狩り勝負と男の義務
~前回のあらすじ~
コーマとレイシアが鉢合わせ。
「助太刀だと? 愚かな、私に助太刀など必要ない」
私はそう言って男を見据えた。
だが、男は一歩も引きさがろうとしない。
「だから悪いと言っただろ。今夜は肉料理をしようとしているのに、全部黒焦げにされたらこげ肉しかできないだろ。爺さんに交換してもらえなかったら金策にも使えないぞ、下手したらスタミナが減ってしまう」
言っていることが半分もわからない。
「…………貴様は狩人なのか?」
「ああ、そんなもんだ。今夜の晩飯を狩りに来た」
……こやつは、私がフレアランドの神子だと気付いていないのか?
それにしても、先ほどの剣捌き……剣本来の切れ味もそうだが、草牛をあの一瞬で切り裂く力はフレアランド軍の将軍クラスですら遠く及ばない。
もしかしたら、私よりも――この男が?
「つまり、貴様はこの牛を狩りに来たというわけか」
「あぁ……そうだ」
ウソはついていない。彼の持つ剣を見れば、その程度はわかる。
「貴様、狩人なら目はいいだろう。草牛が何匹いるかわかるか?」
「89匹だ」
「ならば勝負をしようではないか。私と貴様、どちらが多くの草牛を倒すか」
「なんで勝負なんてする必要があるんだ?」
なんで? 言われて私は考えた。
その間に牛が3匹私に突撃をしてきて、焼け焦げ、3匹が目の前の男に突撃してきて殴られて昏倒していた。
……なんて馬鹿力だ。面白いやつだ。
「そうだ、面白そうだからだ」
「くっ、いいな、その答え。いいぞ、勝負するか」
直後、私の槍が燃え上がった。
火を怯えるのが獣の性のはずなのに、目の前の牛たちは逃げ出そうとしない。
部下にしたいくらいの勇猛さだが、今はただの獲物だ。
私の槍が、草牛の脳を、心臓を、首を、急所を的確に焼きながら突いていく。
その数を数えながら。
14、15、16。
肩越しに後ろをみると、ちょうど男が草牛を蹴り飛ばしていた。
腕力も化け物なら脚力も化け物だな。面白い男だ。
これだと勝負は五分と五分か。面白い、私と対等に戦う者が現れるなど10年振りだろう。
前から襲ってくる草牛の急所を的確に。
38、39、40。
草牛の数がみるみる減少していく。
突撃してくる草牛を飛び越え、背中を槍で突き、絶命させた後、私は大きく宙返りした。これで41。
89匹のうち6匹は開始前に倒したから83匹、残りの牛を探す。
牛は最後の一匹になっていた。その牛に男は剣を振るおうとし、
「火炎弾!」
槍から炎を飛ばして、男の剣が届く前に私の炎が命中した。
「これで42、貴様は41、どうやら私の勝ちのようだな」
「あぁ……参った、まさか負けるとは思わなかったよ」
男は笑ってそう言うと、死んだ牛を鞄の中に入れていった。
牛を鞄に入れるとは……そういえば、アイテムバッグと呼ばれる魔道具が東大陸で発明され、今後兵糧を運ぶのに使えないか検討していると言っていた。
あれがそうだとしたら、なるほど、確かに兵糧を運ぶのにはちょうどいいだろう。
『うれしそうだな、レイシア』
サランが声をかけてきた。
「勝負に勝ってうれしくないわけがないだろ」
『勝った? 背中を守ってもらっていて?』
「何?」
背中を守ってもらって?
どういうことだ?
私はサランに言われて、戦いの中を思い出す。
確かに、前から草牛が何度も突撃してきていたが、後ろから草牛が襲ってくることは一度もなかった。
もちろん、後ろにも警戒していたし、何かあれば迎撃することは余裕でできた。
戦いの中では疑問にも思わなかったが、あの男は私の背中を守って戦っていたというのか?
それでいて、私と一体差の勝負をした?
いや、勝負などではない。奴は、私を下に見ていた。
昏倒させていた草牛のトドメを刺し、アイテムバッグに入れる男を見て私は彼に興味を持った。
「私が勝ったんだ、名前を教えてもらおうか」
「名前くらい勝負に勝たなくてもいつでも教えるぞ。火神光磨だ。火神でも光磨でもコーマでも、好きに呼んでくれ」
「カガミか……私はレイシアだ」
「レイシアか、可愛い名前だな」
そう言って、カガミはにっと笑った。それに、私の中の炎が爆発しそうになるくらい燃える。
「何故、私を守りながら戦った?」
「なんのことだ?」
「とぼけるな、貴様、私を背中から襲おうとしている草牛を優先的に倒していただろう」
「あぁ、そのことか。別に意味なんてないよ」
カガミはそう言って頭を掻き、何か思いついたように手を叩いた。
「可愛い女の子を守るのは男の義務ってことでどうだ?」
「……ふざけてるのか?」
可愛い? 私が可愛いだと?
戦神と言われ、美しいと言われたことはあるが、可愛いなどと言われたことは神子になってこれまで一度もなかった。
「まぁ、本音でいえば、こんな遊びで女の子を怪我させると寝覚めが悪いから、ってのが理由なんだけどさ。そう言ったらプライドの高いレイシアが怒りそうだしさ」
「怒る訳ないだろうが!」
「ほら、怒ってる」
カガミに指をさされ、私は顔が熱くなる。どうもこいつと一緒にいると調子が狂う。
「でも、可愛いって思ったのも本当だぞ」
カガミは彼がとどめをさした最後の草牛をアイテムバッグに入れると、私に向かってにっと笑った。
私のことを可愛いといったのは、子供のころ、よく一緒に遊んだ貴族の娘くらいなものだ。
「……カガミ、そなた、これからどこに行く?」
「あぁ? 牛も十分獲れたし、砦に帰るよ」
「砦?」
「シングリド砦だ。あそこでちょっと世話になっているんだよ」
その瞬間、私は理解した。
オーガのように強い男。ニコライ将軍を単騎で撃ち破った男。
目の前の男がそうなのだろう。
これもまた運命か。
「そうか。草牛で料理を作るのか?」
「ああ、ビーフシチューでも作ろうかって思ってる。レイシアも来るか?」
「遠慮しよう。私も待ってる者がいるのでな」
「そうか、じゃあ、またな」
カガミはそう言うと、笑顔で去って行った。
草原には肉の焼けた匂いだけが周囲に残る。
「またな……か」
風のような速度で去りゆく彼を見送り、私は小さく微笑んだ。
このように笑うなど、いつ以来のことだろう。
『レイシア……』
「何も言うな。わかっている」
次に戦うときは敵同士だな、カガミよ。
暫くして、兵たちがやってきた。私は部下に命令し、今日はここで陣を張らせる。
本来なら、これからシングリド砦を急襲する計画だったが、予定変更だ。
肉は焼き立てを食べないと美味しくない。
それに、ビーフシチューはよく煮込んだ方が美味しいからな。
コーマがはっちゃけすぎている。




