酒樽とスペシャル料理
~前回のあらすじ~
ドワーフ自治領に到着
ドワーフ自治領を案内してくれる白髪交じりのドワーフ。
名をガルフという。
自称、酒を鍛冶をこよなく愛するナイスガイだそうだ。
「あの山が見えるだろ? あれが鉱山だ。取れるのは鉄と銀、あと稀に白金も取れるな。中に入れば最後、蜘蛛の巣状に広がる穴の中は熟練の鉱山夫でないと迷うのは必至だ」
「まるで人工のダンジョンだな」
「そうだな。魔物もでるしな。魔石が出ないことを除けばダンジョンと変わらんな」
魔物も出るのかよ。
鉱山夫は魔物とも戦わないといけないのか。
そりゃ凄い職場だな。
「鉱山夫はツルハシ振るうだけじゃなく、魔物とも戦えないといけないのか。そりゃ大変だな」
「だろ? かくいうワシもこのかつては鉱山夫長を務めていた男だ」
「凄いなぁ、ただ昼間からぶらぶらして観光客に適当に案内するとか言いながら金をせびる親父じゃなかったのか」
「お前、酷いこというな……まぁ、今はその通りだがな」
ガルフはそう言って豪快に笑った。
その後、ガルフは町の中央へと向かう。
石造りの建物が多い。
すべての建物のの前には表札代わりに、趣向を凝らしたレリーフが置かれている。
ドワーフは家主が自分の家の前に飾るレリーフを彫り、飾るという慣習があるらしい。
その中でもひときわ大きなレリーフ、酒を酌み交わす二人のドワーフを描いた絵が彫られている店のような建物の中に入った。レリーフを見てわかったが、どうやら酒場のようだ。
「ここがドワーフ名物料理が食える店だ。ちょうどいい、昼飯にしよう。お前のおごりでな」
「ちょうどいいって、最初から俺に奢らせるつもりだったんだろうが……銀貨3枚以内にしてくれよな」
もっとも、流石にドワーフとはいえ昼間から酒をかっくらってる人の数は少なく、全員旨そうな肉料理を食べていた。
ちなみに、ドワーフの成人男性は全員髭ずらで背の低い男だ。女のほうも背は低いが流石に髭は生えていない。
全員褐色肌なのは俺のイメージそのままだ。
と同時に。俺の腹もなった。
アイテムバッグの中から適当に銀貨を出してみると3枚出てきたので、3枚以内と言っておいた。
「おいおい、ここは大衆食堂を兼ねてるんだぞ。銀貨3枚出すとは、さては坊主、ワシを酔い潰すつもりだな」
「昼間から酒を飲むなよ! てか案内中に酒を飲むなよ!」
「ガハハハ、気にするな! ワシは酒が入ったほうが調子がいいんだ。おい、ゲンズ! ガルフスペシャルセットと銀酒の小タルを出してくれ」
「金はあるんだろうな、ガルフ!」
店の奥から店主らしい男の声が飛んできた。
「あぁ、こいつが奢ってくれるからよ……名前はなんていったっけ?」
「光磨だ」
「そうだ、コーマのおごりだからな、金の心配はいらねぇよ。コーマ、お前は何を頼むんだ?」
「あぁ、俺も同じもので頼む。ガルフスペシャルセットだっけか? あと酒は飲まないから適当なノンアルコールの飲み物を持ってきてくれ」
俺がそう言うと、周りの客が俺を見てニヤニヤと笑いだした。
何か変な注文したか?
普通に頼んだつもりだったんだが。
「コーマ、お前が残したらワシが代わりに食べてやるからな」
「いや、残さないって。俺も腹減ってるんだ」
「言ったな。その言葉、忘れるんじゃないぞ」
だから何だっていうんだ?
暫くして運ばれてきたのは、真っ赤な肉料理だった。
トマト煮込みではない。
なぜなら刺激臭が鼻に入り込んできて、思わず咽そうになる。
「これがガルフスペシャルだ。ワシ以外にこの料理を完食したものはいない。無理して食べようとした男も結局半分しか食べきれず、さらに痔で苦しむハメになった。悪いことは言わん、ワシによこせ」
流石にこれは食べられないだろう。
素直にガルフに譲るか……そう思っているにもかかわらず、俺の腕は勝手にナイフとフォークでその肉を切り分けていた。
そして、何故かそれを口に運ぶ。
さも、それを食べるのが当然かというように。
不思議な事に、俺はこの激辛を通り越しているであろう肉とスパイスの塊を、料理として認識していた。
そして――
「あぁ、ちょっと辛いな。でも旨いぞ。肉のうまみがしっかり凝縮されている。下ごしらえがうまいんだな」
「……コーマ、なんともないのか?」
「あぁ、なんだろうな? 全然平気だわ」
普段美味しい料理ばかり食べているせいで舌が肥えたかと思ったら、何故かバカ舌になっていたようだ。
そういえば、前にアースチャイルドで変な料理(?)を食べたことがあったな。あの後すぐに意識を失ったが。
あれに比べたらこのくらい余裕でおいしく完食できる。
「ウソだろ……あいつガルフスペシャルを食ってやがるぞ」
「何者だ? ただの人間に見えるが」
「ドワーフでも食えないものをただの人間が食べられるのかよ」
「凄いわ……」
ドワーフ達が俺に奇異の視線をぶつけてきた。
そして、10分で完食。
ガルフも、ジョッキの数倍は入っているであろう小タルの酒を飲み干していた。
「ガルフ、飲み過ぎじゃないか? そんなんで案内できるのかよ」
「ほろ酔いだ。この程度で案内に影響などでんわ。だが、仮に酔ったとしたらコーマ、お前が悪いんだぞ。ワシはここに案内してきた観光客がワシの大好きな激辛料理を見て驚く顔を見るのが最初の楽しみなんだ」
「随分ひねくれた趣味だな。それより、鍛冶工房に案内してくれよ。そうだ、世話になるなら今ガルフが飲んだ酒でも土産に持って行った方がいいのかな?」
「おう、そうしてやってくれ。きっと喜んでくれるわ。ついでにワシの分も頼む」
ガルフは顔を赤くしてガハハハと豪快に笑った。
陽気なおっさんだ。
俺は店主のゲンズに銀貨7枚を渡し、小タルの酒を三つ受け取り、アイテムバッグに入れた。
ガルフは顔は酔っているが、足取りはしっかりしたもので、本当にほろ酔いのほうが調子がいいんじゃないかと思えてくる。
10分ほど歩くと、大きな建物があった。
武器を鍛えるイケメンドワーフのレリーフが飾られている。
ここが鍛冶工房で間違いないだろう。
ドアには鍵がかかっていないのか、ガルフは扉を開け、
「おう、バーグ! いるか! バーグ!」
と大きな声で叫んだ。
建物に入ると二階に続く階段があり、炉やら金床やらが置かれている。
鍛えられた剣なども飾られていて、本当に鍛冶工房って感じだ。
「バーグ! 寝ているなら返事をしろ!」
ガルフは二階に向かって叫んでいた。
暫く叫び続けると二階から怒声が飛んできた。
「うるせぇぞ、ガルフ。こっちはようやく仕事が終わって今から寝るところなんだよ」
「酒があるぞ!」
「それを早く言え! 寝てなどいられるか!」
ガタガタと音が鳴ると、二階からドワーフの男が降りてきた。
ちなみに、俺、ドワーフの顏の区別がほとんどついていない。
かろうじてガルフは白髪が少し混じっていたから他のドワーフとの区別がついたが、このバーグというおっさんも白髪交じりだからこの二人の区別はつかない。
着ている服が入れ替わったら普通に間違うだろう。
「おい、ガルフ、酒はどこだ?」
「コーマ、酒を出してやらんかい」
「あ、あぁ、わかった」
俺はさっきの店で買った酒樽を全て出す。
と同時に、二人はタルで乾杯を始めた。
本当に酒が好きなんだな、ドワーフって。
暫く日常編が続きます。




