火の精霊と土の精霊
~前回のあらすじ~
地下牢に土の神子が捕まっていた。
彼女が土の神子アルジェラ?
まだ子供じゃないか。
何より――なんで土に埋まって捕まって、カビの生えたパンしかない部屋にいるんだ?
「……誰?」
アルジェラは俺とレイシアを見て、首を傾げた。
「君は、本当にアルジェラなのか?」
「うん。アルの名前はアルジェラだよ」
……嘘であってほしかった。
なんで、土の神子が、こんな場所で、下半身が土に埋まり、手枷を付けられているんだ?
なんでこんな臭い部屋で、カビの生えたパンを食べようと――いや、すでにカビの生えたパンは食べていたのかもしれない。
俺がどうしようかと思っていたら、レイシアは俺の横をすっと動き、彼女の胸倉をつかみ上げた。
泥がついて汚れた絹のドレスが大きく引っ張られる。
「クレイゴーレムをすぐに消せ」
レイシアが歯を食いしばり、アルジェラを睨み付ける。
アルジェラはじっとレイシアを見つめ、
「ダメ」
そう言った。
それでレイシアには十分だった。
レイシアは手を離し、槍を抜く。
「なら死ぬしかないな――」
彼女は槍の矛先をアルジェラに向け、今にも彼女の心臓を貫きそうだ。
「待て、レイシア!」
俺は止めた。
彼女が焦る理由はわかる。こうしている間にも、クレイゴーレムは南の国境壁に集結している。
建造物は壊さないクレイゴーレムだが、この町の北にある壁みたいに、国境を全て建造物で覆っていたら防ぐのは可能だろうが、そうではないだろう。
人が通るには適していない場所には壁はないという。
あくまでも国境壁は人の行き来を完全に防ぐものではなく、軍隊による侵攻を防ぐために作られているため、という理由らしい。
簡単に通れる場所ではないから、クレイゴーレムも簡単には通れないと言っていたが、完全ではない。
このままゴーレムが増え続けたら、その僅かな綻びからゴーレムが溢れるかもしれない。
決壊しつつあるダムに蟻の穴が空いたらどうなるか?
だから、レイシアが焦る理由もわかる。いい加減に見えて、やはり彼女は国の主なのだ。
「アルジェラ、なんでこんなことをするんだ? クレイゴーレムが国中に溢れかえり、町は土だらけ、国に住んでた人も避難を余儀なくされている。戦争をするにしても手段があるだろ」
「……アルはよくわからない。ただ、グルースに言われたからしているだけ」
「グルースって、お前の養父だったよな? 養父に言われたからやってるのか? グルースはどこにいる?」
「わからない」
アルジェラは表情を変えずにそう言った。
いや、彼女の表情はさっきから全く変わっていない。生気を感じられない。
「わからないって……」
こうなったら、グルースって奴をとっつかまえて、アンジェラを説得させるか。
そう思った。
「……カガミ……すまない。私としたことが気付かなかった」
レイシアは冷静さを取り戻して俺に言った。
「彼女には何を言っても無駄だ」
「無駄ってことはないだろ」
確かに、会話にはとりとめもないが、
「アンジェラはもう半分以上人間ではない――土の精霊と同化を始めている。彼女は下半身が土に埋まっているんじゃない。下半身がもう土なんだ」
「……嘘……だろ?」
「道理で、あのような土の壁を作れるわけだ。道理で、あんな多くのクレイゴーレムを作れるわけだ。道理で……神子の限界を超えているわけだ。もう、神子ですらないのだから。あと3日もしたら、彼女は完全に土の精霊に変わる。土の精霊に変わったら、もう私は手を出せない。今のうちに殺すしかない」
「……頼む、それは最後の手段にしてくれ。それより、彼女を元に戻す方法はないのか、考えてくれ」
こればかりは俺もどうしたらいいかわからない。
精霊と神子が融合?
んなもんどうしろっていうんだよ。
確かに、レイシアの言う通り、今、ここでアンジェラを殺してしまえば、フレアランドの皆にとってはハッピーエンドだ。今、こうしている間にサクヤが寝ずに戦っているのも理解している。
だが――俺はやっぱりバカだ。
ここで、何も知らないままアンジェラを見捨てることができない。
「……カガミ、私に例の菓子をよこせ」
「わかった!」
精霊のことは精霊に聞く、そういうことか?
俺はアイテムバッグからマシュマロを出した。
と同時に、レイシアも懐から赤く光る玉を取り出した。
それは――
……………………………………………………
火の宝玉【魔道具】 レア:72財宝
火の精霊が住む宝玉。赤く輝く。
6つの宝玉を集めたとき、偉大な力が授かると言われている。
……………………………………………………
72財宝の一つであり、6つの宝玉の一つ。
火の宝玉だった。
俺が集めなくてはいけない宝玉でもある。
こんな大事なものを、レイシアはどこかに保管せずに、ずっと持っていたのか。
……これを集めたら、俺は日本に……戻れるのか?
「カガミ、何をぼぉっとしている。菓子を渡せ」
レイシアが苛立ったように言った。
「悪い、スウィートポテトだ。こっちのほうが効果は強いと思う」
こっちのほうが手間暇かけてるからな。
「芋の菓子か。そういえばアークラーンはパリス芋が名物だったな」
レイシアはそんなことを確認し、スウィートポテトを半分に割る。
そして、半分をアルジェラに食べさせるためにスウィートポテトを彼女の口の前に持っていく。
そんな風に渡されても食べないだろ、と言おうとしたが、アルジェラはスウィートポテトを無言で咀嚼した。
レイシアも残りの半分を食べた。
レイシアの火が膨れ上がり、その火が
「……おい……しい」
アルジェラがそう呟いた――と思ったその時だ。
彼女の下半身となっている土から黄色い玉が飛び出して、火の宝玉の横に並んだ。
……………………………………………………
土の宝玉【魔道具】 レア:72財宝
土の精霊が住む宝玉。黄に輝く。
6つの宝玉を集めたとき、偉大な力が授かると言われている。
……………………………………………………
「宝玉の共鳴だ……」
「レイシア、意識ははっきり保っていられるのか?」
「あぁ。溢れた力を全て宝玉の中に押し込んでやったからな」
レイシアが笑って言う。
そして、それは現れた。
火の宝玉から、赤く輝く男の子の姿の精霊――サランが。
そして、土の宝玉から、幼い女の子の姿をした精霊が。
「土の精霊クレイだ」
「クレイ……あれが」
俺の目の前に、二人の精霊が並んで浮かんでいた。




