営業拡大とコネクション
~前回のあらすじ~
クリスがルルに頬ずりした。
フリーマーケットはいつも大盛況だったようです。
昼間は忙しいので、夜の閉店後にメイベルのところに向かいました。
閉店の2時間後は皆が食事をしている中、メイベルは一人で帳簿の管理をしていますから、ちょうどいいと思い、裏口から入りました。
コーマさんからの仕入れがなくなったので、以前ほどではありませんが、ラビスシティーで一番の雑貨店という点は変わりません。
特に、クルト君が作る薬と、ザードさんが鍛える剣は他の国からも買いに来るほどです。
なんでも、最近はクルト君が鉱石を錬金術でインゴットにしてからザードさんが武器を鍛える連携までしているとか。あと、二人でよくアンちゃんの面倒を見ていて、何故かザードさんがアンちゃんの学費を半分支払っています。クルト君は最初は遠慮していたのですが、ザードさんが、「一緒に住んでいる以上、僕の妹と言っても過言じゃないだろ?」と訳のわからない理屈を押し通したそうです。
なんでしょうか、とてもいい話のはずなのに、今すぐ自警団のみなさんに通報しないといけない気分になります。理由はわかりませんが。
兎も角、そんな感じのフリーマーケットですが、メイベルは元気がありません。
コーマさんが行方不明になり一週間ですから、仕方ありません。
「メイベル、ちょっと時間いいかな?」
「あ、クリスさん……はい、大丈夫ですよ」
私はここの従業員のみなさんを敬称略の名前だけで呼ぶのですが、皆は私のことを「さん」付けで呼びます。
なんでも、商売中に私のことを間違って呼び捨てで呼んでしまわないように、との処置らしいです。例えどんなに親しくても商売相手を呼び捨てで呼んでいるところを他のお客さんに見られたら商人としての沽券にかかわるとか。難しいことを言っていました。
丁寧語を使うのも同様の理由だそうです。できれば二人きりのときはもっと砕けた感じで話してほしいんですが。ちなみに、コメットちゃんのことも呼び捨てで呼んでいたんですが、皆が「ちゃん」付けで呼んでいたので、私もついついちゃん付けで呼ぶことになりました。
「あの、コメットちゃんのことなんですが」
「……あ、コメットちゃんの……」
メイベルの顔色が暗くなるのがわかります。コーマさんのせいでただでさえ暗いのに暗さの二倍です。
でも、流石は商売のプロ、すぐに笑みを浮かべます。
「コメットちゃんがどうしたんですか?」
「あ……ええと、直接会ってもらった方がいいと思うんですが……あの驚かないでくださいね……ていうのも無理かもしれないので、驚くのはいいですけれど、気絶しないでくださいね。入ってきていいよ」
私の前振りにメイベルは怪訝な顔をしたんですが、このくらい言っておかないと、幽霊が出たとかいって拝まれたら困りますからね。
私が許可を出すと、扉が開きます。
そして、そこから入ってきたコメットちゃんを見て、メイベルの目が点になりました。
メイベルは驚き、声も出ないようなので、コメットちゃんが先に口を開きました。
「えっと、お久しぶりです、メイベルさん」
「コメットちゃん、例のあれ、例のあれ」
「あ、そうでした。えっと、なーんちゃって、実は生きていました……って、これで本当にいいんですか?」
ルシルちゃんが、こう言ったら大抵は解決よって言ったんですが、メイベルは余計に混乱したようで、
「え? でも、え? だって、私、コメットちゃんの遺体が埋まるのを……あれ? なんか小さくなってるような、それに耳が……え?」
「あ、あの、コーマ様のおかげでなんとか生き返ってるんです」
「こ、コーマ様の?」
「はい、コーマ様のおかげで」
「コーマ様のおかげなら……納得……したらいいのかな」
混乱の極みだったメイベルが落ち着いていきます。
まぁ、コーマさんなら何をしてもおかしくない、というのが私達三人の共通の見解ですから。
「でも、今までどうしてたの?」
「えっと、コーマ様の仲間の人達と一緒に迷宮の地下で暮らしていました」
「もう……私にも言ってくれたらよかったのに」
「すみません、いろいろと事情があって……それで、コーマ様の居場所が西大陸のどこかだってことがわかったので――」
「わかったわ! 西大陸にフリマ支部を2店舗開店させて、情報収集させましょう!」
「えぇぇぇぇっ!?」
私は驚きました。
なんでいきなり店の開店になるんですか?
「前から支店の準備は進めていたのよ。来月にはこの大陸内に10店舗同時開店予定なのよ?」
「え、そんなの聞いてませんよ」
「はい、言ってませんから。先月、セバシさんと一緒に人材派遣会社を立ち上げて、奴隷から優秀な社員を教育しているのよ。それも一段落ついたから、早速実行。最初は大変だと思うけど、コーマ様に用意してもらったこのお店、世界中に名を轟かせるつもりですから」
「オーナーメイベル、サフラン雑貨店の昨日の帳簿を――あら、勇者クリスティーナ、いらしていましたの?」
「勇者エリエール様? どうしてここに?」
サフラン雑貨店はフリーマーケットのライバル店のはずなのに、そのライバル店のオーナーがここに帳簿を持ってくる理由が私にはわかりませんでした。
「……ちょっと私が用事をしている間に、サフラン雑貨店をフリーマーケットに乗っ取られてしまいましたの……一生の不覚ですわ」
なんでも、私達が地下迷宮に入っている間に全てを済ませたらしい。
フリーマーケットが臨時休業になっている間、暇だったから乗っ取ったそうだ。そんな衝動買い感覚で店を乗っ取るなんて。
「サフラン雑貨店の交易網は支店を広げるうえで絶対に必要ですから。もちろん、エリエールさんの実家とアイランブルグ王国はもろ手を挙げて賛成してくれましたよ。それに、エリエールさんには今まで通りサフラン雑貨店のオーナーとして活躍していただいていますし」
「まぁ、私といたしましては、雑貨店のオーナーは副業みたいなものですから、雑務が減って、しかも給料が増えたので喜ぶことばかりなのですが、やはり釈然としませんわ」
乗っ取りはどうやら、かなり平和的に行われたようだ。
従業員満足度も100%近いらしい。
「エリエールさん、コーマ様の手がかりが見つかったそうです。西大陸にいるそうです。もしよかったら、エリエールさんが西大陸に行きませんか? 支店長として」
「……それは魅力的な提案ですわね……わかりました、その大役、お受けいたしますわ。勇者クリスティーナ、貴女も力を貸しなさい」
「え、私に貸せる力なんて」
「何を言っているの。貴女には私にはないコネがあるではありませんか」
私にあるコネ?
「西大陸への交易が一番盛んな国は、リーリウム王国ではありませんか」
「あ……」
そうでした、すっかり忘れていました。
私にしかないコネクション……これがあれば、確かに西大陸に移動できそうです。
おかげさまで文字数75万文字突破しました。
1年後、この文章を読んでいる読者様、私は今何文字書いているでしょうか?
200万文字達成していたらいいなぁ、と思っています。
1年後、どんなストーリーになっているか、私には想像もできません。
でも、皆さんのブックマーク、評価がある限り、この作品は毎日更新を続けたいと思います。




