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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
第二部 西大陸編 Episode08  六玉収集

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裏切りと暗中

~前回のあらすじ~

捕虜交換し、バインが復帰した。

 シングリド砦の中は歓喜の声で満ちていた。

 守護隊長バインの帰還によるものだ。


 全く、籠城中だというのに、のんきな奴らだな。でも、こういう雰囲気は嫌いじゃないな。

 なんだろう、どんな時でも皆揃ってのんきに食事をする、こういうのを懐かしいと思ってしまう。

 巨大な鍋の中に大量に作った料理を、手分けして器に盛りつけていく。


「バイン隊長、肉じゃがです、どうぞ」


 彼女に作ってもらいたい料理No.1の肉じゃがだが、まぁ、かなり手加減して作ったので、レシピはここでは公表しない。


「お主がコーマ殿か。なんでも私がいない間、神子様達を守ってくれたとか。礼を言わせてもらおう」

「気にしないでください、成り行きですよ。それよりこれを食べて下さい、おいしいですから」

「うむ、パリス芋と草牛の煮物か……どれ……」


 スプーンを使い、芋を半分に切って口に運ぶ。

 見ただけで素材がわかるとは、食べ慣れているんだな。


 そして、バインが芋を口に入れた瞬間だった。


「なんと、これは見事な料理だ。これは恐らく、カリアナの料理だな。以前にサクヤが作ってくれた祖国の料理というものに似ておる。芋の中までタレが染みわたっており……うむ、この肉も血なまぐささが全くない。プロが処理をしないとこうはならないだろう」


 べた褒めだった。

 あんな作り方によって作られた肉じゃががべた褒めだった。


 正直、今は料理を褒められてもあまりうれしいという感じはしない。

 できることなら、料理スキル、ちょっと減ってくれないかな。


「コーマ、神子様もお喜びだった。この味付けのベースは醤油と味醂か?」

「ああ、よくわかったな」

「どちらも私の祖国の調味料だからな。だが、このような料理は食べるのは初めてだ。ところで、コーマ、なんでビーフシチューを作ると言って肉じゃがを作るのがギャグになるんだ?」

「まぁ、説明するのは面倒だが」


 元々、肉じゃがは、間違ったビーフシチューの失敗作だった。

 ビーフシチューを留学先で食べた東郷平八郎が、その味をとても気に入って、部下に命じて作らせた。

 でも、その料理の話のイメージしかわからず、頼まれた人が作り出した人が肉じゃがだった、という話だ。

 まぁ、それも都市伝説で、実際はどうかはわからないが、少なくとも江戸時代には存在しなかった料理なのは違いない。ということは、仮にサクヤの先祖が日本からの転移者や転生者だったとしても、江戸時代以前の人間ということだろうな。


「サクヤよ。神子様にはお会いできるか?」

「ええ、神子様もバイン殿に会えるのを楽しみにしております」


 そして、二人は去っていった。


「コーマ様ぁ! 俺達の分もその極旨料理用意してください!」

「俺は外で見張りをしている奴らに持っていくから、お前等は料理長によそってもらえ」


 俺はそう言うと、料理をよそって階段を上がって行った。



   ※※※


 シングリド砦の周りを取り囲むように設置された陣の外から光の陣を忌々し気に見ていた。

 ウィンドポーンの将軍、ニコライがこちらの陣地に来たら私が一人で砦に攻めはいるはずだったのに。

 それをディードが待ったをかけた。


 そして、彼の作戦を聞き、私は苛立ちを隠せない。


「そのような作戦は聞いていないぞっ!」


 怒鳴りつける私に、だが、ディードは静かに答える。


「ですが、有効です。有効な手段を選ぶのが私の役目です。神子様には、光の結界が解除され次第、先頭に立ち、戦ってもらいます。それでいいではありませんか」

「……いいわけあるかっ! そのような戦いをしたら……」


 私は首を振る。これは私の私情だ。


「いや、いい。よくやった、ディード」


 私はそう言うと、天幕の中に戻り、小さく息を漏らした。


『レイシア、あの男のことを気にしているのか?』

「ああ、私はカガミと全力で戦うことを楽しみにしていた。でも、それも私情にすぎん……何、あいつならたとえ5000の兵と対峙しようが死ぬことは無いだろう。その時こそ、私が――」

『レイシア……君は本当にバカだな』

「どういうことだ? サラン」

『君がその気持ちの本当の意味を知ったとき、全てが手遅れでないことを祈るよ。まぁ、僕もあの男と戦うことを楽しみにしているからね』


 サランにバカにされた気がするが、私は槍の手入れをし、戦場の中でのカガミとの戦いを夢見た。


   ※※※


「いやぁ、コーマ様、御馳走さまです。おかげ様で力が湧いてきました。24時間戦えます」

「ははは、俺の料理はどこかの栄養ドリンクほどの力はないと思うがな」


 愛想笑いして。空になった皿を、アイテムバッグに入れた。

 その時だった。


 …………!?


 砦を覆っていた結界が消えた。

 何があった!?


「まさか、神子様の身に何かっ!?」

「お前は見張ってろ! シルフィアのところには俺が行く!」


 屋上から飛び降り、サクヤがそうしたように、会議室の前の廊下の窓から、中に飛び移った。

 会議室の扉は開いており、俺がそこで見たのは――シルフィアを人質に取るバインの姿だった。

 シルフィアの腕から、血が流れている。


「何故ですか、何故なんです、バイン……あなたは奥さんを殺したフレアランド軍を恨んでいたのではないんですか、どうしてそのフレアランド軍に――」

「妻は生きているのです……フレアランドに捕らわれていて、私が従わないと……申し訳ありません、シルフィア様」


 バインはそう言うと、剣を振り上げ――それを突き刺した。

 自分の喉元へと。


 血が噴き出し、会議室を血で染め上げた。

 血の噴出が止まると、バインはそのまま倒れ、動かなくなる。


 即死だ。こうなったら、エリクシールでも治療は不可能だろう。


「いやぁぁぁぁぁっ!」


 シルフィアの悲鳴が会議室に響き渡る。


「……っ! サクヤっ、ポーションだ! シルフィアに飲ませろ! 早くしないと――」

「わかっている……フレアランド軍が攻め込んでくる」

「シルフィアに結界を再び張らせるにはどのくらい時間がかかる!?」

「30分、いや、シルフィア様の今の精神状態だとそれでもできるかどうか」


 こうなったら、俺が戦うしかないのか。

 だが、俺一人で360度から攻めてくる敵と戦えるかどうか。 


「コーマ様、薬、ありがとうございます。サクヤ、結界を張ります、できる限り時間を稼いでください」

「かしこまりました」


 サクヤの姿が消えた。

 朧隠れの術か……。


 よし、俺も行くか。


「シルフィア、安心しろ……俺もなんとかしてみるから」


 そうだよな。こんな頑張ってる子を放っておけないよな。


 俺は廊下に出て、窓から屋上に飛び移り、そして外に降り立った。


 敵兵の様子がここからも見える。

 あと1分、1分あれば敵は砦内に流れ込んでくる。


 サクヤ以外は籠城のために砦に篭っている。


 でも、これだけの数、30分防ぎ切ろうとしたらそれだけでは済まない。


 俺がなんとかするしかない。

 でも、俺にできるのか?

 魔物を倒すことはできても、人を殺すことが……できるのか?

 そう思った時だった。


【できるのか、お前に】


 声が聞こえた。一体、誰の声だ?


【お前に戦えるのか?】

 

 その瞬間、俺の意識が闇に沈む。


 そして、俺が見たのは――闇に浮かぶ男だった。


「お前は……」

【見ればわかるだろ、俺はお前だよ、コーマ】


 そう、闇の中に俺がいた。


【今のおまえには、覚悟が足りない】

すみません、昨日、「明日2話更新します」と言ったんですが、1話のみの更新になっちゃいました。また明日もよろしくお願いします。

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