会議と餌付け
~前回のあらすじ~
草牛を狩った。
シングリド砦内に火急の知らせが舞い込んだのは昼前のことだった。
アークラーン王城より、フレアランド軍が出兵、こちらに向かってきている。
兵を率いるのは、火の神子レイシア。
戦いの準備を早急に整え、迎え撃つか籠城か、それともさらに逃走をするか決めないといけない。
レイシアの――火の精霊サランの力があれば、いかに頑強な砦とはいえ何時間もつか。
「サクヤ、あなたはどうするべきだと思いますか?」
戦いに不慣れなシルフィアが私に意見を訊ねた。
「光の結界がなければ籠城は不可能です。シルフィア様、精霊様の力はどの程度回復していますか? 結界を張ることは可能でしょうか?」
「ライに関しては心配ありません。昨日、コーマ様が用意してくださったスイートポテトを食べたことで、ライの力は全快しています。時間さえあれば結界を張ることはできます」
……まさか、コーマの料理の威力がそこに影響しているとはおもわなかった。
ならば、籠城は可能……だが、それも1ヵ月が限度か。
「私が遊撃し、相手をけん制しながら籠城の準備をいたしましょう」
光の結界を張る時間くらいは稼げるだろう。
「神子様ぁぁぁぁっ!」
「ザッカ将軍、落ち着いてください」
「南からフレアランドの軍が向かってきているという報告を受けましたが、真ですか!」
「ええ。その対策を今話し合っているところです」
「大変だ、コーマ殿が、現在南の草原に草牛を狩りに向かっています!」
…………なんだと?
報告によると、フレアランド軍はそこを通る。コーマと鉢合わせにならないはずがない。
コーマの顔は、すでにあいつが殴り倒した敵兵達に知られ渡っているし、ウィンドポーン第三部隊の残等兵から、フレアランドに報告が行っているだろう。
……いや、コーマなら心配ないか。
フレアランド軍を見つけ次第撤退することは可能だろうし、火の精霊の力を借りたレイシアを相手にでもしないかぎり、あいつが遅れをとるとは思えない。
「彼なら心配ないでしょう。ザッカ将軍、兵を20名ほど貸してもらえないでしょうか? D地点で敵を発見次第、打って出ます。その間に結界を張る準備をなさってください」
「おぉ、神子様の結界があれば百人力じゃ。わかった。我が隊選りすぐりの兵に用意しましょうぞ」
ザッカはそう言うと、会議室を出て行った。
百人力? ジリ貧でしかない。
いや、コーマが畑を蘇らせてくれなかったら、籠城することすら不可能だった。
彼が作ってくれた時間だ、大切にしないといけない。
「サクヤ様、偵察に出ていた兵より、コーマ様を発見したとの報告が」
「……そうか、無事なのか?」
「それが……」
兵は何か言いよどむように口を噤んだ。まさか、彼の身に何かあったのか?
会議室に緊張が走った。
私とシルフィア様だけではない、彼の武勇をその目で見た者、噂で聞いた者、彼の力に私達はどこか頼ろうとしていたようだ。
その緊張を感じ取ったのか、兵は慌てて首を振り、
「いえ、コーマ様は、その、道で草を摘んでいるようです……ドラゴンの巣で」
『…………はぁ?』
会議室の全員が耳を疑った。
※※※
天井が裂け、光が差し込む、偶然見つけた洞窟の中。
俺はある魔物達と対峙していた。
オーガもいいが、やっぱりファンタジー世界といったら、こいつだよな。
気分はジュ○シックパークになる。男の憧れともいえる魔物。
ドラゴンだ。
ドラゴンといっても、二本足で立つ小型の黒い草食恐竜みたいな見た目で、とてもかわいらしい。
「ほら、しっかり食えよ」
彼らはアイテムバッグの中にある「魔物餌」を食べて喜んでいた。
魔物餌は何故かアイテムバッグの中に大量に入っていた。まぁ、ルシルは魔王の娘だからな、魔物用の餌も用意していたのだろう。
餌も喜んで食べているし、また草を摘ましてもらうか。
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ドラゴン草【素材】 レア:★★★
ドラゴンが好んで食べると言われる草。
魔力が多く含まれており、人間には毒。
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草にしてはレア度も高いし、何かに使えるかな?
錬金術を試してみたいから、その材料にしたいと思っている。
「それにしても多いなぁ、一体何匹いるんだ?」
見た目は草団子と変わらない魔物餌を投げると、一匹のドラゴン達はジャンプして口でキャッチした。
「面白いやつらだ。今度、サクヤやシルフィアを連れて遊びに来ようかな」
そう言った時、後ろから気配がした。
「……何をしている、コーマ」
そう言って洞窟の中に入ってきたのは忍び装束を着た少女――サクヤだった。
「おぉ、サクヤ、こいつらと仲良くなってな、遊んでたんだ」
「……絶対に人に懐かないと言われる狂走竜を飼いならしておいて、何が遊びだ……」
「……え? こいつらめっちゃ人懐こいぞ?」
一頭の狂走竜というらしい竜は俺に頬を寄せてきた。
それに、俺は「ほら」と顔を向ける。
「まぁいい。敵軍が動き出した。砦に戻れ――ここは戦場になる」
「そうか、じゃあ戻るか」
サクヤと俺が洞窟を出ると――狂走竜がついて来た。
ちょっと早く走ってみると、走ってついて来た。
「……なんだろうな、餌をあげた捨て犬がずっとついてきてしまった男の子って、こんな気持ちなんだろうな」
「……言っておくが、連れて行けば、彼らを戦争に巻き込むことになるぞ」
「あぁ、それは嫌だな」
俺はアイテムバッグから魔物餌を20個取り出して宙に投げた。
狂走竜達の視線が上へと向かう。
その時、俺は咄嗟にサクヤを抱きかかえ、
「舌を噛むんじゃないぞ!」
そう言って、全力で走って行った。




