動き出す土
~前回のあらすじ~
謎の少女に会った。
「それにしても、本当になんでもあるんだな……」
大聖殿の中を散策していたら、本屋を見つけた。
気になったので入りたいと思ったのだが、レイシアは「本を見ると目眩がする」と、キャラ的に相応しい台詞を言った。サクヤは情報を集めるために大聖殿の中を見て回ると言ったので、俺とシルフィアだけが本屋に入った。
「本って貴重なんじゃないのか?」
「貴重な品ですね。本当なら多くの人に本を読んでもらいたいです。製紙用の魔道具がもう少しあればいいんですがね――」
「活版印刷とかはないのか?」
「活版印刷?」
あぁ、そこから説明しないといけないのか。
当然だよな。
「判子ってあるよな」
見本を見せようと、判子がないかアイテムバッグを漁ったら、立派な判子が出てきた。
象牙を削ったんじゃないだろうか? と思うような判子だ。
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ミノタウロスの角判子【雑貨】 レア:★★★
ミノタウロスの角を削って作った判子。
高級品を求めるあなたのために。
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まさかのミノタウロス!?
俺の判子なのだろうか? と文字盤を見たら、「牛」と書かれていた。もちろん左右反転している状態で。
しかも、日本語で。
俺はどういうわけかしらないが、この世界の文字が読める。
だからといって、日本語を忘れたわけではない。
まさか、久しぶりに見る日本語が「牛」だとは思わなかった。なんで牛なんだ?
使用目的の判子というよりかは、まるで作ることが目的で作られたような判子だな。気のせいだろうが。
とりあえず、印肉や紙もアイテムバッグの中に入っていたので、シルフィアに見えるように判子を押した。
「変な模様だが、こういう風に、削ってあるものにインクをつけて紙に記せるだろ? この判子の文字を組み合わせを変えることで本を作っていく技術だ」
「なるほど……判子ですか。そういえば、サクヤに芋判というものを見せてもらいましたが、あれを用意したらいいのですね」
「……芋判って」
今時年賀状でも見ないものを。
小学校のころ、消しゴムと彫刻刀で判子を作ったのを思い出すな。
火神って、「神」の「申」の部分が細かくて大変なんだよな。
「そうだなぁ、作るとしたらオーガの角あたりがいいんじゃないかな」
材質も象牙に似ているっぽいし、できるんじゃないかな?
「オーガの角ですか、そうなるとかなり高くなりそうですね」
「え? オーガの角って高いの?」
「はい、薬や細工品の材料になりますし」
あぁ、そこは象牙と一緒か。
象牙もチェスの駒とかに使われたりしてとても高いもんな。
そのせいで密猟されて多くの象が殺されているという。
そう思うと、オーガも可哀そうな魔物なのかな。
「それ以前に、オーガに近付けばほとんどの人は殺されてしまいますから」
同情するもんじゃない。
どう考えても人間目線は害獣じゃないか。
まぁ、だから魔物なんだろうが。
「作ろうと思ったら木や金属でも作れるはずだが」
「そうですか……面白そうですね。一度ドワーフのみなさんにも相談してみましょうか」
「ドワーフって、そういうの作れるのか?」
武器とかを作るイメージはあるが、細かい作業は苦手そうな気がする。
「何かを作るのが好きな方々ですから」
「そっか。本が普及したらいろいろとできることも多そうだな」
鍛冶ノススメや錬金術ノススメ、細工ノススメ、裁縫ノススメといった、「ノススメ」シリーズに興味を持った。福沢諭吉先生のようなネーミングセンスだ。
料理ノススメもあるが、ただの料理本っぽいから買わなかった。
あと、気になった植物図鑑や鉱石図鑑なども買っておく。
錬金術をするなら、鉱石や植物の群生地などについても知っておきたいと思ったから。
合計で銀貨80枚で購入。
金貨を使い、銀貨20枚返ってきた。
「コーマ様、錬金術や鍛冶をなさるのですか?」
俺の買った本のラインナップを見て、シルフィアが訊ねた。
「んー、できるかわからないけど、スキルがあるみたいだからな」
「そうなのですか、多才なのですね」
うん、自分でも驚くほど多才だ。
器用貧乏ではなく、器用富豪という新たな四字熟語を作りたくなるくらい、多くの才能に秀でていると思われる。
少なくとも料理の才能は秀ですぎている。
「それでしたら、ドワーフ自治領で鍛冶師について学んではいかがでしょう?」
「それもいいかもな。へぇ、絵本もあるのか……」
ゴブリン王物語か。
ゴブリンの王って、中ボスっぽい名前だなぁ。
買うものも買ったし、
「シルフィア、何見てるんだ?」
「え?」
「……コラミナル旅行記?」
「はい、旅行者コラミナルが旅の間綴った記録を書いている本です。挿絵などもあるんですが、直筆の本はとても珍しくてつい」
「へぇ、直筆なのか」
気になって値段を見てみた。
値段は……金貨30枚!?
3000万円かよ、
まぁ、有名漫画家の生原稿が数十万円の値段で取引されるのは日本でもよくあることだし、そう考えると普通なのか。
ここで、ぱっとお金を出してプレゼントできたらかっこいいんだが、絶対にシルフィアはそういうのは遠慮して困るタイプだしなぁ。
「神子になってから、一度だけ国の外に巡礼の旅に出たことはありますが、自由に城から出られませんので、旅行記とか好きなんですよ。本当に世界中を歩いているみたいで。もっとも、いつ他国が攻め込んでくるかわからないこの状況で旅なんてできませんが」
「そうなんだ……」
そっか。
旅行記が好きなのにはそんな理由があったのか。
「俺がプレゼントしてやろうか?」
「え? あ、いえ、この本は高いですし、そのようなお金があったら、湖の周りにいる人のための食糧を――」
「自由に旅をしたいんだろ? だったら、俺が戦争を終わらせてやるよ。六つの国、全部と同盟を結んで、平和な世界を作ってみようぜ。それなら、シルフィアももっと自由に世界中を移動できるんじゃないか?」
「……そうですね。そんな世界が来たらどれだけ嬉しいか」
シルフィアは笑顔で言うと、首を横に振った。
「それを作るのはコーマ様でもなければ私でもありません。私達全員で成し遂げないと意味がありません。協力してくださいますか?」
「あぁ、もちろんだよ」
俺がそう言った時、サクヤが急に現れた。
ぐっ、天然の女たらしと言われてしまう――そう思ったが、それどころではなかった。
「大変です、シルフィア様、土――アースチャイルドがフレアランドに侵攻しました」
……!?
「そんな、アースチャイルドはアクアポリスとともにダークシルドを攻めていたのではないのですか?」
火と風が光を攻めている間に、土と水が闇を攻める。
そういう取り決めになっていると語っていた。
なんで、土は挟み撃ちできるチャンスを棒に振り、火を攻めたんだ?
「それが、闇は魔の森の賢者の道を破壊、土から闇への侵攻が不可能になったとのことです」
「賢者の道を……そんな」
「――説明!? 頼む!」
俺の懇願に、サクヤが言う。魔の森はダークエルフ自治領がある他、多くの魔物が住む森である。
ダークエルフ自治領以外に一歩でも踏み入れば、すぐに魔物に襲われてしまう危険な場所らしい。
だが、かつて一人の賢者が光の魔法を使い、魔物が通れない道を作り出した。
それが賢者の道だ。
賢者の道はどこかに隠された魔道具によって管理されていたらしいが、ダークシルドがそれを発見していて、破壊した。
そのため、アースチャイルドは闇に攻め込むことが不可能になったのだが、それと同時に後顧の憂いがなくなり、フレアランドに急襲したということだ。
「レイシアは!?」
「伝えました。走って聖竜の元へ」
「わかった、俺も行く! 二人はアークラーンに戻って援軍の準備を――ただし、風に攻められても平気なようにな」
「わかりました――サクヤ、あなたはコーマ様とともに行きなさい!」
「しかし、シルフィア様」
「サクヤ、コーマ様はアークラーンになくてはならない方です。貴女にコーマ様の護衛を命じます」
「かしこまりました――」
サクヤが俺とともについてきた。
俺は走りながら考えていた。
さっき本殿の前で会った少女。
【闇は森の光を飲み込み】
彼女はそう言った。
森の光が賢者の道だというのなら、彼女はその情報を知っていたのか?
ならば、
【土はまだ動かない】
これは間違っているじゃないか。土が動いているじゃないか。
彼女は適当に言っただけかもしれないが、どうも気になった。




