地下牢と囚われの少女
~前回のあらすじ~
大きな壁がドーン。
まるで万里の長城だ。
万里の長城は、中国で秦の始皇帝が作ったと言われている。実際、現在の万里の長城の大半はそれから2000年以上後の明の時代に作られたものらしいが。
宇宙からも見える唯一の建造物だと言われていたらしいが、それはウソらしい。
でも、それでも人間が作った建造物の中では最大級の一つであることは間違いない。
その万里の長城を彷彿させる土の壁を、一体、どうやって、どれだけの時間をかけて作ったというのか。
そんなの決まっている。
「あれも土の神子が作ったんだな」
俺が確認するようにレイシアに訊ねた。
だが、レイシアは答えを言いあぐねているようだ。
「違うのか?」
「いや、土の神子以外にあのような巨大な壁を作れるとは思えない」
だよな。神子じゃないとしたら、素材から自由に、しかも一瞬でアイテムを作り出すような万能創作者でもいない限り、無理な話だ。
そんなことができる奴がいるとしたら、そいつはそれこそ人間ではない。
「でも、神子の力にしては強すぎる。そもそも、クレイゴーレムの数にしても多すぎる。まさか――」
レイシアははっとなって俺を見た。
何かに気付いたのか。
「カガミ、さてはアルジェラに菓子を贈ったのではないか? 菓子で精霊の力を高めれば可能だろう」
「贈ってないし可能でもない。人が作ったお菓子をドーピング薬みたいに言うな」
「だとしたら何か特別な儀式で行われているのか? 悪魔の心臓を捧げるとか」
「そんなことで精霊の力を高められるのか?」
「適当に言っただけだ」
悪びれもなくレイシアが言う。
一瞬信じてしまった。
「じゃあ、神子はあの壁の向こうにいるのか?」
「いや、サランの見立てでは神子は聖都の中にいるのは間違いないようだ」
「あの中に人が?」
町は少なくともクレイゴーレムだらけだ。
抉れた大地から、次々とクレイゴーレムが湧き出ている。
おそらく、抉れているのは、そこの土がクレイゴーレムの材料になったからだろう。
材料に適さなかった石などがそのまま穴の底に残っているのがその証拠だ。
そんなゴーレムの発生源が聖都のあちこちの点在している。
いくら倒しても減らないわけだ。
「レイシア、俺一人で聖都に突入するというのが最善だと思うんだが」
「カガミ、そんなことをしたら私は貴様を一生軽蔑するぞ」
「だよな。お前は絶対にそういうと思った。でも、無茶はするなよ。これ、俺に使ってくれた分の薬だ。また持っておいてくれ」
レイシアにアルティメットポーションを二本持たせた。
再びレイシアを抱き上げ、山を一気に下っていく。
土がなくなったせいで木々も倒れ、俺たちの身を隠すものはなにもない。
当然、クレイゴーレムたちは俺を襲ってくる。
だが、所詮は何も考えていない土塊人形――100体がかりで攻めてこようが、レイシア一人を相手にするより100倍楽だ。
俺は時には攻撃を避け、時にはクレイゴーレムを蹴飛ばし、前に前にと進む。
その速度はまるえ衰えていない。
さすがは俺だ。
と自画自賛してみる。まぁ、これも異世界チートのおかげなんだけど。
そして、俺たちは町の中に入った。
石畳だったと思われるそこは土でほぼすべて覆われているが、建物は無事のようだ。
だが、やはり人の気配は全くない。
となれば、やはり怪しいのは城の中か。
城といっても、シングリド砦くらいの大きさしかない城だ。
あまり贅沢をしているようには思えない。
そして、その城の扉は硬く閉ざされている。
となれば、あの中にはクレイゴーレムは入れないはずだ。
扉には鍵がかかっている。
蹴破って入ってもいいが、中にクレイゴーレムに入られるのも厄介だからな。
となれば――
「屋上から入るか」
レイシアがつぶやいた。
考えているのは同じか。
「しっかりつかまってろ。舌を噛むなよ」
俺はそういうと、大きく上に跳んだ。
跳びましたとも。
そして、屋上に着地する。
走り高跳びなら世界新記憶を塗り替えて永久に語り継がれる記録だ。
そして、200年したらその記録は闇に葬られ、事実は都市伝説へと成り下がる。
屋上から下に続く階段への扉にも鍵がかかっていたが、こっちは遠慮なく壊させてもらった。
そして、俺たちは城内に。
人がいるかと思われたが、城内も静まりかえっていた。
誰もいないのかと思ったそのときだ。
動く影があった。
クレイゴーレムだ。
「おのれ、こんなところにも入り込んでいたか」
「待て、様子がおかしい」
斬りかかろうとするレイシアを俺は止めた。
一体だけここにいるクレイゴーレムは外にいるそれとは異なり、何か目的があって行動しているように思える。
棚を開ける、といった行動は外の連中はしなかった。
そして、クレイゴーレムが見つけたのは――萎れた野菜だった。
クレイゴーレムはそれを持ってどこかに行くらしい。
俺たちはそっとそいつを尾行することにした。
でも、あの野菜くず、とても人が食べられるものとは思えないが、一体何に使うんだ?
俺たちはそっとついていくことに。
クレイゴーレムは下へ、下へと降りていき、一階を通り過ぎ、地下に。
(上がってくるぞ、隠れろ)
地下に降りたクレイゴーレムは再び一階へと戻ってきた。
俺たちは物陰に隠れてその場をやり過ごした。
上がってきたクレイゴーレムは野菜を持っていなかった。
そして、
(この下から人の気配がする。誰か捕まっているのかもしれないな)
俺は囁くように言った。
そして、地下へと降りていき、その匂いに俺は思わず鼻を摘んだ。
カビ臭い。
と思ったら、原因はすぐにわかった。カビパンだ。
カビの生えたパンが階段の下に放置されていた。しかも大量に。
こんなもの食べたら間違いなく腹を壊す。
呼吸をするたびにカビの匂いが肺に入ってきて、
「ごほっ」
俺は思わずむせてしまった。
そのときだ。
「誰かいるの?」
女の子の声が聞こえた。
どうやら、誰かが捕まっているのは間違いないようだ。
こんな劣悪な環境、俺が来るのが遅かったら、間違いなく死んでいただろう。
そう思い、俺はカビに負けずに地下の空間へとたどり着いた。
そこには女の子が一人、捕まっていた。
可愛い茶色い髪の女の子だが、下半身を土に埋められているだけではなく、両手首を手枷で固定されていた。
そして、クレイゴーレムが彼女の口にカビの生えたパンを持っていこうとしていた。
「やめろ! そんなもの食わせるな」
俺はそういって、クレイゴーレムからカビパンを取り上げて、階段の下に投げつけた。
「安心しろ、今助けるからな」
少女はうつろな瞳でこちらを見てきた。意識がだいぶ混濁しているようだ。
とりあえず、手枷ははずすとして、土をどうやってどけようか。
この土、鉄みたいにカチカチになっている。
俺の力ならなんとかなるかな。
そう思ったときだ。
「バカな……」
レイシアが目を見開き、こう言った。
「何故だ。何故神子アンジェラがこのような姿でここにいる?」
「え?」
神子アンジェラ?
この子が……土の神子?




