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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode09 通常運転

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シグレと採用基準

~前回のあらすじ~

シグレが教員採用の面接に来た。

 シグレと俺が知り合いだったのは、記憶のある俺からサクヤ達を経由して聞いていたが、まさかそのシグレ本人が俺の前に現れるとは。

 しかも、なかなか親密そうな関係だ。


 い草を探すとかよくわからないワードが聞こえたが。

 ここは、正直に記憶喪失だということを話すか。

 いや、ダメだ。

 シグレはサクヤを殺すためにここにいるんだ。

 ならば、知り合いという強みを利用して、サクヤの暗殺を防ぎたい。


「久しぶりだな。何ヶ月ぶりだ?」

「二ヶ月ぶりですね。それほど懐かしいという感じはしませんね」


 二ヶ月前って、つまり俺が記憶を失う数週間前の話じゃないのか?


「で、シグレは何について教えられるんだ? 教員として働いてもらうのに何もできないじゃ困るんだが」

「薬学についてなら心得があります。錬金術を使わなくても作れる薬の作成方法について伝授できます」

「漢方薬みたいなものか?」


 蛇や虫、キノコや植物を酒漬けにしたり乾燥させたりして並べている店の光景が脳裏によぎった。

 だが、それは理科室の実験室の想像絵であり、漢方薬については自分の知識は無いに等しいと悟る。


「そうですね」


 サクヤと違い丁寧な言葉遣いで、シグレは柔和な笑みを浮かべた。

 錬金術を使わない薬の作成方法や、金属の加工方法などは、俺も教える必要性があると思っていた事柄だ。

 例えば俺がハンマーとして使っている白金はこの世界では加工技術が錬金術に頼り切っているせいで、高レベルの錬金術師が長時間かけないと金属にできない、鉱石のままだと価値の低い鉱石として扱われているそうだ。

 だが、錬金術を使わなくても加工する技術が整えば、捨て値で売られていた白金鉱石にも価値が生まれる。

 それこそ、復興途中のアースチャイルドの新たな産業になるほどに。


 もちろん、錬金術師からは憎まれるかもしれないが。


 この世界はスキルに頼りすぎているからな。

 例えばどんな怪我でも直すことができるポーション。これがあるせいで、この世界では縫合技術すらほとんど発達していない。

 傷口を糸で縫うという日本では当たり前のことが、この世界では奇異な眼でみられるのだ。


 サクヤを殺す話がなければ問題なく採用、すぐにでも教鞭を振るってもらいたかったのに。


「採用するには条件がある。教師としては真面目にやってくれ。あと、サクヤの暗殺を決行するときは、先に退職届を出してくれ。それさえ守ってくれたら協力するから」

「確かに――現職の教員が神子の護衛を殺したとあっては問題ですね。でも、意外でした。てっきりコウマ殿のことですから、サクヤの暗殺を止めるのかと思っていましたが」


 ……あぁ、よかった。

 彼女と出会っている俺も、サクヤの暗殺に関しては反対派だったのか。

 てっきり俺の知らない半年間の俺は、極悪人みたいなことをしていたと思っていた。

 土の精霊、クレイからかなり怒られたからな。

 自分のことを「駄精霊」とか「ナビ精霊」とバカにしたと怒っていた。

 この大陸で神子よりも地位の高い、それこそ神の次に偉いと言われる精霊をバカにしているとか、考えられない行いだ。


「止めれるものなら止めたいよ。ていうか、俺が止めたらお前は暗殺を止めてくれるのか。

「いえ、これは私の任務ですから。例え大恩あるコウマ殿の頼みでも聞くことはできません。もっとも、情報がどこまで洩れているのかを調査するために今すぐ彼女を殺すことはできませんが」

「時間があるのなら、できれば思い直してくれることを祈ってるよ。じゃあ、明日がもう入学式だから、お前も準備してくれ」


 俺はそう言うと、シグレを遠ざける仕草を行った。

 久しぶりにあった知り合いに対してこの行動は怪しまれないだろうかと思ったが、


「面接がまだ残っているようですからね。それではコウマ殿、失礼いたします」


 そう言うと、シグレは静かに扉から出た。

 ……見た感じおしとやかな感じなのに、暗殺者なのか。

 くノ一て怖いな。

 ハニートラップとかされたら俺は絶対に気付かない自信がある。


 その後、面接は滞りなく進んだ。

 でも、俺は心ここにあらずという感じだったので、後の教員志望者には悪いことをしたなと思って、採点を甘くした。

 結果、シグレを含む18人の教員が採用され、希望者には教員用の仮設寮の部屋の鍵を渡した。

 レイシアは筆記試験は合格基準に達していたが、もちろん面接で落ちた。


 閑話ではあるが、教員用の部屋に入った多くの教員から多くの質問が上がった。

 本当にこれが仮設寮なのかと。

 風呂、トイレ付き、冷暖房完備、冷蔵庫とキッチン、低反発のベッドがあるだけのただのワンルームマンションのような部屋だったのだが、かなりの好評だった。

 その話を聞きつけたレイシアが教員寮の一室を別荘として買い受けたいと言ってきたが、もちろん断った。

 代わりに、シルフィアの許可を貰い、客用の部屋を改造したら、シルフィアは上目遣いで自分の部屋を改造するように言ってきた。


 そして、その日の夜。

 俺はこっそりサクヤの元を訪れ、シグレのことについて話していた。


「そうか……姉上が来たのか。ということは私がここにいることも知っているのだろうな」

「あぁ。教員として採用した。ある程度行動範囲を絞ったほうがお前も楽だろ」

「迷惑をかける」


 サクヤは深々と頭を下げると、「このことはシルフィア様には黙っておいてほしい」とだけ言い、去って行った。

 ……さて、どうしたものか。


 俺はサクヤに死んでほしくないし、シグレに殺させたくない。

 だが、シグレに諦めさせる方法は、今の俺には見つからなかった。

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