メイベルとコメット
~前回のあらすじ~
クリスに何か考えが浮かんだ。
クリスさんは自分にできる何かに気付いたのか、「ルシルちゃんのところに行ってるから」と言い残すと、光の速さで店を去りました。
流石は閃光の二つ名を持っていることだけはあります。そして、エリエールさんも支店の準備があるからと店を出て、私とメイベルさんだけが残りました。
メイベルさんは私の横に立ち、
「コメットちゃん、背、縮んだんじゃない?」
自分の身長と比べてそう言いました。はい、メイベルさんの背は決して高くはなく、人間だったころは私より少し低いくらいだったんですが、今は断トツで私のほうが背が低いです。
「はい、ベースとなるグー……コボルトなんですけれど、グーの身体がコメットよりも幼かったんで、その影響が強く出ているみたいです」
「……そっか、コボルトと一緒になったって言ってたもんね。じゃあ、正確にはコメットちゃんじゃないのかな」
「そうですね、自分ではグーでもありコメットでもあるって感じなんですけれど……はは、やっぱり変ですよね」
普通に考えたら、私は半分魔物なのだ。コーマ様はそんなこと全く気にしていない様子だったし、クリスさんはそこまで考えが至っていない様子だった。でも、普通に考えたら受け入れるのは大変なことだと思う。
「そっか……コメットちゃん、ハッカ茶飲む?」
メイベルさんはそういうと、お湯の入ったポットを私に見せました。
「あ、私が淹れます」
「ううん、これは私の息抜き。気持ちの整理のための作業だから、私にやらせて」
メイベルさんはそういって、準備をしてきました。
そして、私にカップを出してお茶を淹れてくれます。
「……私、今でも混乱してるの。コメットちゃんが生きていたこともそうだし、コーマ様が行方不明になってることもそう。ううん、正直、コーマ様に買われてから私はずっと混乱していた。店が急に大きくなったことも、コーマ様がすごいアイテムをいっぱい仕入れてくれたことも、コメットちゃんが死んだ時も、急にクルト君やアンちゃんを店に連れてきたときも、私に何の相談もしないんだもの」
メイベルさんは愚痴っぽく言って、
「混乱しっぱなしで、だから私には前を進むしかなかった。後ろを振り返る余裕なんてなかった。コメットちゃんが死んだのに、次の週には新しい従業員をセバスさんから買っていたし、コーマ様が行方不明になったのに、今まで店を拡大する作業ばかりしていた。だって、前に進まないと、立ち止まってしまったら、私はきっと混乱に巻き込まれて動けなくなっちゃうから……ううん、そうじゃない、私が前に進むことで、コーマ様と同じように前に進んでいると思いたかったんだと思う。同じ場所になんていないのにね」
「……メイベルさん」
メイベルさんはずっと気付いていたんだ。
コーマ様が何かを隠していることも。そして、それは決して自分には打ち明けられない類のものであることも。
気付いていたから、気付いてしまったから、メイベルさんはコーマ様に訊ねる事はできない。拒絶される自分を見たくないから。
「コメットちゃん、あなたは今、私よりもコーマ様の横に居られる……それって、ものすごく羨ましいことだと思うの。だって、きっとコメットちゃんは私の知らないあの人のことをたくさん知っているんだろうから……私が知っていることなんて、精々コーマ様の好きなお茶が、このハッカ茶だってことくらい」
メイベルさんは物悲しそうにハッカ茶の入ったティーカップを見つめました。
そして、小さく笑みを浮かべると、声を出して笑い出しました。そして、握りこぶしを作って上を向く。
「なんてね、それでも、私はあの人の力になるって決めたの。横に立てなくても、正反対の方向に進もうと、絶対に無理やり力になるって決めたの。だから、コメットちゃん――」
メイベルさんは立ち上がると私の背に周り、やさしく包み込むように首筋に手をまわし、
「コメットちゃん、私にできる事があったら何でも言ってね……それと、コメットちゃんとまた会う事ができて、とてもうれしいよ……生きていてくれて、ありがとう」
「私もです、メイベルさん。私もメイベルさんにもう一度会えて、とてもうれしいです」
「他のみんなには会っていけないの?」
「ごめんなさい……本当はメイベルさんに会う事もコーマ様に止められていたので」
「そっか……だよね」
死んだ人が生きている、それがどれほど重大なことか、メイベルさんは理解できる人だ。
それ以上は何も言わない。
「私はコーマ様に任されたこの店を守らないといけないから、あの人のことはコメットちゃんにお願いするね」
「はい、メイベルさん……ありがとうございます」
私の涙が頬を伝い、メイベルさんの手に落ちて行きました。
私は今、とても幸せです。
でも、やっぱりこの幸せの中にコーマ様がいないといけません。
それは絶対です。
だから、絶対に――
「絶対に、コーマ様を見つけて、ここに連れて帰ってきます」
私は決意を新たに、メイベルさんにそう言いました。
すみません、メイベルとコメットの再会が流されすぎたと感想をもらい、
そういえば、確かに淡泊過ぎる、これはやばい!
と思っての追加分です。




