ルシルと料理
~前回のあらすじ~
クリス達は船に乗ってダークシルドを目指している。
「あぁ、数が多いな、チクショウ!」
クレイゴーレムは蹴り飛ばしても蹴り飛ばしても減ることはない。
それにしても妙だ。
クレイゴーレムの行動に本当に一貫性がない。
俺を見つけても襲ってくることもないし、ただうろうろしているだけのようだ。
もしかしたら、国境に来たクレイゴーレムはフレアランドを攻めるために来たのではなく、ただ目指した場所がたまたまフレアランドだっただけなのかもしれない。
「こんなに適当にうろついていたら、精霊の湖までゴーレムが行ってしまうんじゃないか?」
「それはない。精霊の湖を囲う森は魔の物を封じる森だ。ゴーレムがその森に入れば立ちどころにただの土塊に変わってしまうだろう」
「あの森ってそんな凄い森だったのか」
「それより、カガミ、私を下ろせ! 私も戦う!」
「いいからお前はそうしてろ! こいつらとは戦っても無駄だってわかっただろ」
言うなれば、こいつらは無限に増殖する働き蟻だ。
働き蟻を増やさないようにするには女王蟻を叩くしかない。
「これじゃ休憩もできないからな」
途中で町を見つけたが、町の中はもぬけの殻。
人の気配はまるでない。
死体は存在しないし血の跡もない。
ここに住んでいた人が実はクレイゴーレムの材料だった、なんてこともなさそうだ。
扉の鍵は全部閉じられているし、荒らされている様子もない。
窓から中を見たら、価値のありそうな家財道具は持ちだされているようだし、クレイゴーレムが来る前に逃げたんだろう。
となれば、このクレイゴーレムの増殖は、アースチャイルドの上層部は最初から知っていた。
戦略だったわけか。
商店らしい建物の、平らな屋根の上から周囲の様子を窺っていた。
探りを入れていた。
別に探すものはないけれど。というか、何を探したらいいかわからないのに、探していた。
考えてみれば、フレアランドに入ってから、行動ばかりで考えるという作業を放棄していた気がするから、あえてここで考える。考えてみれば考える結論に至る。
クレイゴーレムは町を壊そうとする様子はない。
町を襲わないように命令されているのか? それとも、町を襲う必要性を見いだせないのか。
さっき通った畑はクレイゴーレムが通った場所が踏み荒らされていたが。
「聖都は遠いのか?」
「それを聞くなら私を下ろせ」
「ああ、下りれば?」
「カガミがそうしていたら私は降りれん」
それもそうだ。お姫様抱っこって、背負ったり、肩車している時と違い、主導権は抱いている側にあるわけだからな。
レイシアを屋根の上に立たせる。
レイシアは腰に吊るしていた布袋から、一枚の紙切れを取り出した。
地図のようだ。
ただし、かなり不明瞭。
日本の地図と比べたらいけないのはわかっているが、子供の落書きといい勝負だ。
レイシアは地図を睨みつけ、指をなぞっていく。
始点は国境砦だろう。
「今は、このゴリラスという町だな」
「学名ゴリラゴリラゴリラの霊長類か、もしくはカーナビっぽい名前だな」
「かーなび?」
「いや、こっちの話だ――それで、聖都は?」
「聖都はここだ。全行程の三分の一といったところだな」
結構走ったと思ったが、まだ三分の一か。
「とりあえず、飯にするか」
俺はアイテムバッグの中に何か食べ物がないか見てみた。
「レイシアは何がいい?」
「そうだな。カガミの飯はなんでも美味しいが、魚料理があればそれを食べたいものだ」
「魚か……待ってろよ」
魚料理魚料理。
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アジフライ【料理】 レア:★★
アジを3枚に下ろし、溶き卵とパン粉をつけて揚げた料理。
レモン汁をかけてさっぱり食べたい。
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この鑑定結果の説明文を考えた人はレモン汁派か。俺はマヨネーズ醤油派だな。
皿と一緒にアジフライが出てきた。
「魚の揚げ物か」
「あぁ、アジフライって言うんだ。食べてみろよ」
アイテムバッグの中には醤油とマヨネーズもきっちり入っていたので、マヨネーズ醤油で食べた。
レイシアは初めてなので、レモン汁を勧めた。
「さくさくしていて美味しいな。まさか、このような場所で揚げたての料理を食べられるとは思わなかった。これもカガミが作ったのか?」
「いや、これを作ったのは……」
――誰なんだ?
今まではルシルが作ったと盲目的に信じていた。
だが、俺には半年間の記憶がない。
ならば、ルシルとは違う、別の誰かが作った可能性がある。
それこそ、俺が作った料理かもしれない。
「……試してみるか」
俺はアイテムバッグに手を入れて、念じた。
ルシルが作った料理よ出て来いと。
【やめろ! 今のお前の手に負える相手じゃない!】
急に俺の声が聞こえ、俺は驚きアイテムバッグから手を出した――その手にはランチバッグが握られていた。
今の声は――俺?
記憶のある俺か?
一体、どうしてこのタイミングで?
そう思った時、ランチバッグの留め金が壊れていたのか、容器側が落ちるように開き――その中からそいつが飛び出した。
匂いはハンバーグの謎のスライムのような何かが。
そして、そのスライムのような何かは俺の口を目掛けて入っていった。
と同時に、体から自由が失われた。
「カガミ! なんだ、今のは! カガミ、しっかりしろ!」
しっかりできるわけない……身体がやばい。
身体がだんだん固くなってきた。
そして、俺の意識は闇へと沈んでいった。
※※※
闇の中、俺の中に流れ込んできたのは映像だった。
俺が見ていた映像だった。
その映像には、銀色の髪、ツインテールの少女がいた。
【だって、コーマは私の初めての部下なのよ! 部下との約束を守れないなんて最悪じゃない!】
ルシルが泣いている。俺はルシルの部下だったのか?
【一人くらいいてもいいと思うわよ、優しい魔王ってのも】
優しい魔王?
魔王ってルシルの親だったよな。
確か、ルシルは大魔王の娘って名乗ってたし。
【コーマが帰ってくるまでに、薬草汁でも作ってあげようかなぁって思って】
【コーマのためにさっきおかゆ作ったの】
【せっかくコーマのためにサンドウィッチを作ったのに】
【コーマ、私、もっと頑張るわね! 料理!】
……料理を俺に食べさせようとしているルシルの映像がいっぱい浮かんできた。
これは走馬燈なのだろうか?
【絶対に……絶対に死なないでね】
泣きながら俺に懇願するルシルの顏に、俺は――
【コーマの ためのスライムハンバーグ、ゴーレム風味! 爆発魔法を込めて】
※※※
「ハンバーグかよっ!」
俺は思わず起き上がっていた。
「カガミ、無事だったか。薬が効いたようだな」
「……レイシア、俺、どのくらい寝ていた?」
「30分ほどだ。ずっとうなされていた」
「そうか……」
何か、夢を見ていた気がする。
とても懐かしい夢だ。
だが、どうも夢の内容が思い出せない。
ハンバーグがキーワードであることは間違いないんだが。
「カガミ、どうした?」
「……いや……うん、もう大丈夫だ」
空になったランチバッグを見て、俺は嘆息を漏らす。
料理を出したつもりが、変な化け物を召喚してしまったようだ。
……それにしても。
何故だろう、記憶にないはずのルシルの笑顔が俺の頭から離れない。
彼女は俺にとって、大事な人だったのだろうか?
「なぁ、レイシア。俺、さっきから一人の女の子のことが頭から離れないんだが、どうしたらいいんだと思う?」
「……そんなこと、私に聞かれても困るぞ」
「……だよな、忘れてくれ」
俺が頼むと、レイシアは「わかった」と小さく呟いた。
だが、レイシアは「ちなみに、その女の子とは誰なんだ?」と尋ねてきた。
全然忘れていないじゃないか。
「まぁ、なんだろうな。本当に気にしないでくれ。結ばれるわけないし」
「カガミにしては弱気な発言だな」
「しょうがないよ。なんていうかな、身分の差みたいなものがあるしさ」
魔王の娘と一般人だからな。身分の差というよりかは種族の差のほうが大きいか。
それに、年齢の差もあるし、俺が本当にルシルのことを好きなのかもいまいちはっきりとしない。
「……身分の差?」
「あぁ、決定的なほどの差だな」
「カガミ、一つだけ言っておく」
レイシアは何か決意したように言った。
「神子は結婚相手を自由に決めることが――いや、なんでもない。忘れてくれ」
「ん? あぁ、忘れるよ」
レイシアの結婚相手か。はは、絶対に尻に敷かれるな、そいつ。
でも、レイシアはレイシアなりに、身分の差なんて気にせずアタックしろって言ってくれてるのかな。
「とりあえず、聖都を目指すか。答えは全部終わってからだな」
「あぁ、行こう、カガミよ」
俺はレイシアを抱きかかえ、さらに前にと進んでいった。




