聖都と土の神子
~前回のあらすじ~
クレイゴーレム大発生継続。
彼女から溢れ出た炎が人の形を取った。
これは、シルフィアがスウィートポテトを食べた時と同じ現象だ。
炎を纏った小さな男の子の姿だな。というより小人だ。
「お前がサランか」
『ちょっと待て、調べないといけないからな』
ライより偉そうな精霊だな。
まぁ、本当に偉いんだけど。この世界だと、神の次に偉いと言われているそうだし。
それで、一体、何を調べてるんだ?
てか、手伝ってくれないのかよ、さっきからクレイゴーレムがひっきりなしに襲ってきてるから、肉体的には疲れは全然ないが、精神的には結構疲れてきているんだけど。
なんだろ、ルーチンワークっていうのかな。ずっとやっていると本当に精神的に参ってしまう。
このままだと、映画の中でネジを締め続けたことに発狂した喜劇王ように、俺も発狂してしまうぞ。
まぁ、こんなことを考えているうちは発狂できないだろうが。
横を見るとサクヤは「9091、9092、9093」と数えながらゴーレムを切り倒していた。
うん、もうすぐ万夫不当の英雄になれそうだな。
俺は3000を超えたときから数えるのをやめた。
『クレイゴーレムはどうもアースチャイルドの聖都から湧き出ているようだ』
突如、サランがそんなことを言った。
「聖都から!? 聖都ってここからどのくらいあるんだ?」
『湖からここまでの距離と変わらない』
ということは丸一日走った距離か。
ウソだろ、その距離をずっとクレイゴーレムが縦断しているのか?
一体、何体……いや、何千、何万……何千万もクレイゴーレムがいるんだ?
「人は? 町だってあるだろ?」
「そうか……私としたことが迂闊だった。というか、なんで気付かなかったんだ」
サクヤが後悔するように叫んだ。
「どういうことだ?」
「難民の数が多すぎた。戦争中に難民が出るのは、祖国が敗戦しそうなときだけだ。火と土と水と風は攻め込んでいる側、闇だって魔の森から攻められなくなった以上敗戦濃厚とは言い難い。光と火は同盟を結び、光から避難していた国民はほぼ全員国に戻ってきた。なら、湖にいたあの難民はどの国の者だったんだ?」
「……あれが全員土の国からの難民だったのか?」
「そうだろう。あらかじめ国民を避難させていた……彼らも自分達がなぜ避難をしているのか、その理由は知らないだろう」
サクヤが悔やんだように言った。
そのくらい気付いてくれよ、とは流石に言えない。
フレアランド、ウィンドポーンの両国と戦争をしていたんだ。
アースチャイルドの動向を調べるくらいなら先に両国の情報を集めるのが普通だ。
サランが消え、炎が――槍の炎が大きな火柱となり、レイシアの突きが一直線に北へと延びて言った。
その直線状にいた数百のクレイゴーレムが消し炭になった。
いや、土なんで消し炭になったなんて言えない――消し飛んだ。
そして、彼女は俺達を見て、
「カガミ、私は聖都に向かう。二人には国境を守ってもらいたい。礼は後でしよう」
そう言った。仁王立ちして。
「馬鹿言え、一人で何ができるっていうんだ」
「一人ではない、私にはサランがついている」
こいつは本気だ。
本気で一人でいくつもりだ。
本当に何を考えているんだよ。
「俺もついているってことを忘れるな」
俺はレイシアにヒザかっくんしてバランスを崩させると、そのままお姫様抱っこした。
「第一、聖都まで普通に走ったら一日もかかるんだろ? こんなところで一日も待ってられるか」
俺はお姫様だっこしたまま、サクヤに、先ほどのウォーターボムをアイテムバッグから出して軽く投げ渡した。
「サクヤ、さっきの水爆弾だ。留め金を抜いたら10秒後破裂する。使うときは気を付けろよ!」
「こんな物騒なものを投げるな! あぁ、コーマ、必ず帰ってくるんだぞ。本当は私も行きたいが、貴様の全力についていけんからな」
「あぁ、悪いな、シルフィアの命令で来てもらったのに、命令無視させる形になっちまって」
「気にするな」
よし、じゃあ行きますか。
俺はレイシアを抱きかかえたまま、前に跳んだ。
「レイシア、スピードを上げていく、無理だと思ったら右手を上げろ!」
まるで歯医者の「痛かったら手をあげてねぇ」みたいなことをレイシアに言う。
俺の言い方に、レイシアは少しむっとした感じで、
「死んでも上げん」
と言う。いや、絶対に死ぬなよ。
お前を生かすために俺も前に行くんだからな。
※※※
アースチャイルドの聖都・ストラキス。
だが、そこを聖都と呼ぶ人はここにはアル以外誰もいない。
『アルジェラ、ごめん、パンは全部カビが生えてた……』
クレイゴーレムがカビの生えているパンを持ってきた。
緑色の黴がパンの半分を覆っていて、別の食べ物のように見える。
「……大丈夫、アルジェラは……神子は毒じゃ死なない」
そう言って、アルは口を開けた。
アルの希望に応えるように、クレイゴーレムが黴の生えたパンをアルの口に差し出す。
アルは首を前に出し、カビパンを食べた。
別に変な味はしない。クレイゴーレムの手で運ばれてきたから泥がついていて、口の中に残る。
水を持ってきてもらい、強引に全部飲み込んだ。
ここには、アルとクレイゴーレム、そして土の精霊クレイ以外誰もいない。
アルのお城――最後にここに来たグルースはそう言った。
いつものように優しい顔でアルの頭を撫で、そして去って行った。
『アルジェラ……本当にいいの?』
クレイが問う。
『私の力ならその戒めを――』
「大丈夫。グルースがここから動くなって言った。だからアルは動かない」
アルはここから動かない。
動いたら、アルは神子じゃなくなるから。
だから、クレイも動けない。
クレイは動けない。
アルが神子だから、クレイはアルの言うことを聞いてくれる。
一番偉いはずの精霊が、アルの言うことを聞いてくれる。
それが不思議でしかたない。
「……アルは、またグルースに褒めてもらいたいから」
アルは笑ってそう言った。




