魔の森と賢者の道
~前回のあらすじ~
魔の森でクリスが囚われの身となった。
クリスティーナ。
恐らく、失われた俺の半年の間で、かなりのキーパーソンだと思われる。
その彼女が、魔の森で囚われている。
「でも、なんで闇の神子からレイシアに書状が届いたんだ?」
「わからないが、だが、真実の可能性は高い。クリスティーナ直筆の手紙が同封されていた」
「クリスティーナからの?」
俺は手紙を預かり、それを見た。
【コーマさんへ。
コーマさんの情報を知っているという闇の神子様のお願いで、私は魔の森に向かいました。
ダークエルフの願いを聞くためです。
もしも戻らなかったら、闇の神子様からコーマさんに手紙を届けることになっているので、よろしくお願いします。
クリスティーナ】
……俺はこの手紙を見て、心底思った。
「なぁ、もしかして、クリスティーナってバカなのか?」
「……あぁ、昔からこんな奴だった」
事情も何も書いていない。
全くわからない。
わざとバカな振りをしているのか?
手紙を検閲されることを恐れて?
そんな感じじゃない。
「……はぁ、とりあえず行ってくるか」
「私もともに行こう」
「いや、お前はダメだろ。俺も聞いた話だが、魔の森って、土と闇の境界の森で、結構厄介な場所だろ? そこに火の神子のお前が行ったら……そうだ」
俺は一人、ここで連れ出すべき相手を思い出した。
※※※
「クリスティーナ様が魔の森に……わかりました。お供いたしましょう」
二つ返事でシグレが一緒に来ることになった。
「クリスティーナ様にはい草を取るときにお世話になっていますから。恩を返さねば忍びの名に傷がつきます」
「悪いな」
シグレを一人ここに残して、サクヤを暗殺されたら困るからな。
シグレを連れだすことで、サクヤも対処の時間ができるはずだ。
「ところで、シグレ目線、クリスティーナってどんな奴だ?」
「…………? コウマ殿はいつもクリスティーナ様のことをクリスと呼んでいませんでしたか?」
「あ、いや、まぁな。いろいろあって」
「そうですか。そうですね、クリスティーナ様は勇者の中の勇者ですね。困っている人は絶対に放っておけない。コウマ殿ともフランクな関係を築かれていましたし、お二人は主従の関係というよりかは、仲の良い夫婦のようだと思いましたよ」
「え!?」
……仲の良い夫婦のような関係?
俺と、勇者クリスティーナが?
「……ははは、そんなわけないじゃないか」
俺は乾いた笑いでそんなことを言いながら、「準備に時間はかかるか? 必要な物は大抵アイテムバッグにあるぞ?」と訊ねると、シグレは首を横に振り、「いえ、すぐにでも」と言った。
「服はそのままでいいのか? どう見ても普段着だが」
「忍びの普段着は、裏地は忍び装束になります。ここで着替えればサクヤに見つかる恐れもありますので――」
シグレはそう言い、上着の胸元の裏地を見せてくれた。
忍びきれていない豊満な胸の谷間が俺の目に飛び込んできた。
シグレの奴――晒しを巻いて胸を潰してやがるのか……なんてことをするんだ。
「そうか。じゃあ行くか」
俺は斜め上の方向を見て、そう言った。
※※※
魔の森。
土の国アースチャイルド。
闇の国ダークシルド。
両国の間にある光も届かない森。
森の上空には巨鳥が飛び交い、普通ならば木の上を歩くのも不可能。
森の中には猛獣、魔獣だけではなく悪魔まで存在すると言い、賢者の道と呼ばれる光の道以外の場所を通れば生きては帰れないという。
だが、ダークシルドからダークエルフの集落に通じる賢者の道は今は失われたそうだ。
戦争から自国を守るため、ダークシルドが潰したのだ。
「なら、どうやってクリスはダークエルフの森へ向かったんだ? 危ないんじゃないか?」
「恐らく、危ないのを覚悟して森を進んだのでしょう。彼女の腕は私も見ています。クリスティーナ様でしたら森の魔獣などものともしないでしょう」
「なるほどな、流石は勇者だ」
そう言いながら、俺はシグレの様子を見る。
サクヤがぎりぎりついてこれる速度よりも僅かに速く動いているのだが、息切れをする様子はない。
一度、精霊の湖を経由し、アースチャイルドに入った。
アースチャイルドへの入国許可書はアルジェラに書いてもらったので、門の入り口で最上級のもてなしを受けそうになったが丁重に断り、ついでに賄賂については投げ返した。
途中――聖都の温泉歓楽都市建設予定地を通過する。
すでに仮ではあるが入浴施設が出来上がっていて、多くの人が利用しているように見えた。
露天風呂もあるが、全員湯浴み着を使用しているので楽しみはない。
そして、さらに進み、俺達は魔の森にたどり着いた。
森なんて生易しいものではない。
樹海だ。
十メートル先が見えない。
ここから入れば、間違いなく道に迷う。
だが、迷わないように道があった。
光る道。
魔物を寄せ付けない道。
俺はその道に足を一歩踏み入れた瞬間――自分の中の変化に気付いた。
「これが賢者の道ですか」
「…………」
「コウマ殿?」
「あ、あぁ、悪い、シグレ。そうか、シグレか。うん、クリスの奴、あのバカにしては役に立ったじゃないか」
「え?」
「いや、こっちのことだ」
俺はそう言ってほくそ笑んだ。
まさか、これほどまでに簡単に記憶を取り戻す方法があるとは思わなかった。
俺の中の破壊衝動が賢者の道によって完全に封じられた。
一ヵ月ぶりの外の空気――かなり危なかったがやっとここまで来れた。
あとはルシルの奴に出会えたら、完全に記憶を取り戻すことができる。




