クレイとアルジェラ
~前回のあらすじ~
クレイとアルジェラの様子がおかしい。
アルジェラが苦しみのうめき声を上げた。
サランの声に、俺の身体は動いていた。
落ちていた精霊の涙を手に取った。
恐らく、俺がここにいるのも、良く知らないがあいつが仕組んだことなんだろう。
気に食わないが、今はあいつの思惑に乗ってやろうと思っている。
それには、土の精霊がいなくなられたら困るから、ここは迷っていられなかった。
そこには善意は欠片もない。
ただの俺の我儘だ。
だからこそ躊躇してしまう。
だが、周囲の土壁が崩れていく。
いくら魔力粘土で強度を高めたとはいえ、床下の土はさっきからこねくり回されている。
普通に考えたら簡単に崩れ落ちてしまう。
それが、俺が斧で叩き割るまで崩れなかったのは、単純に精霊の――クレイの力によるものだ。
時間がない。
俺は精霊の涙を掴んだ手を、アルジェラの下腹部――土の塊の中へと手を突っ込んだ。
その直後。
『うおぁぁぁあいぃぃぃうあぁぁぁぁぁぁぁああっ!』
声がぶれた。
一つだったはずの声が二つに聞こえ、そして、アルジェラを包み込んでいた土の塊がゆっくりと下がっていく。
そして、下がってった土の塊の中から、クレイが現れた。
『なんてことを……あなた、なんてことをしたの!』
クレイがその小さな体を浮かばせて、俺の胸元に飛んできて、胸倉を掴みにかかった。
だが、俺は手の平で叩き落とし、
「黙れ、元はと言えばお前がきっちり融合できなかったのが悪いんだろ。それより、どうなってる?」
『融合に失敗したの。アルジェラと魂の対話をした時に。人里を離れてゆっくりと暮らそうと言った時、彼女はグルースを求めた。グルースを求める力が強すぎた。私の力じゃ制御できなくなった』
「制御か……そんなんだから失敗するんだよ、駄精霊」
『駄精霊!? 私は六精霊の一人で……貴方……もしかして』
六精霊が俺を見て、逡巡する。
「どうした?」
『……なんでもないわ。それより、アルジェラ! アルジェラ、しっかりして!』
アルジェラを見た。アルジェラは先ほどまでのうめき声はなくなり、ぐったりとしていた。
そして、俺は彼女を見た。
――彼女は今、何なんだ?
彼女は今、人間なのか?
精霊なのか?
それとも、どちらでもないのか?
今の俺にはわからない。
『アルジェラ、お願い、起きて、アルジェラ!』
「……クレイ……聞こえてるわ……大丈夫、アルは大丈夫」
アルジェラが目を覚まし、立ち上がった。
そして、両手を強く握り、手を前に出そうとした。
パリンッ
まるで陶器が割れるような音で、手枷が壊れた。
そして、彼女は自由になった両手で、足枷も壊す。
「ねぇ、クレイ、アルはどうしたらいいの? グルースはアルに、ここにいてゴーレムをいっぱい作るように頼まれてたの。そのためにクレイと一緒になれって言われたの。でも、今の私じゃクレイと一緒になれない。ねぇ、クレイ、私はどうしたらいいと思う?」
『アルジェラ、もういいの。もう何もしなくていいの。お願い、私と一緒に――』
「クレイが余計な事をしたんだよね? クレイ、アルからグルースを奪おうとしたよね? アル、見てたんだから! アルは……グルースに聞かないと」
アルジェラの考えが纏まった途端、彼女の足元の土が天井に向かって伸びていく。
そしてその足元から土の槍が伸びていき、天井を砕いた。
『待って、アルジェラ! 行っちゃダメ!』
「危ねぇっ!」
崩れてきた天井が、二つの宝玉を壊すように落下してきた。
俺は咄嗟にその宝玉を全身で庇う。これが割れたら、クレイもサランも死んでしまうからな。
俺の背中に岩のような天井が落ちてきた。
……ぐっ、並みの人間なら死んでるぞ。
「カガミ、無事かっ!」
「大丈夫だ! レイシア、そっちはどうだ?」
瓦礫のせいで死角になってしまったレイシアに向かって叫ぶ。
あっちには瓦礫は落ちていないはずなのでそれほど心配はしていないが。
「無事だ。カガミ、脱出できるか?」
「ああ、このくらいなんとでもなる。脱出するぞ!」
レイシアの返事を聞き、俺は背中の瓦礫を押しのけ、クレイとサランを宝玉の中に入らせると、レイシアとともに脱出した。
砦から脱出し、屋上に出たとき、聖都中にいたはずのクレイゴーレムも、そしてアルジェラの姿はどこにもなかった。




