聖地と干し芋
~前回のあらすじ~
メイベルとコメットちゃんが話し合った。
教会の本部。
湖の上に浮かぶ大聖堂……イメージ的にはモンサンミッシェルだったんだけどな――あっちは湖じゃなくて海だけど。
「流石異世界――なんでもありだな」
まさか、湖の上に、ほんとうに浮かんでいるとは――てか、空を飛んでいるとは思いもしなかった。
「ラ○ュタは本当にあったんだ!」とか言いたくなる――いや、むしろ「バ○ス」と言いたくなる。
飛○石のペンダントでもないかと思ってアイテムバッグを漁ったが、残念ながらアイテムバッグもそこまで万能ではないようで、空を掴んだだけで何もでてこなかった。空を飛ぶ大聖堂だから、空を掴んだと思えば洒落も利いているか。
「にしても凄い人だな」
湖の周囲には多くの人がごった返していた。まるで元日の神社の境内だ。
「1割は観光客、9割な戦争難民といったところか……」
「戦争難民……あぁ、そうか、火と光の戦争は終わったけど、まだ他のところでは戦争してるんだったよな」
確かに、観光客というには、家財道具まで持っている人もいるからな。
教会は絶対的な力を持つが、中立的な立場を絶対に崩すことはないという。
湖の周りは教会の領地――聖地であるため戦争から逃げた人がここに集まってきたってわけか。
そんな状況でも観光客が来るのも、聖地たる所以か。
「じゃあ、教会の中も難民でいっぱいだろうな」
「それはない。大聖堂の中は選ばれたものしか入れない。大聖堂の中に入れるのは、司祭以上の役職の方々と神子様、そして神子様の付き添い一名のみとなっている」
「じゃあ、サクヤはシルフィアと一緒に入るのか?」
「そう伺っている」
「じゃあ、俺は留守番だな」
まぁ、堅苦しい雰囲気とか好きじゃないし、素直に観光気分でも味合わせてもらうか。
店とかも普通にあるしな。
って、俺、金持ってるのか?
ここに来るまで、全くお金を使う必要性がなかったから考えていなかったが。
さっきは無茶振りしてしまったからな。
お金よ、お金、出て来い!
ゴー○ドで、○ルでも、ガ○ドでもいい、金貨出て来い!
そう思い、アイテムバッグの中に突っ込んだ。
すると、大きな皮袋が出てきた。そこそこ大きいな。
これが財布なのか? と思って中を覗くと、おぉ、いっぱい金貨が詰まっている。
1000枚はあるかな。1000ゴー○ドか、「せいどうのよろい」くらい買えそうだ……なんてな、ドラ○エネタばかりしているが、金貨って日本で言うところの小判みたいなものだからな、そこそこ価値はあるだろう。
1枚1万円くらいだとしたら、1000万……は流石に多いか、500万円くらいかな。
とすれば1枚5000円くらいか……とりあえず皮袋から金貨1枚だけを取り出して、残りをアイテムバッグにしまい、
「サクヤ、金貨1枚でどれだけ食べれるんだ?」
「……コーマ、金貨しか持っていないのか?」
「……まずいか?」
「金貨1枚といえば、アークランドでは新兵の給与の半年分、3年以上働いている兵の3ヶ月分、将軍の給料1ヶ月分相当だ。とてもではないが、こんな場所で無暗に出すべき貨幣じゃないぞ」
「……あぁ、そうなのか……ええと、新兵の給料ってどのくらいなんだ?」
「銀貨16枚だ。安いとは思うが、食事と装備は支給されるからな」
銀貨100枚が金貨1枚といったところか。
……銀貨1枚1万円くらい?
てことは、金貨1000枚って……10億円?
ルシル、やりすぎだろ。絶対まともな手段で手に入れた金じゃないよな?
通貨偽造とかじゃないだろうな?
それとも、俺の記憶のない半年間に稼いだのか?
半年で10億円? はは、んなの無理に決まってるだろ。
えっと、銀貨、銀貨はあるか?
アイテムバッグを漁ると、さっきよりも大きな皮袋に詰まった銀貨が出てきた。
これだけでも2000万円はあるんじゃないか?
とりあえず、銀貨10枚だけ出して残りはアイテムバッグにしまった。
「サクヤ、暇だし何か軽い飯でも食べに行かないか?」
「腹が減ったのか? さっき干し芋の店があったから少々補充しておいたのだが、食べるか?」
「……サクヤ、干し芋が好きなのか? 貰うけど」
「うむ、好物だ」
サクヤはそう言うと、マスクをとって、小さな口で干し芋を齧った。
表情からは読み取れないが、本当に好物なんだろうな。
「単純に味だけだと、コーマの作った“すいーとぽてと”のほうが美味ではあるが、干し芋は私にとっては忠義の品でもあるからな」
「そうか……」
俺も干し芋をかじってみる。最初は味気ないように感じるが、噛んでいると僅かな甘みが口の中に広がっていく。
確かに、コンビニもなく甘みの菓子の少ないだろうこの世界では、癖になるかもしれないな。
「話を聞かないのか?」
「うん、あまり興味ない」
「失礼だな……とはいえ、私も話そうとは思わないがな」
二人で座って仲良く干し芋を食べる。
俺は訊ねることにした。
「シグレって、姉ちゃんなのか?」
「……そっちは興味があるのか?」
「俺の記憶に関することだからな。できることなら会って話したいくらいだ」
「そうか……だが、私はシグレと会えば殺し合いの戦いになるのは目に見えている。できれば彼女には私の存在は知られたくないものだ」
「一体、何をしたんだ?」
俺が訊ねると、サクヤは自嘲気味に笑い、干し芋を齧った。
「忍びの里を抜けた……忠義を貫くために」
「抜け忍ってやつか」
「知っているのか?」
「話には聞いていた」
忍びには、門外不出の秘術というものがある。それだけではない、闇の仕事を請け負う忍者が持つ情報というのは、下手したら一国が亡びるかもしれない恐ろしいものだ。
それが他の人間に知られるというのは忍びにとっては絶対にあってはならない。
だから、忍びは自らの里から抜けることを絶対に許さない、そう聞いたことがある。主に漫画で。
「じゃあ、シグレを探すのはやめた方がいいか」
「そうしてもらえると助かる」
「となると、残りの手がかりはメイベルとクリス……」
俺はこの二人に手紙を送れないでいた。
俺が言った二人、知らない俺を知っているであろう二人。
半年間の俺を知るには二人の手が必要だともいえる。
だが、それ以上に、俺は信じられないでいた。
自分自身を。
いつの間にか戦争を終わらせていた俺自身を。
誰も傷つけず、二つの国を和平に持って行った、まるで俺ではないような俺を。
「お互い、大変だな」
「ああ、大変だからこそ、今はできることをするしかないのだ」
「……だな」
干し芋を齧り終え、もう一つ貰おうかと思ったら、彼女は干し芋を包んでいた笹の包みを自らの懐にしまい込んでいた。
……ちょっと物足りないな。
そう思った時だった。
周りからどよめきが聞こえてきた。
「神子様だ――」
「シルフィア様とレイシア様だ――」
声が聞こえてきた。
やってきたのは、まるでビキニのような、踊り子のような衣装のシルフィアとレイシアがやってきた。
あれが神子としての正装なんだそうだ。
恥ずかしそうにしているシルフィアと違い、レイシアは堂々としているな。まぁ、あいつは前からかなり露出している服を着ていたしな。
「カガミ、私達を見て何かいうことはないのか?」
「綺麗だよ。シルフィアも」
「からかわないでください、コーマ様」
からかっているつもりはないんだがな。本当に、天女が舞い降りたみたいだと思ったんだけどな。
まぁ、一人はガラの悪い天女だが。
「じゃ、俺はここで適当にぶらついているから」
「何言ってるのだ? カガミ、貴様も来るんだ」
「は?」
「私の付き人に貴様を指名しておいたからな」
大きなお世話だ。堅苦しいのは苦手なんだよ。
でも、こうなったらとことん楽しませてもらうか。
※前回のラスト、コーアをコーマに修正しました。
前回は最後の最後にコーアを登場させてしまってすみませんでした。
彼は作者の体調によってはどこかで登場するかもしれませんが、生暖かい目で見守ってください。




