壊れたスキル
~前回のあらすじ~
謎の美女が現れた。
俺の名前を呼ぶ美女。
誰だ、このクールビューティー系美女は。
「コーマさん? コーマさんですよね」
なんで俺の名前を知っている?
これは何の罠だ?
「あ……あの、コーマ様」
「安心してくれ、コメット。俺はそう簡単に騙されるほど甘い男ではない。エレベーターの中で女性と二人きりになっただけで美人局を警戒する俺にとって、このくらいの動揺は日常茶飯事だ。いや、むしろ目の前の人間が美人過ぎて安心した! 俺の知り合いがこんな美人なわけない! ということで正体を現せ!」
俺がアイテムバッグからエクスカリバーを抜き、そう叫んだ。
「いえ、あの、声だけで判断できることですが、目の前の人はクリスさんで」
「バカなことを言うんじゃないよ、コメット。クリスというのはオバカでオバカでオバカなキャラのはずだ。それ以上でもそれ以下でもない」
俺の熱演に「あぁ、クリスさん、コーマ様が記憶を失っていてもその認識なんですか」と残念そうに言う。
「あ、あの、コーマさん。話が全く見えてこないんですが、ここは危険です! 一度ダークエルフさんたちの集落に戻って――」
「黙れ! その手には食わないぞ! ダークエルフの集落に行くと同時に強面のお兄さんが現れるんだろうが!」
「違います! というより誰なんですか、強面のお兄さんというのは――」
「なら、何か? クリスというのは【石化凝視】という変わったスキルを持っているのか?」
俺がそう尋ねると、背中でコメットが俺の肩を強く握る。
そして、目の前の美女は小さくため息をつき、
「……本当に帰ってもらえませんかね? 危険なんですよ、ここにいられたら。コーマさん」
目の前の美女の顔の輪郭がかわり、髪が緑の蛇の姿へと変わっていく。
「あんたがメデューサか。本物のクリスと、ルシルはどこだ?」
「この奥の私の家にいるわ。でも行くことは絶対に勧めない。行ったら死ぬわよ」
「俺を倒せると思ってるのか?」
「確かに私の視線を躱すのは得意のようですが、それでも目を見ずに戦うのって結構大変なんですよ」
そう言うと同時にメデューサが飛んだ。
俺はコメットを背負ったまま、前に飛ぶ。
三度、四度と交差するが、俺の剣は相手に致命打を与えるまではいかない。
メデューサは回避と俺に視線を合わせることに集中しているようだしな。
「なんで、なんで私の目を見ずにそこまで動けるの? 戦いのプロでも、いいえ、戦いのプロであるほど相手の目を見る動作からは抜けられないはずなのに」
メデューサは意外なようだな。
俺がどうして彼女の目を見ずに済んでいるのか?
そんなの簡単だ。
俺はずっと一点を凝視しているから。
特に戦いが激しくなれば激しくなるほど俺の視線は彼女の一部分を凝視している。
だから石にならない。
「……なにか背筋が震える……これが恐怖……この恐怖はルシル様に封印していただいた時以来よ」
「お前は立派なものを持っているが、それが弱点だ」
「私の弱点? 鏡でも見せていただけるのかしら? 言っておくけれど、普通の鏡で私を石にできると――」
「は? 何を言っているんだ。お前の立派なものといったらその胸しかないだろう。その胸が揺れるたびについつい目が行ってしまうんだ」
背後でコメットがずれ落ちそうになる。
危ないなぁ。
メデューサは自らの胸を確認し
「…………あぁ、クリスさんに変身するときに変えたままでした。道理で動きにくいはずです」
そう言うやいなや、胸が破裂した。
まるで風船に針を突き刺したみたいに。
……そんなバカな。
「ぐっ、しまった……俺が余計なことを言ったばかりに」
「戦いに集中してください、コーマ様!」
「いや、でもこうなったら俺に彼女の視線から逃れる術はないだろ」
心の眼か? 心眼でも体得すればいいのか?
索敵スキルを頼りに攻撃?
「安心して下さい、石になっても痛くはありませんから」
彼女はそう言い、動いた。
俺も咄嗟に避けようとするが――その瞬間、彼女の視線が俺の視線とぶつかり――
※※※
尻から落ちそうになるのを慌てて体勢を変えて着地する。
「そんな、確かに今石化したはずなのに」
「助かったよ、コメット」
「いえ、コーマ様の作戦通りにいってよかったです」
俺が考えたという作戦はシンプルなものだった。
俺が石化したらコメットが後ろからエリクシールで回復するという方法だ。
これなら薬が尽きるまで回復できる。
「行くぞ、メデューサ」
俺はそう言うと、今度は石化しないように大地を見つめ、そして前に飛んだ。
俺の拳がメデューサの鳩尾に入る。
「……この感触は……」
ふっとばされるメデューサの身体が回転しながら木に逆さに激突。
体は枝に突き刺さり、そしてその首が胴体から切り離されたかのように落ちた。
その顔がこちらに向き、彼女の目が俺を見つめて来て、
※※※
二度目の油断をしてしまったようだ。
一瞬記憶が飛んだような感じだが、石化したのだろう。
俺はアイテムバッグからただの布を取り出し、メデューサの後ろに跳ぶと、その布で彼女の目を塞いだ。
恐ろしい敵だった。
「もう大丈夫だ、コメット。メデューサの目は封じた」
「お疲れ様でした」
さっき彼女の身体を殴ったとき、妙だと思った。
感触が人や生物のそれではなく、まるで傀儡。材料はなにかわからなかったが、普通のものではなかった。まさか首が脱着式だとは思わなかったが。
首のない体は木の枝に突き刺さりじたばたしているが、動けないようだ。
「あぁ……お願い、私の事はいいから早く逃げて!」
「いや、その台詞は今負けそうになっている敵が言うセリフではないだろ。というか一体何から逃げるっていうんだ?」
「コーマさん! あなたは今危険なんです! このままだと――」
「このままだと?」
「ルシル様の料理に殺されてしまいます」
「……え?」
俺が視線を上げると、そこには気配探知にひっかからない猛獣たちが――
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サーベルタイガー串焼き【料理】 レア:★★★
サーベルタイガーの牙に突き刺してその肉を焼く料理。
シンプルだから誰でも作ることができる単純料理。
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エッグタルト【料理】 レア:★★
かつて修道女によって作られたカスタードクリームのタルトケーキ。
甘くておいしく、癖になる。
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牛乳粥【料理】 レア:★★
牛乳とお米で作った御粥。
病気のあなたにぴったりの料理。
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……あれ? 鑑定が壊れた。




