狩りと草牛
~前回のあらすじ~
スイートポテトヘブン
目を覚ましたときは朝だった。
昨日はうまい目にあった。食事って、極めたら凶器になるんだなぁと実感。残り6つのスイートポテト、そして、冷やし固まったマシュマロは封印だな。
砦の中を歩くと、中庭に出た。中庭では兵たちが剣を振るっている。みんな、自分の国のために頑張ってるんだな。
素振りを指導しているザッカは、俺に気付くと手を振って歩いて来た。
「コーマ殿、昨日は馳走になりました。おかげさまで兵たちも活気が溢れています」
「みたいだな……シルフィアとサクヤは?」
「二人でしたら、今、会議をしております。ワシは堅苦しいのは苦手で、そういう頭を使った仕事は副官に任せておりますが」
ワハハハと、ザッカは豪快に笑った。それは上に立つ者として問題ではないのだろうか?
会議の内容は気になるが、まぁ、俺はここでは新参者だしな。口を出すべきじゃないだろう。
なら、俺も俺ができることをしておくか。
「あぁ、俺も何か手伝おうと思ってるんだが」
「それでしたら、また皆の食事を作っていただければ――」
「んー、でも芋しかないからな。凝った料理を作りたい気分なんだ」
料理の工程が多い方が、手を抜くヶ所も増えるってもんだしな。
単純な料理は手抜きが難しい。
「そうだ、狩りにでも行ってくるよ。このあたりに魔物以外の良質の肉が取れる動物っているか?」
この世界には魔物とそうでない動物とがいる。
魔物は倒せばドロップアイテムを落として消えてしまうが、普通の動物はその限りではない。
「……おぉ、狩りに行かれるのですか、それでしたらワシもお供を……」
「いや、一人でいいよ。ザッカ将軍も忙しいだろうし、第一、将軍が砦から離れるわけにはいかないでしょ」
「そうですか、ぜひともコーマ殿の武勇をもう一度この目で見たかったのですが……狩りでしたら、馬を3時間ほど走らせた南の草原に草牛がいます。手ごわい動物ですが、まぁ、コーマ殿の武勇を聞く限りでは楽々倒せるでしょう」
そう言ってザッカは一枚の地図を出して、草原の場所を示した。
地図で見ると砦からとても近いように思えるが、馬で3時間なら相当な距離があるのだろう。
「その牛って、倒してもいいのか?」
「ええ、かまいません。あの近くの小川が、精霊の湖から流れ出た川でして、魔物を寄せ付けません。そのため、天敵のいない草牛は数が増え、草原の草を全て食べてはその数を減らし、草が再び生えたらまた数を増やす……を繰り返しています。そのため、ある程度狩ったほうが彼らにとってもいいのです」
「……なるほど、間引きってわけか」
それなら気兼ねなく狩らさせてもらおう。
「それでは馬を用意しましょう」
「あぁ、いらないいらない。ちょっと走ってくるよ」
俺はそう言うと、止めるザッカの声を聞かずに走って行った。
この世界に来て、今日で四日目。初日は異世界の能力に戸惑いながらも楽観的に、二日目はフライドチキンに襲われそうになりながらも短絡的に、三日目はスイートポテトで天国に行きそうになりながらも楽天的に考えていた。
そして、今日。
自分のスキルや身体能力、そういうものを正しく理解しないといけないのではないか?
そう思ってきた。
「というわけで、楽しく全力で牛狩りにいきますか!」
俺はそう言うと、軽くステップし、草原に向かって走って行った。
その速度は、GI優勝馬の速度を軽く超えていたという。だが、残念ながら音速の壁は厚かった。
※※※
「レイシア様、暫くここでお待ちください」
部下の指示に、私の行軍が止まる。
昨日、朝早くに届けられた部下からの報告。
一昨日、ウィンドポーン軍、ニコライ将軍率いる第三部隊壊滅したそうだ。その奇跡ともいえる勝利の立役者は、謎の男。無数の鳥を操り、単騎で戦場を縦断、敵を混乱に貶めて壊滅状態にまで追い詰めたという。
敵の将軍、オーガを一人で数十匹倒したというザッカ将軍との戦いが唯一の楽しみと思っていたが、まさかの伏兵の出現が私の鼓動を高鳴らせた。
火の神子として見出だされた幼少の頃より、ただ神子としての生き方のみを教えられてきた私にとって、戦いとは燃えるものでなくてはいけない。
弱い者をいたぶるものではない、強い者に挑むことこそが戦いなのだ。
赤い毛並みの愛馬――マクスルに跨り、私達は北のシングリド砦を目指した。
本来なら鞭を使い、その噂の男がしたように、単独で敵陣に乗り込みたいのだが、神子という立場がそれを許さない。
神子として培われた願望を、神子の立場が阻害するとはなんとも皮肉ではないか。
だが、気になるのはその男のことだけではない。
『…………今はライの気配は感じない』
私の懐にある宝玉から、炎の精霊サランが声をかけた。この子は昨日から様子がおかしかった。
なんでも、シングリド砦にいる光の精霊、ライの気配が途端に大きくなったというのだ。
その力は強大でアークラーン王城にいても感じ取れるほどだったという。
精霊の力を強める儀式があったのだろうか?
だとしたら、油断はできない。
サランもまた、私と同じ、強い者との戦いを求む精霊だ。
昨日のライの気配を感じ、勝負したいと思ったのだろう。
その気持ちが私と繋がり、私を戦いへと誘おうとする。
だが、部下の男は私に前に出てよいと言わない。
「一体、何があった?」
「はっ、斥候をしていた兵によると、草牛の群れが移動中でして、刺激をしては軍に被害がでます。通り過ぎるのを待っているところです」
「……なんだつまらん。料理長に伝えておけ。今日の夕食はステーキだとな! それと、誰も私を追うな! 私を追った者は厳罰に処す!」
私はそう言うと、マクスルとともに草原を駆けて行った。兵は誰も追ってこない。私の力を知っているからか、私の厳罰が怖いのかは知らない。
両方だろうと思い、槍を構えた。
目の前には草牛が約100頭広がって、西に向かって移動していた。
あと20分もしたら移動を終えていただろう。悪いね、気が短くて。
『レイシア、僕も力を貸そう!』
「あぁ、共に戦おう、サランよ! 顕現しろ、炎!」
槍の先端に炎が灯った。
私がやりを突くと、炎の球が飛び出し、草牛を一頭丸焼きにした。
だが、草牛も草食動物にしては獰猛な種族、これで逃げ出すどころか、私を取り囲む始末。
全員が私と戦うつもりのようだ。
面白い、挑むのも好きだが挑まれるのも悪くない。
私が槍を再度構えたときだった。
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
大音量の声がした刹那、目の前の三匹の草牛が、上下に両断された。
そして――崩れ落ちる草牛の奥に彼はいた。
黒い髪、左袖のない黒のジャケットを着た、そして銀色に輝く剣を持った男だ。その男は私を見ると、笑顔でこう言った。
「悪いが、無理矢理にでも助太刀させてもらうぞ」




