破壊衝動とストレス発散
~前回のあらすじ~
船にスライムが溢れた。
ベルリンの壁の崩壊。
歴史的瞬間と言われるその光景ですら霞んで見える展開が起こり、それを俺達は見ていた。
王城の屋上から。
崩れていく。
巨大な土の壁が。
音を立てて崩れていた。
土煙が地平線の先から、反対側の地平線の先まで巻きあがっている。
「精霊の力で強制的に作り上げていた土壁だったんだろう。精霊の力が無くなれば自重にも耐えきれない脆い壁だ」
レイシアが地上の様子を見て、
「クレイゴーレムも全て止まったようだな」
そうだ。さっきまで、通勤ラッシュの満員電車のように溢れかえっていたクレイゴーレムが土の塊になって崩れ落ちていた。
こんな状態だというのに安堵している様子のレイシアを非難できない。彼女にとって優先順位はアルジェラよりも祖国なのだ。
そして、崩れた土壁の向こうにあったのは、大きな町だった。
遠くなので良く見えないが、崩れる壁を見るために多くの人が出ているようだ。
だが、アルジェラの姿はどこにも見えない。
「クレイ! グルースはどこにいるんだ?」
『知らないわ! 興味ないもの!』
「くそっ、これだから駄精霊は……」
『駄精霊って何!? さっきから失礼じゃない』
「駄精霊じゃなかったらなんだっていうんだよ。お前のミスでこんなことになってるんだろうが」
人探しのアイテムなんてないぞ。
スライムクリエイトでスライムを大量生産して人海戦術……いや、そもそも俺はグルースの顏すら知らないし、縦しんば知っていたとしても、それをスライムに正確に伝える術を知らない。
いや、そもそも探すのはグルースじゃなくてアルジェラなんだ。
あぁ、ここにコメットちゃんやタラがいたら匂いを追ってもらえるし、カリーヌがいたら、波動とか波長とかでわかるんだろうが、生憎俺にはそんな器用な性質はない。
……待てよ?
「そもそも、アルジェラはグルースがどこにいるのか知っているのか?」
『そうよ! アルジェラもグルースの居場所は知らないわ!』
「なら、俺達が行くべきは、グルースの場所じゃない、アルジェラがグルースがいると思っている場所だ。どこかないのか!? 思い出の場所とかそういうの」
急がないとそろそろやばいんだよ。
俺の中の破壊衝動が溢れてきているんだよな。
幸い、一週間以上抑え続けていたおかげで前よりは余裕あるが、それでも……んー、とりあえず何か壊したい。
俺は屋上から一気に飛び降りると、エントキラーを構え、
「地球割りぃぃっ!」
某ロボットのように全力で大地に叩きつけた。
大きな地割れが起こった。その亀裂は幅は最大3メートル、長さは200メートルに至る。
『何をしているのよっ!』
「いや、ちょっと破壊衝動を抑えるためにあえて発散してみたわけだ。うん、気持ちいいなぁ」
『ストレス発散感覚で大地を真っ二つに割らないでよ』
「娘の我儘に付き合って国土を真っ二つにするような壁を作っただけでなく、支えきれなくなって豪快に壊した駄精霊が言っても説得力ないぞ」
『だから駄精霊って言わないで! なんであなたは精霊に対してそんなに偉そうなのよ』
なんで偉そうかって?
魔王だからに決まってるだろ。
とか思ってみる。
上を見ると、レイシアが壁を伝って降りてきている。
「そういえば、お前の声が聞こえてるけど、俺って、もしかして神子の力に目覚めたのか?」
『そんなわけないでしょ。さっきあなたが私の身体に精霊の涙を突っ込んだから力が溢れている状態なのよ。暫くはこのままよ』
「……で、アルジェラの思い出の場所は思い出せたか?」
『……たぶんね。ていうかあそこしかないと思うわ』
「ここから何キロくらいの場所だ?」
『それほど遠くないわ。10キロ程の場所よ』
「10キロか。走って5分だな」
俺は降りてきたレイシアをそのまま抱え上げ、北へと進路を取った。
「じゃあ、しっかり案内頼むぜ、ナビ精霊!」
『変な名前ばかりで呼ばないで! 私は六大精霊の一人、土の精霊クレイよ!』
怒るクレイを無視して、俺達はさらに北へと走り出す。
最近短くてすみません。ちょっと仕事が忙しくて。
明日はもう少し長い話が書けると思います。




