同盟と魔王城
~前回のあらすじ~
フレアランドとアークラーンが同盟を結ぶことになった。
その日、フレアランドとアークラーン、両国間の同盟協定が結ばれた。
「……これで同盟が結ばれ戦いは休戦……いや、休戦ではなく和平といったほうがいいのか」
同盟協定の書類にサインをしたレイシアは俺の用意した万年筆を放り投げてつまらなさそうに呟く。
「いえ、正式にはこの書類を教会に提出することで同盟締結となります」
アークラーンの代表であるシルフィアは、放り投げられた万年筆を受け止めたサクヤからそれを貰い、自らも書類にサインをする。
ちなみに、テーブルとイスは、食堂で使われていたそれらが使われている。
一字一字を丁寧に、強い意志を込めて書きこんでいく。
さらさらと流すように書いたレイシアとは正反対の丁寧さだ。どちらがいいとは言わないが。
「ふん、我々に同盟を反故する意図がない以上は同盟でよいだろうが。相変わらず頭が固いな、アークラーンの神子は」
レイシアは横にいた兵に顔を向け、
「それで、ディードは見つかったのか?」
同盟のために自らサインした書類の控えの紙を再度確認すると、興味なさそうにぐしゃぐしゃと握りしめて隣にいたフレアランドの兵に渡す。渡された兵は慌ててその紙を伸ばしながら、
「いえ、ディード殿は相変わらず行方知らずのままで」
と答えた。
「そうか、全く、このような仕事は奴の仕事だろうに」
ディードの名を聞き、シルフィアの眉が動く。
この同盟が執り行われる前に、彼女はレイシアに聞いていた。
バイン……生前はアークラーンの守護隊長であり、妻を人質に取られ祖国を裏切った彼、その妻の安否を問うたのだ。
だが、その答えは返ってこなかった。
レイシアも彼の妻の居場所は知らない。そもそも、レイシアもまた、先ほどまでバインの妻を人質にとり、スパイとして仕立て上げていることを知らなかったのだ。全てはディード一人で行ったのだと彼女は言った。
竹を割ったような性格の彼女だ、つまらない嘘をつくことはないだろう。
だが、やはりシルフィアはどこか納得のいっていない様子だった。
先ほどの「教会に提出することで――」云々もシルフィアにとって、レイシアに対する精いっぱいの皮肉だったのかもしれない。全然皮肉になっていないようにも思えるが。
「ところで、カガミ、どうだ? 私と一緒に、どちらがウィンドポーンの兵を多く倒すか勝負せぬか?」
レイシアがそんなことを言ってきた。
本当に戦闘狂だな、こいつは。
「……ウィンドポーンって前まで一緒に戦ってた仲なんだろ? いいのかよ、そんなこと言って」
「まぁ、火と風は相性がよいが、もともとアークラーンを占領したら次は風を攻めるつもりでおったからな」
「俺はできればウィンドポーンとも早く同盟を結んでもらって、捕虜には家に帰ってもらいたいんだけどな。捕虜の飯を用意するのも苦労するし」
「おぉ、そういえば解放されたウィンドポーンの兵が言っておったな。ここで出された料理が絶品であったと……もっとも、貴様に食べさせられた謎の菓子に勝る食べ物が存在するとは思えぬがな」
「謎の菓子?」
「ああ、白くてフワフワしてまるで雲を食べているかのような菓子だったぞ」
雲を食べている……あぁ、マシュマロか。俺、あのマシュマロをレイシアに食べさせていたのか。
「食べてなんともなかったか?」
「私は気を失い、サランが覚醒したぞ」
「……スウィートポテトと同じか」
……もっと単純に作れて誰でも作れる菓子のほうがいいのかな。
雲みたいな菓子で思い出したけど、綿飴……みたいな。
綿飴?
一瞬、綿飴が宙を舞い、空を飛ぶ巨大な鳥を食べる映像が脳裏をよぎった。
「…………いや、んな綿飴はないだろ」
「どうした?」
俺の呟きを聞き、レイシアが心配そうに俺の顏を覗き込む。
「いや、立ったまま変な夢を見ていた。もう大丈夫だ」
「それは大丈夫ではないような気がするのですが……少し休まれたほうがよいのでは?」
「……あぁ、そうさせてもらうよ」
シルフィアの言葉に甘えて部屋で休ましてもらおう、そう思った時だった。
「レイシア様、ご報告です!」
フレアランド兵が馬に乗って駆けつけてきた。
「ウィンドポーンの兵が撤退していきます!」
「……私がアークラーンと手を組んだ情報がもうウィンドポーンに知られたのか……つまらぬな」
本当につまらなさそうにレイシアが言った。
……本当にそれだけなのか?
ウィンドポーンの謎は多い。
シングリド砦を囲むだけと指示し、決して砦を落とすことが許されなかった第三部隊。
そもそも、ウィンドポーンはアークラーン王城に攻めてこなかった?
アークラーン王城に攻め込んだのはフレアランドの兵だけだという。
だが、シングリド砦はアークラーン王城よりもはるかに前に包囲されていた。だとすれば、ウィンドポーンも城攻めに参加する余裕があったのではないのか?
謎は深まるばかりだが、
「それでは、アークラーン国は――」
「ああ、この国での戦争は終わったってことだね……おめでとう、光の神子さん」
レイシアが笑ってシルフィアの肩を叩く。
肩を叩かれたシルフィアは涙を流して終戦を喜んだ。
確かに、今は戦いが終わったことを素直に喜ぶとするか。
※※※
「……ねぇ、クリス、チョコレートとって」
ルシルちゃんが私にそう声を掛けました。
魔王城、ここはそう呼ばれているそうです。
確かに立派な家ですが、その会議室は面妖としか言いようがありません。
何故か、草の床が敷かれ、そのうえには土足では上がってはいけない規則があるそうです。
そして、やたらと低いテーブルが置かれ、魔王軍の幹部と呼ばれる人全員で――ただ寛いでいるのです。
ちなみに、魔王軍のメンバー全員の紹介を受けました。
ほとんどは私が知っている人です。
ルシルちゃん。見た目10歳から12歳くらいの女の子ですが実は私のお父さんを殺した闇竜の娘なんだそうです。その点に関しては思うところもありますが、私のお父さんがルシルちゃんのお父さんを殺したのも事実なので、お互い不干渉になっています。
コメットちゃん。フリーマーケットの従業員で、ゴーリキさんに殺されたんですが、なんかコボルトと融合して今の姿になったとか。生きていてよかったと心から思っています。
タラくん。実はコメットちゃんを殺したゴーリキさんの生まれ変わりです。私が魔王城に来てから、何度か手合わせさせてもらいましたが、10回中7回は負けてしまうほどの凄腕の剣士です。あと、私が勝ったときはとても悔しそうな顔をするので、そのあたりは子供のようです。
カリーヌちゃん。元々スライムだったんですが、コーマさんの薬を飲んで今の姿になったとか。数万匹のスライムを兄弟として慕い、プレイルームで一緒にいつも何か話しています。一緒に遊びに行ったことがあるんですが、スライムぬるぬる地獄でした。もうプレイルームには入るつもりはないです。ちなみに、私達が戦ったスライムは、カリーヌちゃんの兄弟のスライムではなく、コーマさんが作った魔法生物だそうで、少し安心しました。
マユさん。蒼の迷宮で会った女性です。実はマーメイドなんだそうで、陸上では喋ることはできないんですが、喋る時はウォータースライムを頭から被っています。
ゴブカリくん。ゴブリンキングの素体として生きていたのですが、今はゴブリンジェネラルの新種という種族になっているそうです。ゴブリン達だけでなく、ミノタウロスまで従えている魔王軍の将軍です。
マネットくん。元はマリオネッターという魔物なんだそうです。ゴーレムを作っていて、私たちがこの迷宮で戦ったゴーレムは全てマネットくんが作って操っていたそうです。戦った感想を聞かれて素直に「スライムよりは楽でした」と答えたら、とても嫌そうな顔をしていました。
このメンバーの中にいるコーマさんの姿を想像すると……コーマさんが苦労している姿が浮かんできて、とても愉快な気分になります。
でも、そのコーマさんは今はいません。
絶賛行方不明中です。
「あの、ルシルちゃん、コーマさんをそろそろ探しに行かないと」
「どこに?」
ルシルちゃんはチョコレート(板チョコという種類らしいです)を齧りながらつぶやく。
「えっと、どこかに。情報収集とかしないと」
「……情報収集ならやってるわよ。コーマがいなくなったときの転移陣の魔力の残滓のデータは持ってきてるから、解析してるから、あと3ヶ月もしたらだいたいどこに飛んだかわかるわよ」
「……3ヶ月もですか……こうなったら、私だけでもコーマさんを探してきます」
「あの、クリスさん、よろしいですか?」
コメットちゃんがおずおずと手を上げて言う。
「闇雲に探すだけだとコーマ様は見つかりません……あの……手伝ってもらいませんか?」
「手伝って? 誰に?」
「……メイベルさんにです。私も会いに行きますから」
「え?」
「元々、私のことをメイベルさんに黙っていたのはコーマさんの魔王としての存在を他の人に知られないためですが、ギルドに知られている以上はデメリットも少ないです。メイベルさんなら商売上、様々なコネクションを持っていると思うんですが」
「……うん、それよ! コメットちゃん、急ぎましょ!」
コーマさん、必ず見つけてあげるんですから。首を洗って待っていてくださいね!




