エゴと我儘
~前回のあらすじ~
土に飲み込まれた。
闇の中に俺はいた。
闇の中に俺は浮かんでいた。
そして、そいつと俺はまた会った。
【久しぶりだな】
闇の中、俺の目の前に、別の俺が浮かんでいた。
この光景、以前にも見た。
フレアランドの軍がシングリド砦に攻めてきた時のことだ。
なんで忘れていたんだろうか。
【悪いな、お前ばかりに負担をかけちまって。って言っても、お前も俺なんだがな】
乾いた笑いを浮かべる俺を睨み付ける。
「なぁ、さっき、精霊の涙の存在を教えてくれたのも、それにあのルシルの料理の危険を教えてくれたのもお前なのか?」
【……すまん、ルシルの料理に関しては本当にすまん。あれは100%俺の責任だ】
「……いや、それはいいんだが」
何故か土下座を始める俺の姿を見て、俺はどう反応したらいいか困った。
「なぁ、お前は、半年間の、記憶を失っている俺――でいいんだよな」
【あぁ、そうだ。この半年間、まぁそこそこ楽しく遊ばせてもらっていた俺だな。かなりの頻度で死にそうになってるけど】
と苦笑して俺は言った。
かなりの頻度で死にそうになる……って、どんな生活をしていたんだよ。
「……なぁ、あんたならわかるだろ? アルジェラをどうしたらいいか」
【さぁな。ただ、女の子とコボルトが、おっさんとコボルトが融合した仲間がいるんだが、そいつらはかなり幸せそうにしているよ】
俺は遠い目をして言った。
魔物と人間が一緒になる。
一体、どうしたらそんなことになるのか。
でも、幸せそうにしている、という言葉が俺に突き刺さる。
「……なら、俺がしようとしていたことは、ただのエゴなのかな」
【いいんじゃないか? お前はただ、自分が正しいと思ったことをアルジェラとクレイに押し付けようとしてるんだろ? 俺だって結構そうやって生きて来たよ。なんだって、俺は魔王なんだからな】
「え?」
【だから、俺……そして、お前は今、魔王だ】
……え?
俺が魔王?
魔王って悪魔の王のあれ?
……ウソだろ、マジかよ!
え、俺、半年間魔王なんてやってたの!?
俺は何もない空間に崩れ落ちるように膝を折り、何やってるんだよぉと叫んだ。
この後悔も元に戻れば忘れてしまうんだろうが。
前に俺と話したことを忘れてしまったように。
【魔王って言っても、悪いことはしてないぞ? 精々、勇者を借金漬けにしたり、冒険者ギルドマスターに喧嘩売ったり、一つの国を滅ぼすと言われるゴブリンを匿ったりしたくらいだ。後は他の魔王や魔物達を配下にして一緒に面白おかしく暮らしてたんだぞ?】
「十分すぎるわ! え、俺、他の魔王を配下にしてたの? それって最早一大勢力じゃないか」
【……言われてみればそうだな】
俺は今更気付いたかのように言った。
本当に、何してたんだよ、この半年間。
疑問が疑問を呼ぶわ。
【それより、アルジェラだろ? 助けたいのか? それがあの子を苦しめることになっても】
「俺、言っただろ。殺すのは最後の手段だって。それって、肉体的なことだけじゃなく、心もそうだと思うんだ。二人が一つになるのってかつての自分じゃなくなるってことだろ? 他に手段があるのなら、それに縋りたい」
でも、それって完全に俺の我儘なんだよな、きっと。
【いいんじゃねぇか? 俺は今でも後悔してるぞ。融合した二人。まぁ、ゴーリキの方は防ぎようがなかったかもしれないが、少なくともコメットちゃんのほうは俺が上手く立ち回っていれば、融合せずに別の生き方ができたんじゃないか? って思ってる。だから、お前も後悔しないように動けばそれでいいと思う。やらないで後悔するよりはマシだ】
「それが相手を不幸にすることになってもか?」
【不幸になっちまったら、責任を持ってお前が幸せにしてやれ】
なんて我儘なことを言うようになったんだ、この俺は。
【だが、正直やばいと思うぞ?】
「やばい? 何が?」
【融合ってのはそんなに簡単じゃないってことだ】
簡単じゃない?
それってどういうことだ?
そう言おうとしたとき――
※※※
「カガミ、しっかりしろ、カガミ!」
「……レイシアか」
俺はレイシアに起こされて、目を覚まし、そこは完全な闇だった。
上も下もわからない。
手を伸ばしてみると――そこに柔らかい感触が。
「カガミ、手を離せ! そこは……私の胸だ」
「わ、悪い!」
俺は思わず手を下に下ろし、
「カガミ、貴様どこに手を入れている! まさか見えているのではないだろうな!」
「み、見えてない! てか、俺、どこに手を入れたんだ?」
「そんなの言わせるな」
くそっ、何も見えない。
俺はアイテムバッグから明かりになりそうなものを取り出した。
ライターはないか、ライター。
そう思ってみると、ライターのような大きさの物があった。
ボタンがあるようで、そこを押してみると、ドラゴンがそこにいた。
いや、ドラゴンの形の指人形だ。
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パーカ人形〔ドラグ〕【雑貨】 レア:★×6
パーカ迷宮で拾うことのできる指人形。全97種類ある。
シアナがかつて倒したドラゴン。炎を吐くギミック付き。
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パーカ人形……指人形?
口から火を吹いているが……コレクションアイテムなのか。
全97種類。集めごたえのありそうなアイテムだな。
口からライター程度の炎を出している指人形。
その火の光を頼りに辺りを見てみた。
狭い部屋のようだが、出口はない。
前後左右だけでなく、上下も土に覆われている。
完全な密室だ。
「出口は無さそうだな」
「ああ、しかも火の宝玉を置いてきてしまった。私は今、サランの力をほとんど使えない」
レイシアはそう言うと、槍を抜き、
「待て待て待て、何をするつもりだ!」
「とりあえず、壁を壊す」
「やめろ。壁の向こうに出口があるとは限らないし、お前が本気を出したら崩落を起こしかねない。それより、サランはどうしてるんだ? やっぱりサランも宝玉と一緒なのか?」
「サランか。そういえば、すっかり忘れていた」
……神子が精霊を忘れるなよ。
「サランの位置を確認すれば、私達がだいたいどのあたりにいるかわかるな」
「本当か?」
「あぁ、待て……この天井が五メートルくらいの厚みがあり、その上が先ほどの地下室のようだ。よし、天井を突くか」
「だから、待てって! そんなことしたらそれこそ崩落するわ」
何かいい方法はないか。
例えば、この土を崩落しないような丈夫なものに変えるとか。
「……物質の変換……錬金術か」
アイテムバッグから、もっと部屋を明るく照らす道具はないかと思って探すと、魔力灯と呼ばれるランプのようなものが出てきた。
それのスイッチを入れると、密室が照らされて、そして、錬金術ノススメという本を取り出す。
「レイシア……俺はアルジェラを助けたいと思ってる。間違っているか?」
俺は本を読みながらレイシアに訊ねた。
「知らん」
「即答かよ」
「私は私がしたいようにする。さっき、話を聞いていたら、なんとなく融合が気に食わないから融合を阻止しようとした。それだけだ」
「……お前、本当に神子かよ」
俺は笑いながら本を読んだ。
そうだよな。
俺も我儘でやってやるさ。
なんだって、俺は――あれ? 俺はなんだっけ?
何か、とても大切なことを知ったような気がしたんだが。
まぁ、いい。やりたいようにやってやる。




