結界と立札
~前回のあらすじ~
光の結界を張った。
シングリド砦に到着し、サクヤを下ろす。だが、サクヤは俺のスピードに耐えられなかったのか、よろめいて俺の肩を掴んだ。
「コーマ、貴様という奴は……手加減を知らんのか」
「いやぁ、あれでも手加減したつもりなんだけどな」
俺は笑いながら、サクヤを支え、砦の中に入って行った。
兵たちが俺達を見つけて駆け寄ってきた。
「サクヤ様、御無事ですか!」
「問題ない、少し馬酔いしただけだ」
俺は馬かよ、と文句を付けたいな。
「それより、敵はどうした?」
「はっ、敵軍、南の草原、B地点南3キロの位置で陣を張っているようです」
「……そうか、引き続き見張りを頼む」
サクヤも体調が戻ったようで、自分の足で立つことに。
そして、俺達は会議室に向かった。
「コーマ様、御無事のようでなによりです」
会議室に入ると、シルフィア自ら俺を出迎えてくれた。
「あぁ、悪い、こっちがこんなことになっているとは思わなくてな……ある程度はサクヤから聞いたんだが、結界を張るのか?」
「はい、魔力が続く限り。それでコーマ様に一つお願いがあるのです」
「なんだ?」
「昨日作った芋の菓子を私にください。ライの力を定期的に回復させるにはあの菓子が一番らしいのです」
スイートポテトのことか。
しかも、手抜きで作ったほうではない、完成品のほうだ。
「あぁ、わかった」
俺はアイテムバッグからスイートポテトを、皿ごと取り出してテーブルに置いた。
「ライ、もう大丈夫?」
シルフィアは抱きかかえている光の宝玉に問いかけた。
きっと、ライと話をしているのだろう。
そして、光の膜が広がっていく。
俺達をすり抜け、部屋の外へと。
廊下に出て窓の外を見ると、光の膜は砦の外まで広がっていた。
この様子だと、砦全体を覆っていることだろう。
「一度張り終えると、誰も決して通さない。これが光の結界だ」
それは凄い話だな。
一種の聖域ってことか。
「……まるでチートだ……あれ? じゃあなんでアークラーン王城は落ちたんだ?」
「結界は万能ではない。結界の維持には精霊様の力が必要だからな。常に展開し続けたら精霊様の力は消費し続ける。それに食糧の問題もあった……それもコーマのおかげで解決したからな」
「え? 俺何かしたか?」
「……本気で聞いているのなら、私は貴様のことをバカだと思うことにするぞ」
「……悪い、冗談だ。なら、暫くは安心ってことか」
「そうはいかんだろう。私達にシルフィア様がいるように、向こうにも火の神子がいる。神子様は精霊の力を中和する能力がある。そして、彼女一人でも、この砦を落とす力は十分にあるだろう」
「一人で砦を壊すって、そいつは化け物なのか?」
「……私にとっては貴様も十分に化け物の範疇なのだがな」
いやいや、流石に俺でも一人で砦を破壊することはできない……と思うぞ。たぶん。
「それでも、まぁ、神子様というのは国のトップであり礎でもある。単騎で砦に突撃してくる可能性はないだろう。周りが止める」
「そうか、じゃあ、俺は食事の準備でもするわ。今日はビーフシチューな。ビーフシチューを作ると言って、肉じゃがを出すようなギャグはしないから安心してくれ」
「どういうギャグなのかは知らないが、貴様の料理には砦の全ての者が期待している。楽しみに待とう」
昨日のスィートポテトでだいたい手加減は覚えたからな。
水を通常の3倍の量入れてシャバシャバにして、肉は血抜きをせずに使用、香辛料の量は目分量の半分か倍の量で、最後に塩と砂糖を間違えたら完璧だと思う。
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砂糖【食材】 レア:★★
テンサイダイコン等から取れる甘い調味料。
塩とよく間違えられる。
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アイテムバッグから砂糖瓶を取り出し、説明文を読んで俺は笑った。
※※※
明朝。
フレアランド軍は侵攻を開始、シングリド砦周囲の結界を取り囲むように再度陣を構えた。
そして、私は砦を見つめる。
こちらから中に攻撃ができないのと同様、中からもこちらを攻撃ができない。
奴らの狙いは時間稼ぎ。火が光の攻略に時間をかければ、私達フレアランドの背後、アースチャイルドがいつまでも黙っている理由がない。一次的に同盟を組んでいるとはいえ、あくまでも裏切りのための同盟、それに信用などあるはずがない。
「ディード、私が一人で乗り込み、砦を破壊する。剣を持て」
私が軍団長のディードに命じた。
「お待ちください、レイシア様……それはいけません」
「私一人だといけないというのか?」
「そうは申しておりません。ですが、シングリド砦内では、今現在、ウィンドポーンの第三部隊、ニコライ将軍が人質になっています。姫様の攻撃で彼にもしものことがあれば今後の外交において不利になりかねません。まずは彼をこちらに引き込みましょう」
「方法はあるのか?」
「……人質の交換をいたしましょう。絶対に向こうは食いつきます」
ディードはそう言うと、部下に命じてある男を連れてこさせた。
※※※
「いやぁ、籠城生活がこんなに最高だとは思わなかったぜ」
「あぁ、コーマ様のおかげだな。いっそ、この砦の料理長になってくれないかな」
「馬鹿言え、コーマ様は戦いが終わったら宮廷料理人になるのは間違いないだろ」
兵たちの言葉を聞き、俺は苦笑していた。
「随分人気ではないか、コーマ様」
「からかうな。それより、本当に囲まれてるな、大丈夫なのか?」
「わからん……今は信じるより他はない。だが、コーマ、貴様はわが軍の所属ではない。その料理の腕だ、フレアランドの捕虜となってもすぐに解放され、料理人として生きていけるだろう」
「料理人として生きていくつもりはないんだけどな」
俺は苦笑しながら朝食の芋のソテーを食べた。
ちなみに、これを作っているのは料理長だ。そこそこおいしい。
朝食と昼食は料理長を含めてこの砦のシェフが、夕食は俺が作ることになっている。
1000人分以上の料理を作るのは骨だ。
「そうですな、コーマ殿にはぜひワシの跡継ぎになってもらいたいものです」
「ザッカ将軍、頼むからそういうややこしい話もやめてくれ」
おれがげんなりした口調でつぶやいたときだった。
一人の兵が走ってきた。
「ザッカ将軍、サクヤ様! フレアランドより使者が参り、木札を立てていきました」
「なんと書いてある?」
と、サクヤが訊ねる。
「向こうの要求はニコライ将軍他第三部隊9名の解放。その代わりに、守護隊長バイン様及びこちらの捕虜9名の身柄を引き渡すそうです。可能ならばその間の結界の解除を要求しています」
「バイン殿!? 生きておられたか! シルフィア様もお喜びになるだろう」
……なんか知らないが、サクヤの顔を見ると良いことが起きたようだ。




