言って扉を開けると、すでにユーリさんを含む6人の勇者が集まっていました。
賞金稼ぎのスーさん、そして元剣闘士の男性、ワッカさんは私と同期の勇者。
あと、エルフの男性魔術師リーフラさんは確か去年の合格者でした。
あとの一人は見覚えはありません。目元以外を布で覆った呪術師みたいな恰好の人です。おそらく彼(彼女?)も勇者なのでしょう。
あと、勇者以外にもう一人。ユーリさんの横にはいつもの女の子、ルルちゃんがいます。
「よく集まってくれた、勇者諸君。緊急の呼び出しに関わらず集まってくれたことに感謝する」
この町に住む勇者は現在40人ほどと言われていますけれど、大体の人は迷宮に潜っていて、すぐに連絡がつかない人が多いです。
私も通信イヤリングでコーマさんが地上からの連絡を受けていなければ気付くのが夜になったはずです。
(ここが伝説の勇者の執務室……)
私は緊張したまま、視線を上にあげた。
そこには歴代のギルドマスターの肖像画が飾られていました。
初代ギルドマスター、二代目ギルドマスター、三代目ギルドマスター、四代目ギルドマスター、そして、今のギルドマスターユーリさんの肖像画。
(…………え゛)
私は思わずうめき声を漏らしそうになりました。
なぜなら、全ての肖像画に描かれているのがどう見ても同一人物、違いがあるとしたら横にいる女の子。
全員ルルちゃんと同じ身長、同じ体格の女の子です。
確かにギルドマスターは世襲制だったはずですが、それにしても似過ぎです。
親子どころか一卵性双生児レベルでそっくりです。
「さて、皆も既に話を聞いているとは思うが、昨日、サイルマル国の風の騎士団が全滅した。とはいえ、彼らが本当に風の騎士団かどうか判断するのに時間がかかり、君たちの招集が遅れてしまった」
「判断が遅れた理由はなんだい?」
ワッカさんが笑いながら尋ねる。
「遺体の状況がよくなかった。全員顔だけでなく、全身を潰されていてな。骨も粉々だった」
「ということは、得物は槌やメイスといったところでしょうか?」
「いや、剣だ。残った切り口から見てもそれは確かだ」
それに私は驚愕しました。
剣で骨を粉々に砕くなんて、何回打ちつけたのか。
よほど風の騎士団の皆さんに恨みを持っていたのか。
「犯人に見当はついているんですか?」
私が訊ねると、ユーリさんは首を横に振り、
「いや、わかっていない。だが、風の騎士団ほどの猛者を倒す人間だ。複数犯の線も視野にいれて捜査している」
「サイルマル国の仕業じゃないかね?」
呪術師風の人がそう言いました。男の人の声です。
「どういうことです? 殺されたのはサイルマル国の騎士団ですよ」
私が訊ねると、
「そうさね。ただ、被害者が損をするとは限らないのが政治だからね。きっとこの後――」
「ジューン殿、憶測で判断するのはやめてほしい。もちろん、その可能性も考えて捜査を行っている」
ジューン? 驚きました、この人がジューンですか。
七英雄の一人じゃないですか。凄腕の魔術師だと聞いたことがありますが、この人が。
「あんたがあの雷焔の魔術師ジューンか。へぇ、ぜひ一度手合せしたいね」
「死ぬことになるね」
ワッカさんの挑発にジューンさんは軽く答えます。
その返答にワッカさんの機嫌はすこぶる良くなり、
「大した自信じゃねぇか」
「勘違いはよくない、ワシは魔術師だからね。1対1の戦いなどできない。死ぬのはワシのほうだね」
「ちっ、くだらねぇ」
ワッカさんは悪態をついて、「相手になる奴はいねぇのか」と愚痴をこぼしました。
群れるのが嫌いな彼は、薬草ドラゴン戦にも参加せず、一人で戦い続けた猛者です。
怖いけど、私も一度手合せをお願いしたいとは思っていますが、流石にここで言うことはしませんでした。
話の流れを変えようと、スーさんが一歩前に出て訊ねます。
「それでユーリ殿、私達が招集されたのは、その事件の調査というわけですか?」
「調査、というには情報が少ない。警戒に当たってほしいということと、心当たりがあれば情報が欲しい、この二点だけだ」
その後は特に話の進展もないまま時間だけが無為に過ぎてしまいました。
※※※
「いつもお買い上げありがとうございます」
「いやいや、持ちつ持たれつですから」
リュークの店で山ほどの素材を買い、アイテムバッグに入れる。
金貨1枚分買ったからな。これでまたアイテム作りが捗る。
ちなみに、今日のおすすめはこれだ。
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火炎蝙蝠の牙【素材】 レア:★★★
火炎蝙蝠の燃えるように熱い牙。火属性の武器を作るのにつかわれる。
これを差し歯にしたら口の中が大火傷になること間違いなし。
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差し歯になんてしねぇよ。
直に触ると火傷する200度近くあるアイテムなので、耐熱皿に入れて販売されていた。
これを見つけたことで、脳内レシピに炎属性の魔法武器がいくつか追加されたからな。
早速何か作ってみたい。
ちなみに、これ一本で銀貨60枚もした。
比較的加工しやすい素材らしく、鍛冶屋の間でも人気がある素材なんだそうだ。
剣を打つときに混ぜて使うことで炎の剣ができるらしい。
「ならば、俺はやっぱりあれだな」
あたりに誰もいないのを確認し、アイテムバッグからアイテムを取り出す。
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白紙スクロール【素材】 レア:★
魔法紙の白紙の巻物。何かを書くことができる。
一子相伝の秘技、家系図等ご自由にお使いください。
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これと一緒に組み合わせることでできる。
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火炎の巻物【巻物】 レア:★★★★
火炎の魔法書。使用することで火炎魔法を複数覚える。
修得魔法【火炎球】【火炎壁】【火炎剣】
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できたぁ!
これで俺も魔法使いの仲間入りだ。
ちなみに巻物の使い方は、ただ読むだけ。
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白紙スクロール【素材】 レア:★
魔法紙の白紙の巻物。何かを書くことができる。
一子相伝の秘技、家系図等ご自由にお使いください。
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文字が失われ、白紙に戻ってしまう。
なんともいいリサイクル機能だ。
とはいえ、本当に魔法を覚えたのか?
腰にある短剣を抜き、試しに魔法を使ってみる。
「火炎剣」
そう呟くと、俺のプラチナダガーが熱を帯びた。
おぉ、凄い! と同時に、疲れが出てきた。
そうか、付加魔法って使っている間常にMPが消費されるのか。
限界まで消費したところでプラチナダガーから熱が失われた。
アイテムバッグの中からアルティメットポーションを取り出し、躊躇なく飲み干した。
「よし、MP全回復! ついで体調もすこぶる良好! さらに不味い!」
でもこの不味さが癖になる。
この最大回復アイテムを惜しげもなく使う人間が俺の他にいるとすれば、ドラゴ〇ボール無印のヤジ〇ベーくらいだろう。
壺いっぱいあったはずの仙豆がいつの間にか数粒しか残っていないんだからな。
とはいえ、アルティメットポーションの在庫はまだ山のようにあるからな。
味が不味いため魔王城の飲み水代わりにも使えない。
ルシルもグーもタラも、一度飲んだら二度と飲まなくなった。
グーとタラはともかく、ルシルはあんな不味い……を通り越した料理ばっかり作ってるくせに、不味いから飲まないとかはないだろ。
「……ん? あれは……」
前を見ると、女の子が荷物を持って歩いていた。後ろに髪を三つ編みにしてくくっている黒いメイド服に白いエプロンを着た女の子。
確か、コメット。俺の店の従業員で、その中で最年少の女の子だった。年齢は14歳か。
「やぁ、コメットちゃん! 重そうだね、手伝おうか?」
俺が声をかけたら、コメットはびくっとして、
「あ、クリスさんの……コーマ様でしたっけ?」
「クリスはさん付けで俺が様付けってのもおかしいから、コーマでいいよ」
俺はそういい、彼女の持っていた荷物の一つを取りながら、「半分持つよ」と提案する。
コメットは困ったように「そんな、悪いです」と言ったが、「気にしない気にしない」と受け流した。
ま、従業員との触れ合いもたまには必要だよな。
オーナーとして。
~炎の剣~
炎の剣は魔法剣の中でも比較的ポピュラーなものです。
有名な伝説の剣、レーヴァテインも炎の剣ですし(剣である、と明記はありませんが、一般的には剣として扱われています。他にもさまざまな説があります)、旧約聖書にも炎の剣を天使が持っています。
剣と魔法の組み合わせのなかで、炎が一番イメージしやすいからでしょうか。
炎を纏った剣を実際に作ることは可能です。
まぁ、フィクションなんですが、るろうに剣心の志々雄真実の無限刃は、切った人間の油と摩擦熱を利用して燃える剣としています。
ちなみに、司馬遼太郎先生の「燃えよ剣」は炎の剣とは関係ありません。