森の奥にいる女性
気が付けば、俺は森の中にいた。
魔の森なのだろう。
鬱蒼としげるというよりかは、本当に魔界の中にはいってしまったかのように薄暗い。
この感覚は、記憶を取り戻し、再び記憶を失った後に似ている――というか記憶が飛んでいるんだからそうなのだろう。
頭痛はしないが頭を押さえていると、横で彼女が声をかけた。
「コーマ様、大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけたのは、一緒にいたはずのシグレではなかった。
犬耳に猫髭の少女だ。獣人という人種だろうか。
10歳前半小学生か中学生くらいの可愛らしい女の子。
当然、見覚えはない。
「……君は?」
「……本当に覚えてないんですね……」
彼女は少し残念そうにそう呟いた。
「私はコメットと申します。コーマ様は私の命の恩人で、そのご恩を返すために仕えている者です」
「……えっと、コメットさんか。コメットさんは俺が記憶を無いことを知っているような言い方だったけど」
「はい、先ほど記憶のあるコーマ様から話を伺いました。私達はこれから、メデューサを退治するために北に向かっているところです」
「メデューサを退治?」
コメットは俺にいろいろと説明してくれた。クリスがメデューサを退治するために森に入ったことやシグレがダークエルフの村で待っていることなど。
メデューサといったら、髪の毛の代わりに蛇が生えている悪魔だとか怪物だったよな。
恐ろしいのは、メデューサと目が合った者は石になるという。
確かに俺はチートな力をいっぱい持っているが、でもメデューサに勝てるのか?
流石に石化してしまったら終わりじゃないか?
「記憶のあるコーマ様から、記憶のないコーマ様に伝言です。メデューサに対抗する手段を考えているそうです」
コメットは、そう言うと俺にその対抗手段を教えてくれた。
それは――普通の人では絶対に不可能な、だが俺達なら確かに可能な作戦だった。
不意をつかれなかったらやられることはないだろう。
そして、不意をつこうにも、索敵スキルがあるからな。
敵の気配がしたら準備をしても間に合う。
「それにしても妙だな。魔物が多いって聞いてたのに、魔物の気配がまるで感じられない」
「……コーマ様、あそこを見てください」
「あそこ? ……あ」
俺が見たのは今にも襲い掛かろうとしている虎のような魔物の石像だった。
もちろん、これがただの石像などと思ってしまうほど俺は間抜けではない。
メデューサに石に変えられたのだろう。
「石に変えられた者は年を取ることもなく永遠の時を生きると言われています」
「永遠に石でいることを生きるというのなら……か」
とりあえず、メデューサがこの先にいるのは本当らしい。
俺は息を飲み、その虎の魔物をじっと見つめる。
毛一本まで表現されている石。
髭など、触ったらすぐに折れてしまいそうな気もするが、実際は普通の石よりも頑丈そうだ。
「……よし、クリスはいなかったということで帰ろうか」
「コーマ様、そんなことおっしゃらないで下さいよ」
「いや、でも、俺、クリスのことあまり知らないしさぁ」
「ルシル様も一緒にいるんですから」
「ルシル……!?」
俺の鼓動がトクンっと音を立てた。
彼女に会わないといけない。
「……ルシルも石になってる可能性があるってことか」
「あ……えっと、それはないと思います」
「まぁ、俺をこの世界に召喚した奴だからな、そう簡単には石にならないか」
「いえ、そういう意味ではないんですが」
コメットの台詞はどうも歯切れが悪い。
何か隠しているのだろうか?
俺が怪訝な顔をしたとき、気配がした。
何の気配かはわからない。
本当にこの子を信用してもいいのか?
そんな疑念がよぎったが、俺は頭を振り、俺の中にいる自分を信じることにした。
そして、彼女に目隠しをさせておんぶで背負い、俺は気配の方向に走っていく。
途中、石化しているダークエルフと思われる男達の姿があった。
全員耳が尖っている。
そして、気配のした方向に行くと、そこにいたのはメデューサではなかった。
金色の美しい髪、整った顔立ち、そして鎧の上からもわかる大きな胸。
俺より少し年上だが二十歳までは至っていないだろう。
(美人だ……)
心からそう思った。
サクヤやシルフィア、レイシアも美人だった。
だが、なんというか、目の前の彼女には何か感じるものがあった。
「あ……あの」
俺は思わずそう声をかけた。
「…………コーマさん?」
彼女は俺を見て、そう首を傾げた。




