プロローグ
プロローグ
声は今日も聞こえなかった。
あれから一ヶ月。
俺の中にいるもう一人の俺の声はまだ聞こえない。
「……煙が……煙が上がっている」
俺は記憶喪失になる前に、レイシアにこう言ったそうだ。
三日くらい“あいつ”を閉じ込めたら、また前みたいに活動できると。
だが、三日が十回すぎても俺の問いかけに俺が答えることはなかった。
「燃えている、何もかも燃えている」
何かあったのだろうか?
俺の行動が、俺の妨げになっている……とかじゃないよな。
まぁ、本来の記憶喪失と異なり、日本にいた頃の記憶ははっきりと残っているから、それほど不便に感じることは無いんだけど。
「焦げる……焦げてしまう」
「いいんだよ、わざと焦がしてるんだから」
隣から煩い声を出す少女に、俺はげんなりした口調で言った。
てか、さっきから煩いな。
こっちはただ焼き鳥を焼いているだけなのに、煙が上がるとか燃えているとか。
場所はアークラーン王城の前の城下町の一角。
誰もいない空き地を見つけ、そこで焼き鳥を焼いていたらどこからともなくその少女が現れていた。
9歳くらいの、少し汚れた長い髪の少女だ。
オシャレで伸ばしているというよりは、ただ放ったらかして伸びたという感じだ。
「食うか?」
「うん」
少女は笑顔で頷き、俺が出した焼き鳥を――食べずに焼いていた3本の焼き鳥を取って食べ始めた。
なんて奴だ。
と思ったが、その腕は痩せていて、まともな食事を食べられる状況じゃなかったんだと思う。
「うまいか?」
「…………うん、美味しいと思う」
え? 思う?
うまくないのか?
できるだけ不味くなるように作った料理でも、城にいる連中が食べれば涙を出して喜ぶのに。
俺の方が不思議に思い、少女を見た。
【HP7/9 MP0/1 味覚障害 栄養失調】
……栄養失調による味覚障害か。
やりにくいなぁ。
戦争はあったが、俺が見る限り、シルフィアはかなり善政を敷いている。
それなのにこんな少年少女がこの町には溢れている。
「これも食べるか?」
俺は自分用に残しておこうと思った焼き鳥を少女に渡した。
少女は焼き鳥を持つと食べようとしてやめた。
「いいぞ、俺は腹が減ってないから」
「明日食べるから」
「……なぁ、お前、親は?」
「いない。病気で死んだらしい」
「そっか」
俺は、明日もまた来るからと伝えて城に戻った。
※※※
「というわけで、学校を作ろうと思う!
俺はそんな提案をシルフィアとサクヤに提案した。
「コー……貴様はまた急に。戦後処理でそんな余裕がないのかわからんのか」
サクヤが少し恥ずかしそうに、いつもよりも小さな声で言った。
「だからだよ。戦争孤児を無くさないといけないんだ。とりあえずさ、昨日から炊き出しをしてるんだが、思ったより城下町にも孤児が多くてさ。給食を出したら子供が飢えて死ぬこともないし、いいじゃん。金は俺が出すからさ」
「場所はどこでするのでしょうか? 建物なんですが、その、国中の建築家たちは西のウィンドポーンとの国境砦の修復と補強に当たっており、誰もいなくて」
シルフィアは困ったように言った。
学校を作ることそのものには異存はないように思える。
それは置いておいて、彼女はかなりノリノリのようだ。
「俺が作る作る。なんか、アイテムバッグの中に建築資材も結構あったから」
「土地はどうする? 土地の代金も貴様が払うのか?」
「あぁ、一等地は国有地が多くてさ。困ってるんだよな」
俺はそう言って、紙束を取り出した。
そこには項目と数字がいっぱい書かれている。
「なんだ、これは?」
怪訝そうな顔でサクヤが訊ねた。
中身は既に知っているので白々さが半端ない。
「請求書だ。俺が今まで助けてやったことへの請求書。助けたら礼をすると言っておいて、何もしてくれてないだろ?」
「……なんだ、この金額は」
「国一つの値段としては安いと思うが?」
俺が笑みを浮かべると、シルフィアは笑顔で言った。
「なるほど、確かに神子たるもの、約束は守らないといけません。ですが、戦争のせいで国庫が底を尽きかけていて。もっとも、今回の同盟でフレアランド、アースチャイルド間の交易が盛んになり、東大陸との交易も再開しましたから一年すればこの程度のお礼はできるのでしょうが。どうでしょうか? コーマ様。ここはひとつ、国が有する土地を代わりに差し上げることで手を打ってくださいませんでしょうか?」
「シルフィア様がそのように仰るのでしたら、ありがたくその土地を拝領いたします」
「コーマ様の領地というわけではありませんから、地税は払ってくださいね」
サクヤは、「茶番だ」と台本にない台詞を呟いた。
こうして、俺が脚本兼主演、脇役サクヤ&シルフィア、観客はこの国のお偉いさんという学校作成のための寸劇は終わった。
別に学園編に入るとかそういうわけではありません。たぶん。




