閑話~闇の鼓動~
時系列的にはEpisode06の中での話になります。
前の話と関係ない、急な展開になりますがご了承ください。
この物語はホラーです。苦手な方は読み飛ばしてください。
世界が闇に覆われた
全部俺が悪い。
全てが俺が悪い。
何で願った?
何を願った?
俺は願ってしまった。
闇を――世界の闇を?
心の闇を拭い去るため、世界の闇を願った?
そんなバカな。
それではまるで魔王ではないか。
あぁ、まるでではなく俺は間違いなく魔王だ。
そうだ、俺は魔王だ。
でも、世界の滅亡なんて望んでいない。
そして、俺は勇者じゃない。
だから、絶望に立ち向かう勇気なんてなく、ただ逃げ出すことしかできなかった。
自分がとても嫌になる。
泣きたくなる。
でも、俺は彼女を見つけると逃げていた。
「逃げるぞ……コメットちゃん」
「は、はい!」
俺はコメットちゃんを抱きかかえ、走っていた。
背中から追ってくるその悪魔から逃げるため。
場所はルシルの迷宮192階層。
なんとか唯一逃げ遅れていたコメットちゃんを助け出し、最終防衛ラインまで戻ってこられた。
俺は慌てて、鉄の扉を閉めて、アイテムクリエイトと唱えた。
鉄の扉が鉄の塊になった。
と同時に、
――ドスンっ!
重い一撃が鉄の扉にぶつかった。
変形はするが破られないようだ。
だが、変形するだけでも俺は信じられなかった。
嘘だろ? この鉄の扉は超技術で超強化していて、ぶっちゃけ俺の身体なみに頑丈にできているのに、
「主殿――下の様子は」
「ダメだ。あそこは俺の知っている魔王城じゃないだろう」
俺は首を振った。
あそこはもう、ダメだ。
何がダメって、何もかもがダメだ。
「マネット、偵察用に置いておいたアイアンゴーレムはどうだ?」
「コーマ、ただの確認作業として聞いているんだろ? もちろん全滅だよ。奴に取り込まれた。扉の向こう側の様子はわからないよ」
ゴーレム使いのマネットはしれっとした顔で言う。
「ていうか、あんな化け物、オリハルコンでゴーレムを作っても敵うわけないだろ?」
「そんなこと言われなくてもわかってるよ。俺が今までに戦った強大な敵といえばエントや一角鯨がいるが、あいつらとはもう次元が異なる。逃げるしか選択肢が無かった」
そして、全ては俺が悪い。
何もかもが俺が悪い。
なんで……俺には選択肢があったはずだ。
「主、それでルシル殿はご無事なんでしょうか?」
「死んではいないはずだ。俺がこうしている時点でな」
ルシルが死ねば俺の中のルシファーの封印が解き放たれる。
……そうだ、それはつまり。
「俺は行かないといけない」
「コーマ様! 待ってください、どこに行くつもりですか!?」
「ルシルの所だ。あいつに万が一のことがあったら、俺の封印が解かれる。そうなったら、ここにいるコメットちゃん、タラ、ついでにマネット……いや、ここより上層に避難させているカリーヌやマユ、ラビスシティーにいる皆が危ない」
それに――と俺は笑った。
「理由はどうあれ、俺はやっぱりルシルを救わないといけないからな。タラ、皆を頼む。もしも俺が1時間経っても戻らなかったら最終防衛ラインは放棄して逃げてくれ」
「待って下さい、コーマ様!」
俺はアイテムバッグから高性能の鉄の塊を取り出し、
「アイテムクリエイト!」
と唱えた。
鉄の塊が鉄の壁に変形していく。
「コーマ様! 一緒に行きましょう! 私はコーマ様のことが……」
「ごめん、コメットちゃん」
俺は苦笑し、手を小さく振った。
鉄の塊が完全に鉄の壁となり、コメットちゃん達の姿が見えなくなる。
そして、俺は力の妙薬を飲み、先ほど鉄の扉だった鉄の壁に手を添えた。
息をのむ。
そして――
「アイテムクリエイト!」
そう唱えた。
突如、鉄の壁が鉄の細長い板に変わった。
そして――闇が溢れてくる。
闇の匂いが俺の鼻につく。
「……くそっ、せめてルシルがいたら、お前たちを凍らせることはできるんだが――」
こいつらの弱点は氷だ。
氷の攻撃をすればこいつらは流体型の姿を維持できず、固まってしまう。
だが、ないものねだりをできる状況でないことくらいわかっている。
俺はアイテムバッグから武器になりそうなものを取り出した。
いや、こいつらのことを見てみろ。
ルシルの言っていたことを思い出せ。
そうか――こいつらの弱点は氷だけではない。
こいつらにはもっと、根本的な弱点があるはずだ。
そして、それはアイテムバッグの中に大量にある。
俺はアイテムバッグの中から白い粉を取り出し、迫りくる闇に対して――ではなく、横の壁に向いて撒いた。
突如、闇が方向を変えてその壁へと群がる。
今がチャンスとばかりに俺は前に走った。
白い粉をまいて道を作り、闇に覆われた地下へ地下へと潜っていく。
そして、地下200階層まで戻ってきて、俺は驚愕した。
そこはもう俺の知っている魔王城ではなかった。
「……コーマ、帰ってきてくれたのね」
ルシルが俺の事をどこかで見たのか、いとおしく、そして嬉しそうな声で言う。
「無事か? ルシル? どこにいるんだ!?」
「あら、私はずっとここにいるじゃない。わからないの? コーマ」
「だからどこだ! 早くしないと闇が――」
「わかってないのね、コーマ」
遅かった。
闇が俺の周りに集まってきた。
くそっ、こうなったら戦ってやる。
最後まで抵抗してやる。
せめて、ルシルを一分でも一秒でも守り抜いて死んでやる。
「ルシル、どこに隠れてるか知らないがしっかり隠れていろよ! 俺が護ってやるからな」
「護る? 隠れてる? わからないの? ねぇ、コーマ、本当にわからないの?」
「何を言ってるんだ? いいか……ら黙って……」
俺はそれ以上言えなくなった。
闇が……目の前の闇が、無数に分裂し、それらが全て同じ形を作った。
色こそ黒いが、その姿は全員、紛れもないルシルの形をしていて、
「私は一つになったの。全部――全部コーマに食べてほしいから」
「嘘……だろ……ルシル! ウソだと言ってくれ!」
「嘘じゃないわ。ねぇ、コーマ!」
無数のルシルの形をかたどった闇が俺に迫ってきて、こう言った。
「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」「私を食べて」
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
※※※
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
俺はそう叫んで起き上がった。
ここは?
……夢?
そうだ、夢だ。
さっきのは夢で、ここは魔王城だ。
無事だ。
息を整え、胸を押さえながら高鳴る鼓動が静まるのを待った。
タタミの後がくっきりとついた自分の腕を見て、ため息をつく。
「コーマ、起きたの?」
ルシルが入ってきた。
そういえばルシルと会話している時に眠ってしまったらしい。
「あぁ、ルシル。ちょっと嫌な夢を見てな」
「へぇ、コーマが夢の話をするなんて珍しいわね。ちょっと待ってね、これからもう一つの夢を叶えさせてあげるから」
ルシルはそう言うと、俺がかつて使っていた竹籠の中から材料らしいものを取り出す。
「もう一つの夢?」
「『俺がこの世界に来て半年か……ってことはそろそろバレンタインなんだな。こっちの世界じゃメイベルとかコメットちゃんとか可愛い知り合いが多いからチョコレートが貰えそうなのに、そういう時に限ってそういう風習がないんだよなぁ』って呟いてたじゃない。なんで私の名前がなかったのかはこの際目を瞑ってあげるわ。これから美味しいチョコレートを食べさせてあげるから、黙って見てなさい。砂糖がないから後で足さないといけないけど。大丈夫よ、カカオからハンバーグを作れる私よ。カカオからチョコレートを作るなんて朝飯前どころか起きる前にできあがり――って何するの!? 何するのよ、コーマ!」
「ふぅ、世界を守った」
夢の中と全く同じことを言うルシルに対し、俺はその材料を思わず投げていた。
もしかしたら、あの夢はこれから起きるであろう世界の危機。
それを未然に防ぐために神様が俺にくれたバレンタインプレゼントなのかもしれない。
「何が世界を守ったよ!」
後ろからルシルが半分泣きそうになりながら殴り掛かってきた。
今日も魔王城は平和だ。
ハッピーバレンタイン!
~きゃはっ♪ ルシルのチョコレート大作戦~
はいかがでしたでしょうか?
バレンタイン用の書いた閑話です。
最後に答えはありますが、コーマが途中で撒いていた白い粉は砂糖です。




