リーリウム王国の晩餐とサイルマルからの手紙
~前回のあらすじ~
女王狂喜乱舞。
食堂に案内された私達の前には、スープが並んでいました。
おいしそうなスープです。
前に食べたときのような貧乏料理ではなく、一流のシェフが作ったようなスープです。
「シェフが賄い用に作っていたスープですが、味は確かです。お召し上がりください」
イシズさんに勧められ、私たちはスプーンでスープを掬い、口へと運びました。
豆ベースのスープですが、本当に美味しいです。
横目でエリエールさんとルシルちゃんを見ると、二人はまるでそれが当然かという感じに、上品にスープを飲んでいました。私も、子供のころはお母さんから宮廷作法を教わったのですが、全く身についていないようです。
コメットちゃんはルシルちゃんを見て、それに倣って食べようとしているようです。
逆にタラくんはマイペースにスープを飲んでいました。
「ところで、クリスティーナ様、今日はどのような御用ですか?」
「西大陸に渡りたいので、リーリエちゃんの力を借りようと思ってきたんですが」
「西大陸に? あちらは今は戦争状態で、とても危険ですよ」
「え?」
西大陸は百年以上休戦状態が続いていて、私が子供のころは、このまま停戦するのではと言われていたんですが。
戦争――始まっちゃったんですか。
「そのため、フレアランド、アースチャイルド、アークラーンへの貿易船は前回入港できない状態になっておりまして、現在はダークシルドのみにしか船を出せない状態になっています」
「ダークシルド……闇ですか……あのお婆ちゃん神子の国ですね」
一度、遠くから見たことがあります。とても優しそうな顔をしたお婆ちゃんだったと記憶しています。
「いえ、ピニエ様は昨年お亡くなりになり、今はアイス様が神子をなさっています。若干10歳にして神子になられた才女ですね」
「亡くなったんですか……」
結構な高齢だったから、亡くなっていても不思議じゃないと思っていましたが。
でも、やっぱり残念です。
「もしかして、戦争が起こったきっかけはそのアイス様が?」
「いえ、フレアランドとウィンドポーンとウォーターポリスとアースチャイルドの四国が手を組んで、アークラーンとダークシルドを挟み撃ちにしようとしたのがきっかけのようです」
……あぁ、レイシアちゃんがきっかけの一つなんですね。彼女は昔から喧嘩っ早かったですからね。
でも、できれば戦争はしてほしくなかったです。
「あれ? じゃあ、闇に行くのは危険じゃないんですか?」
「本来はそうですが、ダークシルドからの情報によると、魔の森を封鎖し、ウォーターポリスだけに対応するようにしたそうです。ウォーターポリスだけを相手にするのなら、ダークシルドは負けませんからむしろ治安は安定しています」
「魔の森の賢者の道を壊したんですか!? そんなことをしたら、ダークエルフを敵に回すことになるのに」
ダークエルフは火と闇の精霊を信仰するエルフ族の亜種族です。
水と光の精霊を信仰するエルフ族とは仲が悪く、はるか昔にエルフの森の中で起こった戦いにより東大陸を追放され、行き場を失ったダークエルフは西大陸に渡り、当時西大陸に住んでいた賢者プレガーレに案内され、魔の森の一角を魔物が寄らない聖地へと作り替えたそうなんです。
魔の森の奥地にはそこにしか生えない薬草類が多数あり、ダークエルフはその薬草を売って歩いています。
そのため、賢者の道もまた、ダークエルフにとっては神聖なもの。
そこを軍隊が通るだけならまだしも、破壊するなどもってのほかのはずなのに。
私が考えていると、イシズさんの元に従者の一人が着て、何かを耳打ちしました。
そして、従者の人が去った後、イシズさんは私達を見て、
「船は明日出航するそうです。馬車の用意もできていますからお急ぎください」
「え? リーリエちゃんに挨拶はしなくてもいいんですか?」
「今ならクリスティーナ様の幻だったと言えば大丈夫できます。いつも夜になると謁見の間で鼻血を出して倒れていますから」
それは絶対に大丈夫じゃないと思うんですが。
ですが、確かにリーリエちゃんにもう一度会っても鼻血でお城を汚すだけですし、このままにしておきましょう。
私達はイシズさんに礼を言うと、リーリウム王国を後にしました。
※※※
クリスティーナ様が去ってから1時間後、リーリエ陛下が目を覚ましました。
「イシズ……私、とても幸せな夢を見たの。突然お姉さまが私の前に現れて――」
「陛下――今はそれどころではないのは知っていますよね」
「……ほんの1時間寝ただけじゃないの」
陛下はそう言ってそっぽを向いた。
その1時間が今はどれだけ貴重か。そして、意味のないものか。
「それにしても、驚いたわね。お姉さまと一緒にいたあの害虫も魔王だったなんて」
「ええ……冒険者ギルドマスターが魔王であることは既に掴んでいましたが……」
「この大陸の中で魔王の存在を認知している国が、18ヵ国中13ヵ国、しかも内12ヵ国が大なり小なり魔王の恩恵を受けているとは……」
「うちも、初代国王が魔王になっていた。そして、今も魔王の一人を匿っているなんて知られたら大変よ……一体、何を考えているのかしら、あの魔王は……」
陛下はそう呟き、サイルマル国王からの手紙をもう一度見てため息をつきました。ゴブリン王の復活の予言が外れて喜んでいる暇など、私達には残されていませんでした。




