落城と謎の男
~前回のあらすじ~
「エンシェントノヴァ!」⇒コーマ爆死。
光の国アークラーンの120年にも及ぶ仮初の平穏が崩れたのは一週間前のことだった。
長年において緊張関係が続いていた隣の国、
風の国――ウィンドポーンと、火の国――フレアランドが同時に攻め入ってきた。予期せぬ事態に国境砦は僅か一夜にして崩壊。
フレアランド側とウィンドポーン側、双方に出兵指示をだすも、部隊はことごとく壊滅。
籠城を余儀なくされた。
民の大半は家財を持って南のドワーフ自治領に避難し、僅か100人が城に残った。
今は光の結界で守られているが、この結界もあと3日が限度だろう。
だが、無意味な籠城などではない。そもそも、120年もの間、偽りとはいえ平穏な日々が続いていたのは、水の国と土の国、両国との同盟によるものだ。
この大陸には六つの国があり、中央にある巨大な湖――精霊の湖を囲むように並んでいる。
北が闇の国ダークシルド。北東が土の国アースチャイルド。南東が風の国ウィンドポーン。南が光の国アークラーン。南西が火の国フレアランド。北西が水の国アクアポリス。
それぞれ六精霊を守護し、神子を代表とする国である。
そして、フレアランドがアークラーンに攻め入ったときはすかさずアクアポリスがフレアランドに攻撃をし、ウィンドポーンがアークラーンに攻め入ったらアースチャイルドがウィンドポーンに攻め入る。
そういう手筈になっている。
だから、時間を稼げば不利になるのは相手の方、そう思っていた。
密偵からの返事が来るまでは。
夜、敵の攻撃が静まった頃。
玉座の間に座り、兵たちから報告を受けていた私の元に、彼女が突如戻ってきた。
「緊急事態です、シルフィア様!」
そう言って現れたのは、私直属の密偵、サクヤだった。
光の神子である私に仕える、東大陸のカリアナという都市にいる忍びという一族の者で、情報収集のプロだ。忍び装束と呼ばれる黒を基調とした服を着ている。
普段はマスクで顔を覆っていて、冷静沈着な彼女。
その彼女がとても慌てた様子だというのだから、ただ事じゃないのは私にはすぐにわかった。
「土と水が裏切りました。彼女達は北の闇を攻撃中、こちらに援軍を送りません」
「……まさか」
いや、挟撃された時点で予想していた物語でもあった。
つまり、火、風、土、水の四国が手を組んだのだ。120年という長い均衡に油断していた光と闇を打ち落とすには良い手段だ。
しかも、この時期、闇の神子が代替わりするにあたり、東の大陸に巡礼に赴いている。だとすれば、闇もまた落ちるだろう。
「……皆を呼んでください、王家の抜け道を使い、そこから脱出します」
そう言うと、私は光の宝玉を持つ。宝玉の中から子供のような声が聞こえてくる。
『ん? シルフィア、お出かけかい?』
「うん、大丈夫だよ、ライ。良い子だから大人しくしててね」
この子こそ、この光の国の守護精霊、ライ。普段は光の宝玉の中で寝ているけれど、私達神子にとってはとても大切な存在だ。この子がいなければ、光の結界も維持できない。
彼女を大事に抱き、私は集まった兵たちに指示を出した。
「私の力不足により、皆さんをこのような危ない目に合わせてしまい、申し訳ありません。ですが、光の守護精霊の加護がある限り、私たちが滅びることはありません。今からここを脱出し、散り散りになった皆を集め、再起を図ります」
実質の敗北宣言に、皆の顔が暗くなる。
それを打ち消すかのように、守護隊長のバインが一歩前に出て言った。
「お待ちください、神子様! 皆で脱出すれば、すぐにでも敵兵が攻め入り、この抜け道の存在が奴らに見つかります。そうなれば、逃走経路を割り出され、神子様に危険が降りかかります。私がこの場に残り、抜け道を爆破、そして穴を塞ぎます」
「バイン! それはなりません! そうなれば貴方が――」
「私の命はすでに国と光の精霊様に捧げております! さぁ、どうかお急ぎください!」
覚悟を決めたバインの目を見て、私は悲しくなりました。
バインは私が幼少のころ、彼が新兵として入ってきたときから面倒を見てくれました。部下からも信頼のある男だった。
ライが私とともに秘密の抜け穴に入り、結界の外に出たら、それと同時に結界が砕け散り、敵兵が中へとなだれ込んでくる。そうなれば、間違いなくバインはこの世を去るだろう。
私の力不足で。
「急ぎましょう、シルフィア様」
「わかりました。ですが、バイン。このシルフィアが命じます。決して死なないでください」
「脱出口を破壊した後、脱出を試みます。なぁに、守護隊長を任じられたこの身。倒せる者がいるとすれば、死んだ女房くらいなものです」
彼の冗談に、私は悲しく笑い、そして脱出口へと入って行った。
先頭をサクヤが進み、近衛兵たちがそれに続き、蜘蛛の巣などを取り除いていく。
私がその後を続き、近衛兵、城に残された民と兵たちが続く。
歩くこと2時間。
王家の扉へとたどり着いたところで、サクヤが立ち止まりました。
「扉の向こうに誰かいるようです。数は一人」
その言葉に緊張が走る。
近衛兵たちは剣を抜き、サクヤもまたクナイと呼ばれる忍びの短剣を取り出した。
そして、サクヤは指で合図を送り、扉を乱暴に開けてその気配に跳びかかった。
「シルフィア様、大丈夫です」
サクヤの言葉で私が扉を潜るとそこにいたのは――布団で寝ている黒髪の男の人だった。
武器である剣をとりあげたようだ。
武器を取られても目を覚まさないのは剣士としてどうかと思う。
彼の上に光の球(にしては薄暗いが)が飛んでいるのを見ると、光属性の魔法使いなのだろう。
光属性は攻撃魔法が少なく、仮に他属性の魔法を持つ二属性魔術師であり、不意をついて魔法を使われても、サクヤなら詠唱を終える前に喉を切り裂く腕前はある。
ただ、一応は敵である可能性もあるため、ここで簡易ではあるが、取り調べをすることにした。
私達のことを他国の者に言われるわけにはいかないため、相手の素性がわかっても解放することはできないが、できる限りの配慮はしよう。
近衛兵と一部の兵は外に出て安全の確保を向かった。
戦うことのできない一般人はここで待機、そして、サクヤと私とで彼を取り調べることにした。
「おい、起きろ!」
サクヤが男の頬を二度、軽くたたく。
「ん……朝か……」
そう言って男はゆっくりと起きて、
「うわっ、なんだお前たち、もしかして盗賊!? テンプレだけどここ盗賊のアジトだった? あ、でもさっきまでオーガが大量にいたから盗賊のアジトってことはないか。それに二人とも美人だし。あ、俺の言葉わかる?」
美人と面と向かって言われたことがないので、私は一瞬ドキリとしましたが、それ以上に前の言葉が気になりました。
「……ここにオーガがいたのか?」
サクヤが問いかける。
オーガといえば、ゴブリンと同じ妖人種の魔物だ。食肉鬼とも呼ばれ、兵が小隊を組んで倒す魔物で、もしも本当にオーガがここに大量にいたのだとしたら、ここを通り抜けるのに多くの犠牲がでていたかもしれません。運よく外に出ているようで助かりました。
「あぁ、10体ほどだけどな。てか、あんた達誰だ?」
「私はアークラーン国12代目神子、シルフィア・ペス・セルビアです」
「へぇ、偉い人なのか?」
「貴様は本当に神子様を知らないのか……ウソを言っているようには見えないが、呆れたな」
サクヤは嘆息混じりにそう言って、武器をしまいました。
「とりあえず、身分を証明できるものってあるか?」
「身分を証明できるもの……そんなもの……あったわ」
男は腰の鞄を漁り、一枚のカードを取り出した。
冒険者ギルドから発行されているカードで、名前も記してある。身分証明書としては確かに有効だ。
サクヤはそのカードを受け取って確認する。
「名前はコーマ、冒険者ランクはFか。偽造の可能性もあるから預からせてもらう。それより――」
「神子様! 大変で……ぐわっ!」
背後から悲鳴が上がった。
振り向くと、兵が倒れていた。
そして、その向こうには、フレアランドの兵の姿が。
バインが脱出口を爆破する前に殺されたということか。
……くっ。
「もしかして、あいつら悪いやつなのか?」
「我が国に攻め入った侵略者です。あなたはこの戦いには関係ありません。すぐに逃げてください」
「……シルフィアは良い人みたいだな」
コーマという名の彼はそう言うと、私に笑いかけ、そして兵たちの方へと歩いていった。
もしかして、彼はやっぱりフレアランドの―――そう思った時。
「なんだ、お前は。やろうっていうのか?」
「かまわねぇ、斬りかかれ」
男達が剣を振りかざして、コーマさんへと斬りかかりました。
やっぱり彼はスパイなんかじゃなく紛れもない一般人――危ない!
だが、フレアランドの兵たちの剣が二つに折れました。
コーマさんはあろうことか、二本の剣を右腕で受け止めたんです。
「やっぱりこの服も相当チートだな。じゃあ、今度はこっちから行くぞ」
コーマさんはそう言って、拳をフレアランド兵の鳩尾に――ただし鉄の鎧で守られた部分に振るいました。しかも両手で二人に対して同時に攻撃したんです。普通ならあんな攻撃でダメージが通るはずがありません。
ですが、私には見えなかったんです。
彼が拳を構えてから鎧に当てるまでの動作がまるで見えなかった。
一瞬のうちに鎧まで到達した彼の拳は、そのまま二人を通路の奥へと飛ばしていき、まだ中にいたであろう他の兵に命中したのか、悲鳴を何重にも響かせながら消えていきました。
「お前は一体――いや、詮索している場合ではない。シルフィア様、一刻も早くここから脱出しましょう」
「はい。そうですね。コーマ様もぜひご一緒に。助けてくださったお礼もしたいですし」
「あぁ……ってちょっと待て。何をしようとしているんだ?」
コーマさんはそう言って、背中を斬られて動けなくなった部下の首にクナイを突き刺そうとしているサクヤを呼び止めた。
「彼の傷はもう助からない。とどめをさしてやらないと苦しみが続く」
「あぁ、それならこれを使え」
コーマさんはそう言うと、鞄から薬瓶を取り出して、兵に飲ませました。
あれはポーションでしょうか。ですが、あれはもう死に至る傷、そうサクヤが判断したんです。僅かに痛みがマシになる程度で、むしろ苦しい時間を長引かせるだけだと思った……のですが。
コーマさんが無理やりにも近い形で兵に薬を飲ませると、
「あれ? あれ?」
薬を飲んだ男の顔色が一瞬でよくなり、自分の背中を触り始めた。
「治ってる、はは、なんだこれ、治ってる」
「よかったな。じゃあ、脱出しよう」
これにはサクヤも驚き、声も出ませんでした。
なんなんでしょうか、彼は。
オーガよりも強い力を発揮し、かと思えば治らないと思われた怪我を治療できる不思議な薬を持っていて、にもかかわらず冒険者ランクは下から二番目のF。
一体、彼は何者なのか。
もしかして彼は――私達を救うために天が遣わした救世主なのではないでしょうか?
ルシル相手に偉そうな話し方をしていたせいで、コーマも話し方がかなり横柄になっている。不敬罪で処刑されなくてよかったね。
Newヒロイン
光の神子:シルフィア
御庭番くノ一:サクヤ




