貝殻から聞こえる不穏な足音
~前回のあらすじ~
化粧水革命がおきた。
ラビスシティーの外れにある貸し別荘。
勇者試験前から借り続けているその家の庭で、我々は己の身体を鍛えていた。
鉄の剣の素振り。模擬戦闘。幾度も繰り返してきた戦闘訓練。
「ジークフリード隊長、本日、午前の訓練終了しました!」
「わかった。客人を出迎える準備を行う!」
風の騎士団の隊長。
その肩書きもいつまで使えるか。
我々は祖国のために勇者試験を受けることになった。
合格は絶対条件、首位の成績で勇者になるため、我々6人は奮闘した。
だが、それも、突如として現れた謎の魔物。
剣で切っても倒せぬその魔物の前に、我等は無力であった。
その結果、我々は倒れ、勇者試験を通過することができなかった。
おめおめと恥をさらして祖国に戻る。
そうなるはずであったが、我々に本国から下された命令は、ラビスシティーでの待機命令だった。
我々は本国の地を踏むことすら許されなかったのだ。
徒に過ぎる時間にやきもきしながら、訓練を続けていたある日、本国から命令が下った。
今日、この場所に客人が訪れるから相手をするよう告げられた。
なんとも要領を得ない任務であり、汚名返上になるとも思えない。
昼食を取らずに、我々は客人を迎える準備を始めた。
客人が来るのは午後1時。昼食を終えて訪れるであろう時間だが、もしかしたら何も食べずに来るかもしれない。
昼食の準備をしておき、さらにもしも共に昼食を、と誘われたときのために腹を空かせておかなくてはいけない。
一日くらい食事をとらなくても平気な訓練は受けている。
さて、どのような客が来るのやら。
私は室内に入り、椅子に腰掛けた。
さて、任務に失敗した我々に下る新たな任務はいったい何なのか。
まともな任務ではあるまい。
想像できる限りで最悪なのは、戦争の引き金だ。
この町は絶妙なバランスの上で成り立っている。だからこそひどく脆いともいえる。
この町に住む権力者数人を殺すだけで、この国を取り巻く環境バランスは大きく崩れ、この町は戦争の渦中へと引き込まれる。
我々騎士が仕えるのは国だ。その国を動かすのがあの忌まわしい老人達であろうとも、我々は国に尽くさなくてはいけない。
それが、たとえ我が国の民を犠牲にする作戦であっても。
「ジークフリード隊長! 御客人がいらっしゃたようです!」
「うむ、行こう」
「その客人の名前ですが――」
部下が告げた客人の名前は、予想外のものだった。
だが、その予想外すらも吹き飛ばす出来事が起こる。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
部下の悲鳴が聞こえていて、私は急いで部屋を出た。
そこで見たのは、腕の肘から先を切り落とされ、血を流して叫ぶ部下の姿だった。
「貴様、私の部下に何をした!」
私が叫んでも、男は虚ろな瞳で我々を見下ろした。
獣の骨を頭からかぶった大男。
我々と同じ勇者試験を受け、我々と同じく謎の魔物の前に倒れた傭兵。
魔竜を倒した英雄とも呼ばれる冒険者、ゴーリキ。
大剣使いのはずだが、今は普通の銀色の長剣を持っている。
彼が私の部下の腕を切り落としていた。
「……貴様が客人というわけではないようだな! ラーク! サイオンを連れて下がれ! 止血を急ぐんだ! 切り落とされた腕を持っていくのを忘れるな!」
今ならまだポーションで腕がくっつく可能性がある。
とはいえ、前線に戻るのは無理だろう。
「はっ!」
「ケリー、パーン、ゴンザレス! 風の陣だ!」
四人で剣を構えた。
「血……よこせ」
小さな声とともにゴーリキから邪気が膨れ上がった。
こいつ、すでに正気を失っている?
「どういうことか知らぬが憐れな。我々の剣でお前を討ち倒し、死して魂を取り戻してやろう」
我々の剣が同時に動いた。
素早い剣による攻撃。それが我々が風の騎士団と呼ばれる所以。
速度特化のその攻撃がゴーリキの胸に、肩に刺さる。
厚く固い筋肉のせいで切り落とすことはできないが、もう剣を握ることはできない。
――だが
急所を明らかにとらえたはずなのに、ゴーリキは一切身じろぎせず、眼球だけを動かした。
そして、肩に剣が斬り刺さっているにもかかわらず、彼は剣を振り上げて――振り下ろしたときにパーンの身体が二つに裂けていた。
自分が斬られたことに気付いていないのか、パーンは瞬きをしながら左右に分かれ、地に倒れた。
血が一面に飛び散り、草が赤く染まる。
そして、その剣はそのまま横に薙ぎ払われ、ケリーとゴンザレスの下半身と上半身が分離された。
「血……まだ足りない」
ゴーリキはそう言うと、あろうことか死した部下の肉体に切りかかった。
「死者を――部下の死を愚弄するなっ!」
私の剣がゴーリキの首を捉えた。
だが、首を半分切ったにも関わらず、ゴーリキは私の剣を左手で握り――そのまま割った。
「血――俺の血――まだまだ足りない」
そして、ゴーリキが振り上げた剣は――
※※※
俺とクリスは、蒼の迷宮と呼ばれる場所にいた。
この迷宮、とにかく凄いのは、壁が水の壁なのだ。
壁の中に魚も泳いでいるし、魔物も泳いでいる。
どういう仕組みなのかさっぱりわからない。
水だけを通さない結界を壁代わりに使っているのだろうか?
天井はいつもの迷宮と同じく淡く輝いているので、明るさは問題ない。
本格的に探索するときは、水中でも呼吸できるアイテムを作ろう。
ただ、水中だとやはり戦いはしにくいだろうな。
「神秘的な場所ですね」
「あぁ、本当に凄いな……お、貝殻が落ちてる」
巻貝を拾い上げて鑑定してみる。
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綺麗な貝殻【素材】 レア:★
綺麗な貝の死骸。アクセサリーの材料になる。
耳にあてて聞こえるのは海の音などではありません。
……………………………………………………
おい、説明文、死骸とか書くなよ。
あと、夢をなくさせるようなことを書くな。聞こえるよ、海の音。
拾う気が失せるわ。拾った後だけど。
とりあえず、アイテムバッグの中に入れようとした、その時。
「コーマさん、危ない!」
その声とともに、俺はとっさにしゃがんだ。
先ほどまで俺の顔があった場所を巨大なサメが襲い掛かった。
水の壁から現れたのか。
俺はとっさにプラチナソードを抜き、サメを一刀両断した。
「凄いですね、コーマさん。私の注意いりませんでしたね」
「いや、クリスのおかげで助かった。ありがとうな」
「そうですよね……ってあれ? コーマさんが素直にお礼を?」
「うるせい……ったく。それより、キャビアとフカヒレを落としたぞ。ラッキーだな」
この世界ではどうかは知らないがどっちも日本では高級食材だ。
ただ、キャビアってチョウザメの卵で、チョウザメって鮫じゃないんだけどな。まぁ、貰えるものはもらっておこう。
このあたりは海にまつわるものが多いな。
最下層にはポセイドンのような姿の魔王がいるのかもしれないな。
「うぅ、やっぱりおかしいです」
「おかしくない。俺は本来、誰にでも優しいんだよ」
そう言いながら、キャビアとフカヒレをアイテムバッグに入れた。
ちょっとは優しくしてやろうかと思ったのに、何故そんなことを言われないといけないのか。日頃の行いが悪いから、以外の理由は思い浮かばない。
その時、通信イヤリングが鳴った。
三つ目の通信イヤリング、メイベルからか。
「クリス、悪い、通信が入った」
俺はそう言って、クリスから一定の距離を置く。
不信感だらけの顔でこちらを見ているが、気にせず通信を開始すると、メイベルから思いもよらぬ知らせが舞い込んだ。
「クリス……」
「どうしたんですか?」
「風の騎士団が全員殺されたそうだ。それで、町にいる勇者全員に緊急招集の命令が下った」
~貝殻~
ゲーム内においては、首飾りと同じくらい、帽子として使われることが多いです。ヤドカリみたいなイメージですね。
海の中の都市で全員かぶっていたりします。
作中で、巻貝を耳にあてて聞こえるのは海の音ではない。
と言っていますが、実際に波のような音が聞こえてきます。
それ、実は(当然ですが)波の音ではありません。
自分の体、脳内の蝸牛と呼ばれる器官から発せられている音なんだそうです。
ただ、面白いのは、この蝸牛、形がカタツムリそっくりなんだそうです。
カタツムリって、漢字で書くと蝸牛、つまり同じ漢字なんですね。
まぁ、カタツムリそっくりだから、カギュウと呼ばれてるから当然なんですが。
で、カタツムリが貝の仲間だというのは皆さん知っての通りです。
もしかしたら、陸と海、離れ離れになった貝が蝸牛を思って、この波の音を聞かせてくれている……うん、ロマンチックにオチを付けようと思ったけど無理がありすぎた。
貝殻の一番の使い方は、やっぱり貝のブラジャーです。人魚姫に使ってもらいたいですね。
あと、貝は、お金と密接な関係があります。
貯・貧・賭・財・販。
お金に関係する漢字に貝が入っています。
それは、紀元前の中国で貝が通貨として使われていたからだそうです。
明日仕える豆知識のコーナーでした。
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