アルジェラとクレイ
~前回のあらすじ~
土の精霊クレイ顕現
『力が溢れてくる……私を呼んだのは火の神子……あなた?』
クレイが静かな声でそう尋ねた。
アンジェラはというと、気を失っているようだ。
『アルジェラはまだ半精霊だから、溢れる力に耐えられなかったの。悪いものじゃないから、力が漏れていったら目を覚ますわ』
クレイはそう言って、アルジェラに微笑みかけた。
「ああ、私が呼んだ。だが、話があるのはこっちだ」
レイシアは視線をサランに送る。
視線を向けられたサランは、クレイを向き、
『久しぶりだな、クレイ』
『久しぶりね、サラン』
どうやらこの二人も面識があるらしい。
土と火か。
んー、合わせたら陶器ができそうだな。
陶器と言えば、死んだ爺ちゃんはかなりの陶器マニアだったと記憶している。
俺のコレクター魂は父さんから継がれたものかと思っていたが、その元祖は爺ちゃんだったのかもしれないな。
『それより、なんだそれは。クレイ、お前……その娘を取り込むつもりか』
『そうよ。彼女は生きていたら幸せにならない。私と同化して、この子を幸せにする』
『そんなことをしたらお前がお前ではなくなるんだぞ』
『承知の上よ。安心して、この子と一緒になれば、クレイゴーレムは全て消してあげる。私はこの国を捨てて、どこかでひっそり余生を過ごすことにするわ。この世界が消えてなくなるまでね。火の神子が力をくれたおかげで同化スピードは進んでいるし、国中にいるクレイゴーレムにこの町に戻ってもらっているわ。フレアランドのことが心配なら問題ない。まだ無事よ』
クレイは微笑んで言った。
「教えろ! なんで彼女は捕まっている! 誰がこんなことをしているんだ? 何の目的で」
『なんでそんなことを聞くの? もう知っても終わりよ』
「教えてくれ」
俺の目を見て、クレイは肩をすくめるような仕草をし、
『この子をこんな風にしたのは、彼女の養父――グルースよ』
「グルース? 父親がこんなことをしたって言うのか!?」
『彼に父親という感情は最初からない。孤児だったアルジェラに、神子としての資質があると知ったグルースはこの子を道具のように扱い続けた。表では人格者に仕立て上げ、裏では兵器を開発するために暗躍していた。彼はこの国の王になるつもりだったの』
「……王に?」
『水とともに闇を攻めるといったとき、彼は喜々としてアルジェラに命じたわ。これを機に闇の国を自分のものにしようと。彼は嫌いだったの。精霊に好かれる神子という才能のみで国の王になれるというこの大陸のシステムを嫌ってた。だから、彼は壊したかったの。この大陸を。だから私は提案したの。クレイゴーレムを無限に増やす方法を。この子と一緒になる方法を。グルースに教えたの』
「それをアルジェラは望んだのか?」
『アルジェラが望むのはグルースに従うことよ。それだけ。そういう風に彼女は教育されている。そんなのは間違ってる』
だから、彼女はアルジェラと同化する。
アルジェラという個人を捨て、クレイという個性を捨て、一緒になろうとしている。
『この子が生きていても、幸せにはなれないの。彼女はここから出ても、必ずグルースを追いかける。そして、彼の言いなりになる。土人形になる。彼女はグルースにとってのクレイゴーレムなの。だから、私が護る。絶対に』
それで本当に幸せになれるのか?
サランも、そして俺も何も言えなかった。
それは正しいのか、間違っているのかわからない。
「グルースを殺せば全てが解決するのではないか?」
レイシアが言った。
『そうね。グルースを殺して、ずっとグルースが死んでいることを隠して、アルジェラにグルースを永遠に待たせるのなら、それでもいいと思うわ。もしもグルースが死んだとわかれば、間違いなくアルジェラの心が壊れてしまうもの』
クレイのその言葉は――そんなことができるくらいならもう自分がしている。
そう言いたいのだろう。
永遠に来ない人を待たせる。
それでも、俺は同化なんてしてほしくない。
そう思った。
完全に俺の我儘だ。
そんなことくらいわかってる。
「…………ちなみに、今の半精霊化はどうすれば元に戻せるんだ?」
『元に戻せないわ。私とアルジェラを分離すれば、私もアルジェラも死んでしまう。精霊の力が半分しかない私達には消えるしかない』
「俺の菓子で力を強めてもダメなのか?」
『ダメよ。このお菓子での力は一時的なもの。永遠じゃないわ。効果が切れたらどっちにしても消えてしまう』
ダメか。
「精霊の涙でもあれば話は別なんだろうが」
レイシアが呟くように言った。
「精霊の涙?」
「精霊の力の塊だ」
「それはどうしたら手に入るんだ?」
「力の強い神子が百晩祈り、力を精霊に捧げ続けたら生まれると言われる。この時代で精霊の涙を持っているとしたら、闇の神子くらいだろう」
闇の神子……ダークシルドにいる神子か。
そんなところにまで行って、間に合うとは思えない。
【アイテムバッグの中にある。それを使え】
え?
声が聞こえた。
また聞こえた。
俺の声であり、俺の声でないような声。
まるで録音して再生した自分の声のような異質な感じ。
だが、俺はその声を信じて、アイテムバッグを漁った。
中から球体状の七色に輝くゼラチンみたいに柔らかい物質が出てきた。
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精霊の涙【素材】 レア:★×7
精霊の力の塊。多くの薬の材料になる。
本物の精霊の涙ではないので、精霊を泣かさないで。
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これなのか。
これが、精霊の涙なのか。
「カガミ、それをどこで手に入れた?」
「知らない……本当に知らない。でも、これで二人を分離できるのか?」
「あぁ、精霊の涙をアルジェラに押し込め。そうしたら、精霊の力が溢れ、一人の身体では維持できなくなる。分離せざるをえないくらいにな。一つの体に二つの精霊の力があるようなものだ」
「それって、アルジェラの精霊化は止められないってことか!?」
「だが、時間がないぞ!」
そうだ。時間がない。
『ダメよ! そんなことはさせないわ!』
クレイが叫んだ、その時だ。
俺達の周りに黒いクレイゴーレムが出現した。
「クレイゴーレムごときで私を止められると思うな」
レイシアがクレイゴーレムに槍で突いた――その時、彼女の身体がクレイゴーレムに飲み込まれる。
「レイシア!」
俺はレイシアの身体を掴んだ。
ここで全力で引っ張ればどうなるか――そんなことをしたら彼女の身体が引き裂かれてしまう。
「サラン! 私の身体を燃やせ! そうすればこの土も固まる」
『わかった、すぐに燃や――』
「ダメだ! 燃やすな!」
俺は思わず叫んだ。
「このゴーレムは、ただの土のゴーレムじゃない! 火薬が埋め込まれている! そんなことしたら爆発するぞ!」
『正解よ。火薬は万が一侵入者が来たときのためにと、グルースに置いていってもらったわ。彼にとってははした量だろうけど、天井を崩して私達を閉じ込めるには十分な量よ。安心しなさい。私達が完全に同化したら二人も解放してあげるわ。私達のことを本当に心配してくれた貴方達には死んでほしくないもの』
そう言ったとき、新たに現れたクレイゴーレムが俺達を飲み込んでいた。
暴れたら抜け出せるとは思うが、そうなったらレイシアがどこに連れていかれるかわからない。
土の中で俺達の身体は移動を始めていた。
俺の顏が埋まろうとしていたその時――
「……ありがとう」
アルジェラの声が聞こえた――そんな気がした。




